第29話 森王国へ向かえ

 仕事をしていたら、国の役人がやって来た。


「おう、なんだなんだ」


「アキサク、お前のところで働いているウーサーという男がいるだろう」


「おう、それがどうした」


「商業国議会から招集が掛かった。同行願いたい」


「なんだとぉ」


「落ち着けアキサク。悪い意味ではない。国の今後が掛かっている」


 ……ということで。

 俺とミスティが、エルトー商業国の中枢に呼ばれることになったのだった。


 保護者として、アキサクがついてきている。


「アキサク、店は良かったんすか」


「バカ言うな。お前を連れて行かれて、のんびり店をやってられるほど俺は図太くねえよ」


 いい人だなあ。


「アキサクさん優しいねえ」


 ミスティに褒められて、「バカ、よせやい!」と照れるアキサクなのだった。

 連れて行かれたのは、この国のど真ん中。


 思えば、一度も行ったことがなかったなあ。

 真四角な大きい建物があり、これが議会堂という、この国の政治を司るところなのだそうだ。


「王様に会うことになるのか……」


 俺が呟いたら、アキサクが笑った。


「この国に王はいねえよ!」


「えっ、そうなのか!?」


「おう。エルトー商業国は、この国で一番金を持ってる商人たち五人が動かしてるんだ。その内の一人が、最近城壁の修理をしたりして金が大いに動いて儲かってるらしいな」


 あの城壁修理か。

 しかし、王様がいない国というのは想像がつかない。

 どうなってるんだろう?


 どうなっているのか。

 すぐに分かった。


 この国、形式とかでのんびり人を待たせたりしないのだ。

 議会堂の扉をくぐった俺たちは、そのまますぐに建物の中央まで案内された。


 会議場になってるらしい。

 そこに、じいさんが二人いた。


「おう、来たか来たか」


「スムーズに来てくれて嬉しいよ。時は金なりだ」


 にこやかな感じだな。


「こいつらを呼びつけるって言うから、俺も付いてきたんだが、一体どういう了見だ?」


 アキサクが尋ねる。

 対するじいさん二人は、太っちょと細いのがいた。


 ニコニコしている太っちょが口を開いた。


「なに。そこにいる少年の両替能力と、少女の持つ運命を引き寄せる力についてだ」


「!?」


 俺とミスティは緊張した。

 全部知ってる……!?


 細いじいさんが言葉を続ける。


「我々とて馬鹿ではない。強大な力を持つスキル能力者を刺激して、争いを起こそうとは思わない。だが、先日の戦争はその少女を求めてエムス王国が起こしたものだろう? 戦争は出費にはなるが、勝って敵から賠償金を奪わねば赤字になる」


 そういうものなのか。

 戦争でまで金が動いているのだ。


「それでだな。エムス王国とエヌール公国が手を組み、そこの少女を目的にこちらへ再び侵攻しようとしている。ああ、そこの少女を召喚した大臣は処刑されたらしい。今度は国として、運命の女を手に入れるべく動くという話だ」


 とんでもない規模の話になっていた。


「お、俺たちをどうするんだ」


 喉がカラカラになる。

 めちゃくちゃ緊張する。


 アキサクが剣呑な空気を発した。

 偉い商人二人を前にして、怖いものが無いなこの人。


 だが商人たちは、ニヤリと笑った。


「チャンスだろう。あと三人は己の権益を確保するために動いている」


「我々はな、この機会にエムスかエヌール、どちらかを取り込み、市場にしてしまおうと考えているのだ」


「そのためには、ウーサー、ミスティ。お前たちは一時的に国を離れてもらう必要がある」


「奴らの大義名分を失わせるためだ。その話をするために呼びつけた」


 な、なんだってー!?


「化け物どもめ」


 アキサクがぶつぶつ言っている。

 まとめると、どうやら俺とミスティの事は、この国の上に知られていたらしい。

 その上で、俺たちを利用して、エムス王国とエヌール公国を罠にはめようという話なのだ。


「ガキどもを利用したらただじゃおかねえぞ!」


「アキサクくん、本当に君は若い頃から怖いものを知らんな」


 これにはじいさんたちも呆れたようだった。

 アキサク、自己保身とかそういう計算ができない男だ。


 こうして俺たちは、エルトー商業国から正式に依頼され、国を一旦離れることになった。


 離れるとしたらどこに行けばいいんだ?


 議会堂の食堂で飯を食いながら考える。

 だが、そこは特に問題無かったらしい。

 不機嫌そうなアキサクが教えてくれた。


「ゴウがいただろ」


「あ、はい。バーバリアンの」


「あいつがお前らを連れて、バルガイヤー森王国へ連れてくってよ」


「そうなんすか! いつの間に?」


「ゴウも議会と連絡を取ってたんだよ。というか、あいつは元々、バルガイヤー森王国からの大使なんだ」


「大使?」


「国を代表して来てる人ってこと!」


 ミスティは詳しいなあ。

 えっ!?

 つまり、ゴウって偉い人だったのか!!


「はえー」


 俺は驚いて言葉をなくしてしまった。

 そう言えばあの人、普段から何をやって生活してるのかよく分からなかったけど、そういうことだったのか。


「全く……。もっと早く俺に話してくれりゃなあ」


 アキサクがブツブツ言っている。

 ゴウと何かあったんだろうか?


 それはそれとして、なんとなく空を仰ぐ俺なのだ。


「あー、なんか状況に流されてる。ダメだなあ……」


「運命が導いてるのかもよ?」


「ミスティは前向きじゃん」


「そりゃあ、だって、ウーサーと一緒になってから、悪い方向に物事が動かないもの」


 そんなものだろうか?

 俺としてはもっと成長して、自分で何もかも動かせるようになっていきたい……!


 世の中ままならないのだった。

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