3・魔剣鍛冶の里編
第16話 新しいお仕事
「おはよ」
朝起きると、ミスティの顔がすぐ近くにあった。
「ん……おはよう……はっ!?」
なんでこんなに近いんだ!?
慌てて飛び起きる。
昨夜何かあったっけ。
いや、何もなかったはずだ。
焦りながらキョロキョロしたら、ミスティがもう着替え終わっている事に気づく。
普段着だ。
「あれっ、もう出かけるのか!」
「そうそう。朝早くから、色々仕込みをするらしくって。ウエイトレスにも手伝って欲しいんだって! お給料はずむってさ」
なるほど、それでやる気に満ちてるのか。
「なんかねえ、生きるために働いているーって気がする! あたし、この街大好きかも」
「俺も嫌いじゃない」
ミスティがニコニコしていると、俺も嬉しくなるしな。
それにしてもこうして見ていると、出会ったばかりの頃と比べて、ミスティの髪の色が変わってきた気がする。
もっと明るい茶色みたいな髪の色だったと思うけど、今は真っ黒だ。
「あ、髪? 染めてたんだ。あたし、毛が多いから黒いと重く見えない?」
「全然! 黒くて綺麗な髪だと思う」
「そお? ふふっ、ありがと! 褒められて朝からいい気分になっちゃった。じゃ、行ってくるね!」
彼女は宿を飛び出していった。
風にあおられて、黒い髪が広がる。
宿の窓からでも、ミスティがどこにいるかすぐ分かるなあ。
それくらい、あんな見事な長い黒髪は珍しい。
本人もめちゃくちゃ可愛いし、店でも評判がいいらしい。
変な男が手を出してこないように、俺はミスティを守らねば……!
以前来た十頭蛇がまた来る気配はないけど、エムス王国の大臣はミスティを諦めてないだろうし……。
俺も適当に着替え、朝飯を食って仕事に出掛ける事にする。
「おうウーサー。俺はちょっと奥で研ぎをしてるから、目録持って店番やっててくれ」
「いいんすか!?」
「いいぞ。存分に武器や防具の値段を調べてみろ。銀貨二十枚まで両替できるようになったんだろ? ほぼ金貨一枚と同額じゃねえか」
金貨一枚って、銀貨二十枚と同じ価値だったのか。
実際に金貨を手にしてみたいなあ。
そう思いながら、アキサクから受け取った武器の目録を見ながら店内を歩き回る。
この店、床は地面がむき出しで、そこを覆うように大型のバラックを建てたような作りだ。
商品がある場所には板が敷かれていて、その上に台座や木箱が設置されている。
で、武器が木箱に刺さっていたり、上に乗せられてたりするわけだ。
もちろん、壁にもたくさんの武器が立て掛けられている。
戦争が始まって、武器の需要が増えてから、鍛冶屋がこぞって武器を作り出した。
商品がドカドカ入荷するので、今まで通りの展示じゃ置ききれなくなり、こういう置き方になっているのだ。
「おっ、新しい武器だ! なんだこれ。投げナイフっぽいけど、あちこちからデタラメに刃が突き出してる……。どこでも相手に刺さるのか。フンガムンガ……?」
銀貨五枚。
覚えた。
投擲用の武器としてはかなりいいお値段だ。
とりあえず、手持ちの銀貨が七枚ある。
最近は常に金を持ち歩くようにしているのだ。
フンガムンガを再現して、また銀貨に戻す。
色々な意味で生命線だもんな。
銅貨どころか、鉄貨しか手にしてなかった俺が銀貨を持つようになるとは……。
ちょっと前には想像もできなかった。
「何があるかわからないよなあ……」
さて、日課である両替スキルの確認。
《スキル》
両替(四段階目)
・視界内に存在する銀貨二十枚以下の物品の再現が可能。物品相当の貨幣が必要。
※レベルアップ条件
・銀貨二十枚の物品を五個、貨幣へ両替。もしくは銀貨二十枚から五個の同価格の物品を再現する。
「銀貨二十枚かあ。とんでもない金額に思えて、今までチャレンジできなかったけど」
目録を見れば分かる。
この店の中で、銀貨二十枚相当の品は……。
「あれだ」
壁に飾られている、銀のダガー。
刃から柄まで全てが銀製のそれは、俺がしょっちゅう磨いているのでピカピカ輝いている。
俺は銀のダガーを手に取った。
「お前、銀貨二十枚もしたのか!」
真実を知ると驚いてしまうな。
いつも触れている物が、全然違う物のように思えてくる。
「よし、じゃあ、両替……」
ダガーは、ずっしりとした銀貨の重みに変わった。
す、凄い量だ!
「りょ、両替!」
ダガーに戻る。
また両替して銀貨にする。
これを繰り返した。
すると……。
《スキル》
両替(五段階目)
・視界内に存在する金貨五枚以下の物品の再現が可能。物品相当の貨幣が必要。
再現した物品を手元へ引き寄せることが可能。物品の質量が大きい場合、使用者が引き寄せられる。
※レベルアップ条件
・金貨五枚の物品を五個、貨幣へ両替。もしくは金貨五枚から五個の同価格の物品を再現する。
「おっ、パワーアップした!! ……き、金貨五枚!? なんだそれは……!!」
いきなり、五倍の価格の物を作れるようになってしまった。
しかし、必要なお金も多い!
こんなん、使い切れるわけがないじゃないか。
愕然としていたら、来客だ。
俺は店番として対応に回ることになる。
どうにかして、金貨を手に入れないとなあ……。
そのことで頭がいっぱいなんだが……。
「あのさ、店主に伝えといてくれよ。安めの魔剣が欲しい。確か金貨五枚くらいだっただろ?」
いきなり、客から考えていた金額とピッタリのワードが出てきた。
な、なんだとーっ!?
「あ、アキサク! アキサク! 金貨五枚……じゃない、魔剣だって!」
「おうおう! 景気のいい話だな! どれどれ……」
客とアキサクが商談を始めた。
魔剣……!?
そうか、金貨五枚って、魔剣が買える額なのか。
「魔剣ってあれだよな。魔法の力を宿した剣で……」
「そうなん?」
「そうなんだよ……って、うおおっ、ミスティ!? なんでここにミスティが!?」
「なんでって、お弁当届けに来る時間だからじゃない。はい、今日のは具だくさんサンドイッチ。ひき肉がみっちみちに詰まってるから。あたしが作ったよー」
「うおー、ありがたい!」
そうか、タイミングよく金貨五枚の話が来たと思ったら、ミスティがやって来てたのか。
彼女は、俺に運命をもたらす。
だから、スキルが強くなるための手段が向こうからやって来たというわけだ。
「おーい、ウーサー。お、ちょうどいい、お嬢ちゃんもいたか」
アキサクが急に呼んできた。
「うす。なんすか?」
「ちょっと厄介な仕事がな。お使いを頼まれてくれるか?」
「お使い……?」
「おう。魔剣鍛冶のところで手が足りないらしくて、ちょっと手伝いに行ってくれ。お前ら二人ならちょうどいいだろう」
俺たちがちょうどいい……?
どういうことなんだ。
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