第4話 それから・・・・②

ジインの登録から1年が過ぎた。今では彼も逞しく成長している。

最近は教会で聖術の勉強にも取り組んでいる、精神的に加え肉体的にも随分とタフになった。

無才などと蔑まれていたそうだが、なんのことはない、これは無限の才能だ、乾いた砂が水を吸うように覚えが早い。

いやはや末恐ろしいな、今でも十分恐ろしいが・・・


そして2人になったので拠点を移した。

前の拠点であった湯治宿「牛馬亭ぎゅうばてい」、併設の食堂「鶏豚けいとん」の近くにあった空き家を借りている。ここは俺が依頼で定期的に掃除をしていた家だ。


元々、牛馬亭の従業員寮の予定だったが近すぎて落ち着かないということで、ずっと空き家になっていて新しい住居人を探していたそうだ。

 

牛馬亭の支配人が自ら俺達に提案してくれた。 

俺達にとっては正に「渡りに船」だったので二つ返事で快諾した。

支配人曰く「丁寧な掃除で綺麗に保ってくれていた、安価の依頼にもかかわらず、しっかりやり遂げたことが嬉しく、大切にしてくれるだろうと思いお貸しすることを持ち掛けた次第だ」と仰っていただいた。


・・・・仕事冥利に尽きる、ありがたいお言葉だ。

更に嬉しい事に、「君達が迷宮探索が出来るようになるまで家賃はタダで良い」とまで仰ってくれたが、俺は「私共も依頼を請け日銭を稼いでおりますのでそこまで甘えるわけにはいきません」と丁重に断りを入れた。


「ふむ・・・只より高い物はない・・・だね」

「ええ、ご厚意は大変嬉しいのですが」


「いや、君が商人だというのを失念していたようだ」


「?・・・支配人、私は商人ではありませんが・・・」


「そうなのかい?以前に隊商キャラバンで見かけたので、てっきり商人かと思ったが違ったのか、いや、これは失礼した、そうそう家賃だったね、ではこうしよう、

私は蒐集家でね、迷宮鉱石を集めて貰いたい」


「迷宮鉱石ですか・・・わかりました」


「宜しく頼むよ、迷宮産なら種類は問わない、それまで家賃は銀貨1枚でいい」


「多大なるご配慮・・・ありがとうございます」



・・・・この支配人、只者じゃないな・・・どことなく昔いた隊商キャラバンのリーダーに雰囲気が似ている。

味方の内は頼もしいがひとたび敵に回すと恐ろしい・・・そうなったらとても手に負えん存在だ。


 それに媚びへつらうのを嫌うタイプで頼られるのが嫌いじゃないタイプ・・うん、ますますリーダーみたいだ。


違う点はリーダーは豪放磊落ごうほうらいらくでこの支配人は冷静沈着れいせいちんちゃく、もしくは静と動といった所か・・・真逆にみえるが根底は一緒だ。


「・・・さん、・・・ボスさん・・・アボスさん!」 

「・・・はっ!な、なんだ、ジインッッ」


「もう・・・すぐ考え込んで没頭するんだから・・・」


「す、すまない、実は明日の事を考えていてな」


「?明日ですか?いつものスケジュールでは?」


「いや、もうそろそろ昇級して迷宮に挑もうかと思ってな」


「!!それは本当ですか!!」


「ああ、ジインもここ2,3ヶ月でメキメキと力を付けてきているしな、ただ・・・」


「ただ?」


「パーティーを作るにしてもメンバー構成で悩んでいてな・・・」


「仲間を募るならバランスを考えて弓術師か魔術師ですね、 まず前衛は力と体力のあるアボスさんですね」


「言うほど力はそんなにないぞ」


「普通よりはかなり高いですよ」


「そうかなぁ、リーダーからは「まだまだだな」って言われてたし」


「昔いた隊商キャラバンのリーダーさんですよね?その人は凄かったとか?」


「あぁ、あの人は力のお化けに憑りつかれていたな・・・」


「あ・・・遠い目をしている・・・」


「・・・おっと、すまん、すまん、また話が逸れたな」


「いえ・・・これで攻撃と盾役のアボスさん、僕は回復と攻撃役となると後は探索には欠かせない斥候や牽制攻撃役の弓術師か魔術師となりますが問題は・・いや・・・」


「どうした?、何か言い淀んでいるようだが・・・」


明らかにジインはもごもごしている。


「・・・おそらく募集しても誰も来ないと思います、ほとんどのパーティーが4人で固定されているのでソロや2人組の探索者がいないのでは・・・・・」


「む・・・確かにそれは・・・」


痛い所を突かれたな・・・ジインの言う通り、募集しても来ない可能性が高い、いやハッキリいってないだろう。


「・・・ジイン、とにかくギルドに行ってみるか」


~迷宮探索ギルド~


「はい、パーティーの登録が完了しました」


「ありがとうございます」


「・・・アボスさん、今募集板を見ましたが、やはり芳しくないですね・・・」


「・・・やはり、そうか、うまくいかないものだな・・・」


こういう時には気分転換でもするか、ふさぎ込むわけにはいかないからな。


「ジイン、迷宮を見に行かないか?」


「迷宮?2人で入るんですか?」


「そうではない・・・迷宮を見て何かインスピレーションが湧けばと思ってな」


「それはいいですね、行きましょう」



~百道迷宮前~

「はぁぁ・・・凄いですね・・・この中が迷宮になっているのか・・・アボスさんはここには来た事があるんですか?」


「いや・・・いつか仲間と一緒に迷宮に挑むまでは見ないと決めていた・・・それがこうして仲間と来ることが出来て・・・いや感慨深いな・・・」


「・・・アボスさんと一緒に迷宮に挑むのが楽しみです」


「・・・・・・ぅぅ、ぁぁぁ・・・・・」


「・・2人か、それも悪くないかもな・・?うん、ジイン何か聞こえなかったか?」


「・・・あっ!アボスさん、入口に誰か倒れています!」


「!!むっ!いかん、ジイン行くぞ!!」


「はっ、はい!!」


俺達は急いで迷宮の入口付近に行くとそこには2人の女性が折り重なるようにして倒れていた。


「これは酷い怪我だ、とにかく傷薬とポーションを、ジイン!お前は足を持て!いいか、優しく丁寧に運ぶんだ」


俺は収納ストレージから車輪付き大型担架ストレッチャーを取り出し、そこに2人を運んだ。


「よしジイン聖術で回復だ!まずは消毒ディスィンフェクト次に解毒キュアポイズンそれから治癒ヒールだ、いいか魔力の枯渇に気をつけろよ、俺はもう1人を看る」


「はい!!」


(・・・もう1人は、思ったより重傷だ、収納ストレージから薬箱メディスンボックスを出してまずは生理食塩液で傷口を洗い流して・・・ぬっ、思ったより傷が深いな、中級治癒薬ミドルポーションでいけるか・・・いや、ここは上級治癒薬ハイポーションだ!

こんな場面でケチってどうする、大盤振る舞いだ!)


「よし、これでもう大丈夫だ、ジインそっちはどうだ?」


「こちらも大丈夫です」


「このまま車輪付き大型担架ストレッチャーで乗合馬車の停留所まで行くぞ、いいか、そっと動かせよ」


「・・・アボスさん、この道具は一体なんですか?」


「傷病人を運ぶ車輪付きの器具だ、これは特別製で大型なんだが、本来はもっと小さかったり、車輪無しで人が運んだりする道具なんだ」


「・・・この上の部分を取り外してから馬車に乗せるのですね?」


「さすがに目ざといな、その通りだ、あとは御者にも協力してもらおう」


~教会前~

「御者さん方、手伝ってもらって助かったよ、これは少ないが酒手にしてくれ」


「「これはどうも、有難く頂戴致します」」


たまたま御者が新人の研修でもう1人乗っていたのと、乗客がいなかったので無理を言って教会前まで運んでくれたのは重畳だった。


もし町の前までだったら車輪付き大型担架ストレッチャーを出さなければならなかったし目立つことこの上なかった。この道具はあまり人目には晒したくなかったからな、


~教会内~

車輪付き大型担架ストレッチャーで施療室に2人を運び込んでベッドに寝かし付けた。


俺達の手当てが良かったのか2人の命に別条はない。


その後俺達はシスター達に彼女等の施療を頼み司祭様とは別室で事の経緯を話した。


司祭様は「もう少し発見が遅かったら危なかった、そして処置も適切でケガによる後遺症もほとんどない」との事、俺達はホッと胸を撫で下ろした。


「司祭様、それからこれを・・・」俺は大銀貨を2枚差し出した。


「差し出がましいお願いですが、1枚は彼女達の入院代と、衣服代として、もう1枚は「寄付」でお納めいただければ」

 

「・・・よろしいのですか、この方達とは顔見知り程度と聞いています、なにもそこまでする義理は無いのでは?」


「袖振り合うも他生の縁といいますか・・・せめて回復するまでは・・・それに教会はジインが世話になっていますし」


「素晴らしい心掛けですね、どうかご無理をなさらずに、あなたに神の御加護があらんことを」


 彼女達の面倒を頼み、教会を後にした。

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