第17話 これは良いヒャッハー
アキサクが教えてくれた仕事、結構実入りがいいのと、魔剣を勉強できる機会に恵まれるということで……。
「受けます!」
「ミスティが返事するのか!」
「だってチャンスじゃん! 行こう行こう」
そういうことになってしまった。
アキサクが笑いながら、
「本当にお前、ミスティの押しに弱いな。惚れた弱みだな」
なんて言っている。
うるさいぞ!
こうして俺たちは、エルトー商業国を出て、魔剣鍛冶のところまで行くことになった。
同じルートをたどる武装荷馬車に連れて行ってもらうのだ。
この国は今、エムス王国の軍隊に包囲されている。
ただ、包囲とは言うが圧倒的に兵士の数が足りなくて、あちこちにちらほら姿が見える程度。
それも長い戦争状態にウンザリしてやる気がない。
武装荷馬車が通ると、一応反応して「止まれ止まれー」とかは言ってくる。
だが、武装荷馬車は止まらない。
逆に、邪魔をしてきた兵士が武装荷馬車から伸びた棒でコツンと叩かれ、「ウグワー!?」とぶっ倒れる始末だ。
その後ろを、ロバのライズが牽引する俺たちの小さい荷馬車が走っていく。
なんと、可愛い幌がついたぞ。
荷馬車もパワーアップしているので、ライズが引っ張る力も少なくていい。
倒れているエムス王国兵士たちを横目に、ライズの荷馬車はのんびり走っていくのだった。
「武装荷馬車ってすごくない……?」
「恐れ知らずの商人たちらしいからなあ。基本、自由な立場の商人だけど、エルトー王国最強戦力なんだってさ」
「なにそれ!」
ミスティが大受けして、けらけら笑った。
武装荷馬車、あちこちに装甲が取り付けてあるし、車輪や側面から棘が生えているし、幌には攻撃用の棒を突き出す窓がついているし、正面と後ろには矢を受け止める木の板が貼られている。
最強戦力というのも偽りじゃないんだろうな。
どんな戦場でも正面突破して、品物を届けると評判らしい。
今回は、彼らが魔剣鍛冶の里に商品を届けるために移動するところだった。
そこに、俺たちを加えてもらったというわけだ。
武装荷馬車が道を切り開く。
その後を、俺たちが平和に走る。
「なんだか凄く楽をしてしまっている……」
「あたしの運命の力だね! いい感じじゃん」
「そうだなあ。だけどミスティの運命が働くと、次は宿命が来たりしない?」
「……来るかも」
いやーな予感もするのだった。
二日ほど、コトコトと旅をした。
あちこちに草が生えているので、ライズのご飯は問題ない。
うちのロバは荷馬車の馬たちに混じって、むしゃむしゃと草を食った。
俺たちも、武装荷馬車の商人たちと飯を食う。
相手はみんな、むきむきの男たちだった。
棘の付いた革ジャケットを着て、モヒカンだったりスキンヘッドだったり髭面だったりして、腰にクロスボウやトマホークをぶら下げている。
「ヒャッハー! もっと食え食え! でかくなれねえぞ!」
「女の子も肉を食え食え! 肉付きが大事だぞ!」
「セクハラー!!」
ミスティが猛抗議した。
なんだそれ。
でも確かに、ミスティは酒場で見る他の女の人と比べると細いよな。
抱きつかれると柔らかいことは、俺はよく知ってるんだけど。
燻製肉をたっぷり挟んだサンドイッチを食べながら、ミスティが「うーん」と唸った。
「この世界だと、もっとお肉付いてたほうがいいのかな……。最近は仕事ばっかりしてるから筋肉が付いてきちゃったんだけど」
「あ、そういえば出会った頃より、ミスティがっちりしたよな」
「や、やめてー!」
聴きたくなーい、と耳を塞ごうとして、その手にサンドイッチがあるのでできないミスティ。
商人たちも俺も大いに笑った。
夕方になると、荷馬車を展開してテントみたいにして休むことになる。
その辺りで捕まえてきた野ウサギやらをシチューにして、パンを付けて食べる。
手すきの商人が、俺とミスティに護身術の手ほどきをしてくれた。
「いいかガキども。身を守るなら手加減を考えたら死ぬぞ!! 殺すつもりでいけえ! この棒で、こうだ! ヒャッハー!!」
モヒカンで顔にペイントをした商人が、凄い勢いで棒を振った。
先端に金属が付いているから、当たったら死ぬなあ、と思うような一撃だ。
「でもあたし、腕力があんまないんだけど」
「女子供でも棒を使えばいい! 近寄ったらリーチ差で負ける! 何か投げつけるのでもいいぞ! こうだ! ヒャッハー!!」
拾った石を投擲するモヒカン商人。
「正面からだと対処されやすいからな。弓や弩は速いが、音がする。外したら強いやつには気付かれるもんだ。投擲が一番リスクが少ないな! 金も掛からない! どんな強いやつでも、後ろから無音で物を投げられたら避けるのが難しくなるぞ」
「なるほど……!」
「でもそれって、自分の正面に相手がいるのに、後ろから物を投げろってことでしょ? 意味ないじゃん!」
「お前ら二人いるだろう! 片方が背後を取れ! やるんだよぉ!」
「ひ、ひどい理屈~!!」
ミスティは呆れるのだが、俺はふむふむと頷くばかりだ。
これ、結構やれるかもしれない。
相手の後ろや横に硬貨を置いておいて、それを武器に変えて手元に引き寄せれば……。
里についたら練習しよう。
ミスティも、棒で相手を叩く技を身につけたようだ。
最後には、武装荷馬車から伸縮できる金属製の棒を買っていた。
護身用か。
「ヒャッハー! お買い上げ感謝! これはバラせるように作ってあるから、一部が壊れたら部品だけ買って修理できるぞ」
見た目は凶暴なのに、なんて親切な商人たちだろうか。
「なんかね、ウーサーといると、色々な人たちが色々教えてくれる気がするんだよね。あたしだけだと、なんか下心で近づいてくるのが多いんだけど」
「そうなのか? なんでだろう……?」
「そこがウーサーの人徳なんじゃない?」
そうなんだろうか。
こうして武装荷馬車との旅は無事に終わり、魔剣鍛冶の里に到着した。
そこは、木々に囲まれた森の中。
招かれた者しか訪れることができない、魔法的な結界に覆われた場所……なのだとか。
森を出る前の一瞬、視界の端に、ローブ姿の人物が見えたような気がした。
「人がいる」
「ヒャッハー! それはありえないぞ! 招かれでもしない限り、この森に入り込んで突破はできないからな! あるいは精霊をねじ伏せるほどの力を持っていれば別だが!」
精霊とかいう単語が出てきた。
なんだそれは……。
商人に、精霊についてのレクチャーを受けているうちに、ローブ姿は見えなくなってしまった。
あれ、なんだったんだろうな。
ミスティが呼び寄せた宿命の可能性があるから、何か備えておかないと……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます