第13話 敵が現れる
まずは俺とミスティの拠点みたいな場所……。
食堂と武器屋まで移動した。
自分たちだけでどうにかできればいいんだが、悔しいが俺はまだガキなのでどうすればいいのかの判断がつかない。
衝動的に動いたら、本当にヤバいことになりそうだし。
ミスティも怖がっているので、これ以上危険な目に遭わせたくない。
なお、ロバのライズは落ち着いたものだ。
平然とした顔をしてついてくる。
「ライズって大物なんじゃない?」
ミスティはライズが動じていないのに気付いて、ちょっと落ち着いたようだ。
ロバが平常心なのだから、自分が慌ててるのはかっこよくないと思ったのかもしれない。
街中はパニックで、人々がわあわあと叫びながら駆け回っている。
あちこちの店から、見覚えのあるおっさんたちが武装して飛び出してきた。
普段は一般市民として暮らしてて、何かあったら兵士になるのか!
ここはつまり、そういう国だったのだ。
じゃあ、もしかしてアキサクも……!
到着した武器屋では、アキサクがいつもの軽装で軒先に立っていた。
大柄な男を何か喋っている。
「良かった! アキサクは兵士にならないんだな!」
「おおウーサー! 無事で戻ってきたか! なんだ、ありゃあ。でかい化け物が城壁をぶっ壊そうとしてやがる」
「ああ。なんか分からないけど……」
その場には、食堂のウエイトレスであるマオもいて、ミスティの無事を喜んでいる。
そしてマオは、大柄な男を指さして、「これ、あたいの兄貴」と言った。
「うむ。こいつの兄であり、アキサクの飲み仲間でもあるゴウだ。バーバリアンをやってる。よろしくな、スキル能力者の少年」
大柄な男はそう言って、ニヤリと笑った。
「ど、どうしてそれを!?」
「マオもスキル能力者だからだ。俺もだ。だが、その力は薄まり、弱まっている。それにスキルはあっても、本人が強くなくては何の意味もない」
バーバリアンのゴウ。
褐色の肌をした、筋骨隆々の男だ。
アキサクよりも頭半分ほど背が高く、体重なら俺の二倍以上ありそうだ。
モンスターの毛皮を使ったベストを着ていて、胸元に巻いたベルトにダガーが刺さっていた。
「鍛えてやろう」
「お、俺をか!? なんで?」
「俺の友であるアキサクが気に入った男だからだ。それに、マオもお前をカワイイと言っている」
マオがニヤリと笑った。
ハッとしたミスティが、俺の腕を取る。
「あたしんだからね!?」
「取らない取らない!」
女子たちがきゃあきゃあ言ってる。
俺は俺で、あたしのもの宣言されるとなんとも照れくさくて顔が熱くなる。
「ここでイチャイチャしてる場合じゃないぞ。では二人とも、オレに続け。実地訓練を行う」
「えっ、今から!?」
「戦争が始まったんだ。実戦で学ばねば後がないぞ」
「そ、そうだけどさ。あと、ミスティもか!?」
「スキル能力者は己を鍛えねば意味がないと言ったはずだが」
この男、ミスティがスキル能力者だと気付いて……?
「それは私が気付いてた」
マオだったか。
こうして、俺、ミスティ、ゴウ、マオの四人で、騒ぎが起きている城門へ向かうことになってしまったのだった。
ロバのライズはアキサク預かってくれる。
彼は過去に膝に矢を受けてしまったので、前線で戦えないんだそうだ。
「武器を管理する奴が後方には必要だしな。じゃあ頑張ってこいよ。死ぬなよ!」
アキサクに見送られる俺たち。
「ひええええ」
ミスティが青い顔をして震えている。
「で、でもあたしのせいだから、やんないとね……! 死ぬほど怖いけど、逃げて知り合いが死んだりしたら超後悔すると思うし……。あー、あたし、こんなんだからあっちでもずっと貧乏くじだったんだよなあ」
なんかブツブツ言ってるが。
「大丈夫! 俺、そういうミスティ好きだから!」
「えっ!? あたしを好き!? ほう、ほうほうほう……」
「そそそ、そういう意味じゃなくてよ!」
俺たちがやり取りしている間に、もうそこは城門。
詰め所の前には、さっき別れたルーンがいた。
俺たちの会話を聞いて、カッと目を見開くルーン。
「イチャイチャするなら帰れ! 戦場はデートスポットじゃねえぞ!! 見せつける気か!!」
うわああ、マジ怒りだ。
「まあまあ落ち着け、一般兵士」
「うるせえバーバリアン。我が国を守るための戦線に協力するのか? だったら大歓迎だ。ようこそ同志よ」
「おうおう。俺もこの国には世話になってるしな」
なんか、ルーンとゴウが握手している。
どういう状況?
「この国はね、民兵でやってるの。だから、旅人が義勇兵として参加するのも大歓迎なのよ。王を置かずに自治でやってるから、自主性が大事なワケ」
マオが説明してくれた。
吐息が俺の首筋に掛かる。
ミスティが手をぶんぶん振りながら間に入ってきた。
完全に緊張は解けたらしい。
マオが「よし」と笑いながら頷いた。
「とりあえず城壁の上に行きたい。いいか?」
ゴウの言葉に、ルーンが目を見開いた。
「正気か? 強力なスキル能力者が攻撃を仕掛けてるところだぞ? エムス王国の連中、いつの間にかスキル能力者と手を結びやがった」
「ああ。そいつの姿を拝まなきゃ、対抗もできないだろ」
「確かに」
すぐに納得するルーンだった。
彼に案内されて、俺たちは城壁の上へと続く梯子を上がっていく。
途中で、何度か城壁が揺れた。
スキル能力者が攻撃を仕掛けている、ということらしい。
それにしても、世の中って案外スキル能力者はたくさんいるんだなあ。
「俺が特別だから頑張らなきゃと思ってたけど、そうでもないのかな」
ぶつぶつ言ったら、ゴウに聞こえていたらしい。
登りきったゴウが俺に手を貸しながら言う。
「オレらのスキルは、薄まったスキルだ。だが聞くだに、お前さんのスキルは薄まってない原液だ。金を物に変えられる、世界に干渉するタイプのスキルは特級クラスのヤツだぞ。なんでウーサーみたいなのがスラムで誰にも知られずに燻ってたんだ」
「俺の力、凄いの……!?」
全然実感がない。
「スキルも体も同じだ。鍛えなきゃならん」
確かに。
ミスティと二人で、俺のスキルを育ててるところだった。
「いたぞいたぞ!! うわー、派手にやられてる!!」
城壁には、巨大な怪物がへばりついていた。
蛇だ。
全身の鱗が、太陽の反射で虹色に輝く、馬を一飲みにできそうなバカでかい蛇。
蛇になぎ倒されたらしく、兵士たちがあちこちに倒れていた。
そして蛇の上には、黒い頭巾を被った男が立っている。
「また来たか。いくらやって来ても、結果は同じこと」
男がクックック、と笑った。
ゴウが身構える。
「あれはヤベえスキル能力者だ。多分、お前さんみたいな特別製の一人だな」
「そ、そうなのか!」
状況の情報量が多すぎて、頭がパンクしそうだ!!
もっと小出しにしてくれ!!
だが、ここでルーンが、男を見て叫び、俺をさらに混乱させるのだった。
「あ、あれはスキル能力者の傭兵集団、単体で国を滅ぼすと言われる十頭蛇のエージェント!!」
うわーっ、知ってるのかルーン!?
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