第10話 理解者アキサク

 仕事でもらったお金は、それなりの金額だった。

 これで、俺とミスティの服を揃えた。


「こんな作りでこんなにするの!? たかーい!!」


 ミスティが驚いていたが、高いんだろうか?

 俺はもらった古着をずっと着てたから、服の値段なんかよく分からないのだ。


「あたしの世界ではねー。もっとカワイイのが安くってねえ」


「出た、ミスティの世界の話。何回も聞いたけど、そんな世界があったらもう天国じゃん」


 天国というのは、神様が善行をした人間を死後に連れて行くっていう世界のこと。

 俺は別にどの神様も信じてないけど、天国行きたいなら信じたほうがいいのだろうか。


「そうだねえ。あっちにいたころは不満タラタラだったけど、こっちに来てからは日本は天国だったなあと思うね! ご飯美味しかったし」


 食べ物が美味しい世界なら、俺も行ってみたいな……!


 で、結局選んだ服は、俺は上着と半ズボン。

 ミスティは紐で止めるタイプの上着とスカートだった。

 露出度が減った……。


「これで、じろじろ見られなくて済むっしょ。あちこちで男に声かけられて大変だったんだから!」


「えっ、マジか!! ヤバいヤバい、それ絶対ダメだって」


「うおーっ、ウーサー、必死の形相で掴みかかってくるなー!? なんで焦ってるの」


 そりゃあもう、俺がちょっといいなって思ってる女が、他の男に取られると思っただけで、胃の辺りがキュッとなるからだ。

 ミスティを口説く男、許さんぞ。

 俺は強くなって、そういう男をぶっ飛ばせるようにならないといかん。


 そのためには、早く体をでかくしないと……!!


「ウーサーがなんか燃えてる! いいぞいいぞ! お姉さんはそういう男子が大好きなのだ」


 くっそー、まだ俺を子ども扱いか。

 どうすれば認められるようになるだろうな。


 やっぱり、強くなるしか無いな。


 ということで、武器屋で働きつつ、店主に相談したりするのだ。


「あのさ、年上の女がいて、俺をガキ扱いするんだけどさ」


「ふんふん。つまりお前はその女を女として見てるのに、相手はお前をガキとしか見てくれないのが辛いわけだな」


「すげえ!!」


 俺は驚愕した。

 このおっさん、俺の心の中を読めるのか!?


「顔に書いてあるんだよ。ってか、こんなのはガキの頃に誰でも通るもんだ。なるほどな、つまり一人前の男としてお前がその女に認められるためには……」


 店主は壁に掛かっていた、でかい剣を取り外した。


「このバスタードソードを振り回せるくらいにならねえとな!」


「えっ! この剣を振り回す!?」


「できないか?」


「できらあ! うおーっ!」


 店には武器を振り回せるスペースが設けてある。

 そこで振り回したら、俺の体が武器に持っていかれた。


「ウグワーッ!!」


 ぐるぐる回転してぶっ倒れる俺。

 店主爆笑。


「まだまだ力が足りねえなあ! 筋トレしろ筋トレ! 俺の飲み仲間にバーバリアンがいるからよ。そいつに訓練付けてくれるよう頼んでやるよ」


「ほ、ほんとか!! ありがとう! いや、ありがとうございます!」


「いいんだいいんだ。俺はお前みたいな、がむしゃらに突っ走るちびは好きだからな!」


 そんな話をしていたら、店の入口から「お待たせでーす」と声がした。


 なんと、そこにミスティがいるじゃないか。


「おっ、新しいウエイトレスか? 可愛いな。顔立ちとかちょっとこのあたりで見ない感じだ」


「えへへー、そうなんすよー。よろしくご贔屓に」


 ミスティがニコニコしながら、持ってきた包を開く。

 その中から、湯気を立てるスープと、それに浸かった麺が出てきた。


「お弁当のスープパスタです! 食べ終わったらそこに置いといて下さい! あ、ウーサー、頑張ってる? なんか倒れてるけど! えっ、その大きい剣を!? 振って!? いやいやいや、まだウーサーの体格だと無理でしょー」


「くっそー」


 俺は大変悔しがった。

 店主が、俺とミスティを交互に何度も見る。

 

「じゃ、またね、ウーサー! ファイトー!」


 入り口でガッツポーズするミスティなのだった。

 くっそー、可愛い。


「ははーん」


「なんだよー」


「お前、あの娘に気があるのか。なるほどなあ……。てか、年上って言うけどほとんど年の差ねえじゃねえか」


「でも俺のこと少年って言うんだよ! くうーっ、ちゃんと男として見られたい!」


「なるほどなあ。こりゃ、俺もお前を応援したくなってきたわ」


 店主がニヤニヤした。

 そんなこんなで、何日か働く。


 店主が紹介してくれるというバーバリアンはなかなか姿を見せない。

 まだか。

 まだなのか。


 焦るな俺よ。

 焦る心を抑えるため、一心不乱に武器を磨く。


 最近、剣や槍、斧や槌、弓矢と言った武器をよく触るため、構造や仕組み、重さなんかも把握してきた。

 これなら、硬貨があれば再現できそうだな。


 以前再現した錠前は、見た目こそちゃんとしてたが、中身は全然ダメだった。

 くっついたまま、錠の部分が動かなかったのだ。

 多分これ、俺が再現するものをよく知ってないといけないのだ。


 両替、変な能力だよなあ。


 店主に見えない所で、銅貨三枚をダガーに変化させたりする。

 完璧なダガーになった。

 それをまた銅貨に戻す。


「なんか成長してる気がする。前よりも高いものも、再現できるんじゃないか」


 俺が呟いていたら、店の奥で「ウーン」という唸り声が聞こえた。

 店主だ。


「どうしたんすか」


「おうウーサー。あのな。ちょっと前に国から武器を発注されてるんだがな。それが揃わねえ」


「揃わない? なんで?」


「武器ってのは平時は使わないもんだ。で、兵士たちは訓練でしか武器を使わないから、壊れる数も少ない。つまり、買い替えが少ないんだ」


「はあ、そうなんすか」


「そうなんだよ。だから鍛冶屋連中は、武器じゃなくて日用品を作らないと暮らしていけないわけだ。んでな、その日用品がまあまあ売れてる。国外でだ。今は日用品を作るので手一杯で、武器まで手が回らねえと来た」


「あー、そりゃ仕方ないよなあ……。確実に金もらえる仕事をするもんだもん」


「だよなあ」


 そしてまた店主、頭を抱えてしまった。

 店を開ける前に、鍛冶屋の工房に行ってちょこちょこ交渉しているらしいのだ。

 だけど、鍛冶屋は武器を生産する余裕はない、の一点張りだとか。


 普通の王国なら、国の強権で言うことを聞かせられるだろうが、エルトー商業国は有力商人たちが協議しながら治めてる国らしくて、強制的に云々はできないらしい。

 お陰で、店主が唸ることになっている。


 この人にはこれからも世話になりそうだしなあ。


「じゃあすんません店主」


「おう」


「俺が手伝うんだけど、これ秘密にしててください」


「お前が? 手伝いはありがてえが、何ができるんだ」


「えっと、俺、こういうことができて」


 銅貨を取り出し、店主の目の前で両替してみせた。

 銅貨三枚が、同じ値段のダガーに変わる。


 店主の目が丸くなった。


「は? な、な、な、なんだそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「俺、必要な金さえあれば、そいつを道具に変えられるんですよ。あと、金を細かくしたり、もっと価値のある硬貨にしたりとかできます。金貨はまだ触ったことないんで無理だけど」


「マジか。マジかよ! おいおいおい、これなら行けるぞ!」


 テンションが上がってくる店主。


「よっしゃ、一つ頼むぞウーサー! 近々戦争があるそうだ。それに合わせて、武器をどっさりこさえてくれ! これはお前にしかできない仕事だ!」


「うす! 任せてくれ店主!」


「俺の事はアキサクと呼んでいいぜ!」


「アキサクさん、任せてくれ!」


 こうして、店主と仲良くなる俺なのだった。



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