第14話 見せろ、本領!

「説明しよう。十頭蛇というのはな、いつからか結成された能力者集団でだな。十人のトップクラスのスキル能力者を抱えている」


 ルーンが説明を始めている間に、向こうではゴウとマオがその十頭蛇とやらと戦っているじゃないか。

 相手は蛇に乗った男一人だと思ったら、その後ろからどんどん出てくる。

 

 奴らはみんな、丸い玉から十方向に頭が伸びる、蛇のエンブレムを付けていた。

 わあわあと出てくるそいつらは、鎖帷子に身を包み、曲がりくねった剣を振り回して襲いかかってくる。


 エムス王国の兵士とは明らかに違う。


「エムス王国が十頭蛇と手を結んだんだろうな。雇うためにむちゃくちゃ金が掛かると聞いたが、そこまでする理由はなんだろうなあ」


「あはは」


 ミスティが苦笑した。

 そう、ミスティなのだ。

 これを知られるわけには行かない。


 周りを巻き添えにしないためにも、俺が強くならなくてはならないのだ。


「よし、来いウーサー! 実地で訓練だ!」


「実地がめちゃくちゃハードだなあ!」


 ゴウに呼ばれて、慌てて騒動の中に駆け込んでいく。


「お前、武器を出せるんだろ? そいつを作ってまずは身を守れ!」


「お、おう! 両替!」


 握りしめた銀貨が、ブロードソードになった。

 お……重い……!


 そこに切りかかってきた、十頭蛇の兵士の攻撃を必死に受け止める。

 曲がりくねった剣は、表面がぬらぬらと濡れている。

 毒……?


「ヒェー」


 真後ろからミスティの悲鳴が聞こえた。

 後ろにいるし!


「いや、だってあたしもノリで一緒に来ちゃったし! ウーサー、なんか貸して! 武器とか!」


「う、うおおおお! 両替!」


 俺のポケットから、銅貨が数枚飛び出していった。

 それが棍棒になる。


「女子に棍棒!? ま、いっか……。あちょー!」


 ヤケクソになったっぽいミスティが、俺と鍔迫り合いしている兵士をぶん殴った。


「ウグワーッ!」


 脇腹を殴られて、兵士がぶっ倒れた。

 かなり痛そうだ。


 この隙を見て、俺は兵士に聞いてみた。


「その剣いくら?」


「ぐうぉぉぉぉ……銀貨五枚……」


「よっしゃ、両替!」


 兵士の武器を銀貨に変える。


「あっ、俺の武器が!」


 素早く銀貨を拾い上げて、ポケットに突っ込む。

 その間も、ゴウとマオは敵を食い止めてくれているようだ。


 ゴウはずっと俺を見ていて、「動き続けろ! 戦場では立ち止まったら死ぬぞ! 体勢を低く! 背が低いことは武器だ!」

 とかアドバイスを送ってくる。

 分かりやすい。


 俺は兵士たちに、次々鍔迫り合いを挑みつつ、「両替!」と武器を銀貨に変換していく。


「俺の武器が!」「俺の武器が!」「俺の武器が!」「俺の武器が!」


 この様子を、十頭蛇の代表らしい、蛇に乗ったやつがじっと見ていたようだ。


「ほう……。お前、変わったスキルを使うな。さては、この俺様の後輩か」


「後輩!?」


 何を言ってるんだこいつ。


「まだまだ未熟なようだが、なんとなくお前が育つと厄介な気がする。ここで死んでもらうとしよう。そのついでで後ろの女を頂く。雇い主の頼みなのでな」


「なにっ! ミスティは渡さないぞ!!」


「お、おぉ! あたしは渡されないぞ!」


「未熟なスキル能力者が揃った所で、物の数ではない。俺様は十頭蛇の七、ヒュージ。さて、行くぞ」


 ヒュージと名乗った男の乗る蛇が、ずるりと動き始める。

 よく見たら、そいつは全身が金属でできた巨大蛇なのだ。生き物じゃない。


 城壁をゴリゴリと削りながら、蛇は俺たちに向って伸び上がってきた。


 ヒュージが俺に手を伸ばす。

 すると、そこから金属製の蛇が何匹も生まれた。


 それがどこまでの伸びて、俺たちを目掛けて殺到する。

 ちょうどそこに、襲いかかってくる途中の兵士たちがいた。


「ヒュ、ヒュージ様!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ひ、退け! ヒュージ様の攻撃に巻き込まれるぞ!!」


 蛇たちは、すれ違う時に全身の鱗を刃にして逆立てる。

 つまりこいつら、人間を削り取るヤスリみたいなものなのだ!


 とんでもない!

 だけど、お陰で敵の能力が分かったし、助かった。これも、ミスティが運命を操作してるからかもしれないな。


「うおわーっ!」


 必死に振り回したブロードソードは、二匹の蛇にすれ違われると、あっという間に削り取られて無くなってしまった。

 人間なんか一瞬でボロボロになるんじゃないか!?


 柄だけになった剣を捨てて、下がる俺とミスティ。


「し、死ぬー」


 ミスティが弱音を吐いている。

 俺だって怖いのだが、下がるわけにはいかない。


 どうすればいい?


「とにかく体勢を低くして動け!」


 ゴウの声が聞こえた。

 なるほど!


 ミスティに頭を下げさせ、俺もしゃがんで、二人でコソコソっと動く。


 蛇は体勢を低くした俺たちに狙いを定められず、他の兵士や城壁を削り取る。

 一度にたくさんの蛇を使うと、狙いが甘くなるんじゃないか?


「うおーっ、喰らえー!」


 ルーンの声がして、ピューンと矢が一本飛んでいった。

 それはヒュージを目掛けていたが、途中に割り込んだ蛇が矢を受け止めた。


 もちろん、金属製の蛇に矢は刺さらない。

 だけど、ヒュージを守ったな?


 ということは……。

 ヒュージには矢が通じる!


 俺はポケットから銀貨を掴みだす。

 一枚を、ヒュージ目掛けて投げつけた。


「銀貨? そんなものが何に……」


「両替!」


 投げた銀貨が、一瞬で十本の矢になった。


「蛇よ!!」


 ヒュージが反射的に、蛇を呼び戻した。

 蛇たちが組み合わさり盾になる。

 矢は表面で弾かれてしまった。


「なんだ、今の力は……!? 銀貨を矢に変える能力か……! なるほど、使いようによっては恐ろしい……。やはりお前はここで仕留めねばならん」


 蛇の向こうから、ヒュージの声が聞こえてくる。

 蛇たちがずれて、ヒュージの目だけがこちらを睨みつけた。


 うーん、見つめられるとゾッとする。

 だが、俺としても引くわけにはいかないのだ。


 俺とヒュージが睨みあっていると、下の方から声が聞こえた。


「何をしている! そこに女がいるだろうが! そいつはわしのものだ! そいつを手に入れて、わしは大陸の王となるのだ!!」


「うげえ」


 ミスティが顔をしかめた。


「知り合い?」


「あたしを召喚させたヤツ! あたし、あんな男に色々されるの、絶対にやなんだけど!」


「そっか! じゃあ、絶対負けられないな! 持ってる金全部使って、ミスティを守ることにする!」


 俺はポケットから、持てる限りの銀貨を取り出した。


「無駄だ!」


 ヒュージが守りを固める。

 さらに、横合いから蛇が飛び出してきた。

 守りながら攻めるつもりだ!


「ミスティ、ゴウ、マオ、手伝って! 銀貨をあいつの頭の上に投げてくれ!」


「オッケー!」


「いいだろう」


「なんで!? も、もったいない!」


 マオだけがちょっと文句を言いながら、持っている限りの銀貨を投げた。

 ヒュージの頭上に、キラキラしたものが降り注ぐ。


「しまっ……!!」


「両替!」


 全ての銀貨が、毒の塗られた曲がった剣になった。

 それが、猛烈な勢いでヒュージに向かう。


「蛇よ!」


 蛇が頭上の守りを固めた。

 巨大な傘になる。

 俺たちを攻めようとしていた蛇も戻されて……。


 そこに、俺は一枚だけ残っていた銅貨を投げつけた。


「両替!」


 銅貨が矢に変わる。

 頭上だけを見ていたヒュージは、これに反応できない。

 矢がヒュージの脇腹に突き刺さった。


「ウグワーッ!?」


 ヒュージを乗せた巨大な蛇が揺らぐ。


「まずい! この状況はまずい!」


 ヒュージの判断が速い。

 あいつの目は、その場で兵士たちの武器を銀貨に変えていく俺に向けられていた。


「十頭蛇に知らせねばならん! あの孤児院め、とんでもない化け物を外に解き放ちやがった! なぜ気付かなかった、役立たずどもめ!!」


「あっ、おい十頭蛇! わしの命令を聞け! そこの女を……」


「うるさい!」


「ウグワーッ!?」


 あっ、下の方で、ミスティに執着していたおっさんがすりおろされた。

 ……と思ったらゴテゴテ鎧を着ていて無事だったようだ。

 ひいひい言いながら、部下に抱えられて逃げていく。


 ヒュージも、猛烈な勢いで撤退を開始した。

 城壁を取り囲んでいるエムス王国の奴らはまだいるけど……。

 明らかに勢いが衰えたようだった。


「ふいーっ……。乗り越えたあ」


 ミスティが汗を拭う仕草をした。

 そしてポケットから布を取り出して、俺の顔をゴシゴシ拭く。


「うわーっ、なんだよー」


「汗だくだぞ少年ー! ……ありがとうね!」


「お、おう!」


 俺はとりあえず、拭かれるままにしたのだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る