第11話 レベルアップの条件とは

 アキサクに頼まれて、どんどん武器を作った。

 前金全部使えば、注文された武器が揃うっぽい。


「どれもこれも、安い方の武器だけどいいんすか?」


「先立つ物がねえといいものは用意できないかなら。構わねえだろ。それに、なまくらってわけじゃねえ」


 俺が両替した斧を手にしたアキサクが、薪を持ってきて試し切りした。

 刃が薪の半ばまで食い込み、まあまあの切れ味を見せる。


「……価格相応だな……。ま、いいだろ。今の市場じゃ、これくらいの武器を揃えるのだって大変なんだ」


「そうなのかー。だって、エムス王国と戦争しそうなんだろ?」


「しそうだけど、実際には起こらないみたいなのが十年も続いてるんだ。みんなだれてるんだよ。だから備えも適当にして、中には適当にちょろまかして横流ししてるようなのもいる。中身は腐ってきてるわけだ」


「えーっ! それって実際に戦争が起きたら大変じゃないっすか!?」


「今までの十年と同じで、これからもずっと起きないと思ってるんだよ。お陰で武器が品薄だ」


 需要があるからではなく、需要が見込めないから作らない。

 なので、武器の生産量が落ちてるわけか。

 店に並んでいるのも、数年前に作られたものばかりらしいし。


「ま、金が儲からないものはどんどん作られなくなるってこったな。そういう点では、ウーサーがいてくれて助かったってことだ。案外、エルトー商業国の救世主になるかも知れんぞ」


「マジで!?」


「わはは、冗談だよ!」


「なんだよー」


 ということで、かなりの量の武器を作ったのだった。

 これを荷車に乗せた布の上に並べて、上にまた布を敷いて、そこにまた並べて……。


「明日届けに行くからよ。今日はここで上がりだ! じゃあな!」


「うす!」


 仕事が早く終わったなあ、と思って外に出ると、もう夕方だ。

 一日中両替してたんだな。

 だけど、いい仕事をした気分だ。


 隣の食堂で、ミスティの仕事が終わるのを待つことにする。


「あらウーサーくん、仕事終わり? ミスティ待ち? いいわねー若い子はー」


 ベテランウエイトレスのおばちゃんが俺に声を掛けてきた。


「うす。待ってます」


「じゃあこれ食べてきなさいよ。まかないなんだけど」


「パン粥! あざっす! うめえ!!」


 スラムで食ったパン粥とは天と地ほどの差がある。

 なるほど、この美味いパン粥を食うと、スラムのあれはふやかしたパンだな。

 ミスティはこの味を知ってたから、スラムで微妙な顔をしてたんだろうなあ。


 本当にいいところのお嬢さんだったんじゃないのか?

 俺が隅っこのテーブルにいると、通りかかるウエイトレスたちが次々に、俺にウインクをしていく。

 なんだなんだ……?


 少ししたら、ミスティもやって来た。


「あれ! なんでみんなが隅っこを見に行くと思ったら、ウーサーじゃん! 仕事もう終わったの?」


「おう、早く終わった」


「そっかー。武器屋さん、仕事あんまなさそうだもんねえ」


「一応、武器の研ぎとかたまに買い替えがあるぞ。あと大口の仕事も来てて!」


「うんうん」


 ミスティはニコニコしながら、俺が身振り手振りで話す様を眺めているのだが。

 他のウエイトレス三人が猛烈な勢いでこっちに走ってきた。


「ウーサーくん、しーっ! しーっ!」


「そういう話はあんまりするものじゃないの!」


「えっ、そ、そうなの?」


 何故か止められてしまった。

 そ、そうか。こういうのは秘密にするもんなんだな……!

 俺はしゃべらないことにした。


 しばらくすると、店が夕食の客で込み始めた。

 俺はこの光景をぼーっと見ている。


 ミスティと三人のウエイトレスが、ばたばた動き回る。

 どんどん料理がサーブされてくる。


 客は結構長居するので、どんどん料理と酒が注文される。

 中には、酔いの勢いで喧嘩をし始める客までいる。

 こいつらは、腕に覚えのあるウエイトレスが外に蹴り出す。


「ほあああーっ!!」


「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」


 マオという名前のウエイトレスが、連続蹴りで酔っ払い男三人を宙に浮かせた。

 これを、ジャンプで追いかけてバカスカ空中で蹴って蹴って蹴って、店の外へと叩き出した。


「うおーっ! いいぞーっ!」「マオちゃん最高ー!!」


 盛り上がるお客。

 彼女の迷惑客追い出し芸は、名物らしい。

 明らかに空中で連続で攻撃を当てたりして、人間業じゃない気がするんだが。


 あれもスキルだったりしないかなあ。


「ミスティお疲れー」


「はーい、お疲れっしたー!」


 おっと、ミスティが上がりだ。

 手には、まかないを持たせてもらっている。

 俺たちの夕飯なのだ。


「ごめんねウーサー、お待たせー」


「待ってないぞ」


「ずーっと待ってたじゃんー。ちょっと遊んできてもいいのに」


「ミスティが心配だろ!」


「え、そう? んふふ、可愛いやつめー」


「頭を撫でるなー! 子ども扱いするなー!」


 俺たちは騒ぎながら、いつもの宿へ。

 そこで食事をした後、夜の日課をすることになった。


 俺のスキルのチェックだ。


「あー、やっぱりまた、ウーサーのスキルが強くなってる! 今日って何かやった?」



《スキル》

 両替(三段階目)

 ・銀貨五枚以下の物品の再現が可能。物品相当の貨幣が必要。


 ※レベルアップ条件

 ・銀貨五枚の物品を二十個、貨幣へ両替。もしくは銀貨五枚から二十個の同価格の物品を再現する。




「レベルアップ条件まで出てる! ゲーム風だねえ」


「ゲームってなんだ?」


 俺の知らない単語がポンポン出てくるなあ。

 ミスティと話してるだけでどんどん賢くなっていく気がする。

 というか、世界がめちゃくちゃ広くて、なにかする度に新しい事がわかってくる。


 それで、どうやら俺のスキルが、俺が物を知ったり理解するほどどんどん進化していっているようなのだ。

 そりゃあ、孤児院にいた頃の俺のスキルは弱いわ。

 だって何も知らなかったもんな。


「銀貨五枚ってなかなか大変じゃない? そんな高いものあんまりないでしょ。……って、ウーサーの職場に山ほどあるじゃん」


「おう、武器、いいものはみんな高い……。今日は銀貨一枚くらいの安いのを山ほど作ったけど」


「そっか! じゃあ、それでウーサーのスキルがレベルアップしたんだねえ。これ、そのうち両替からもっと上のスキルにクラスチェンジしそうじゃね?」


「クラス……チェンジ……?」


 また知らない言葉を話す。

 なんなんだそれは。


「レベルアップ頑張ってウーサー! 応援してるからさ!」


「お、おう! 応援された!」


 とにかく、やる気になる俺なのだった。


「ところで、明日のあたしは休みなんだけどー……」


「そうなの? じゃあ、一緒に行って欲しいところがあるんだよ!」


「一緒に!? いいでしょういいでしょう!」


 むふーっと鼻息を吹くミスティなのだった。

 武器を兵舎に運んでもらう手伝いなんだけど、なんだか嬉しそうだな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る