第3話 それから・・・・
「セグトーチ」に来てから1年が過ぎた。
相変わらず俺は階級「0」の依頼をこなしている。
本来ならばとっくに階級「1」に昇級しても良いのだが、あえて「0」のままでいる。
どうやらこの町は本当に人手不足だ。
たまに外から迷宮挑戦者が来ると「0」の依頼は一時的にはなくなる、だが昇級すると皆がこぞって迷宮に行くので、また「0」の依頼が溜まることになる、これの繰り返しだ。
ただ、簡易宿泊所は半年前に出て、今は湯治宿を拠点にしている。ここは宿代がリーズナブルでギルドにも近く、美味しい食堂もあり繁盛している。ランク不問なので「0」でも問題ない。
さて、今日はどの依頼を受けようかな・・・・
宿を出てギルドに向かう途中で何気なしに薄暗い路地に目をやると人が倒れていた。
「うおっ、おい、大丈夫か?」と声を掛けたが返事がない・・・
・・・「いや、呆けている場合じゃない!、とにかく教会へ運ばなければ!」
慌てて俺は
周囲からは奇異の目で見られていたが救助が優先だ、人の目など気にしていられん。
~教会にて~
「かなり衰弱しておりましたが、もうご心配ありません」
教会で適切な処置を施してもらい、どうにか助かったようだ。
「・・・駆け込みで来たのに迅速な対応をしていただき、ありがとうございます。これは些少ですが治療費としてお納めください」
「まぁ、こんなにも・・・よろしいのですか?」
「お気になさらず・・・出来ればもう少し、ここで休ませていただきたいのですが・・・・」
「勿論です、その方が回復されるまで、ご遠慮なくお休み下さい、では私はこれで・・・・」そう言うとシスター長は部屋を出て行った。
~それから数時間後~
「・・・う、う~ん、はっ!・・・」
「おっ、おはようさん、目覚めたかい」
「おはようございます・・・あの・・・ここはどこでしょうか?・・・」
「ん、ここか、教会だよ、お前さんが道に倒れていたんで運んできたんだ」
「・・・そうだったんですか、あの、僕はジインと申します、助けて下さってありがとうございます」
「俺はアボスだ、ところでお前さんは何で道で倒れていたんだ?」
ジインは俯きながらポツポツと話し始めた。
その話を聞けば、どうやら旅の疲れが出たのと空腹のダブルパンチだったらしい、3日ほど水以外を口にしていなかったそうだ、そりゃあ倒れもするはずだ。
「それなら、これから一緒にメシでも食べながらお互いの話しでもするか?」
「でも、僕は手持ちがなくて・・・・」
「心配するな、メシ位奢ってやる、行きつけの食堂でな、とても美味いぞ」
「重ね重ね、ありがとうございます!ゴチになります!」
その後、教会にお礼を告げて食堂に向かった。
俺達は食堂の美味い料理に
「アボスさん、ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「ああ、お粗末様でした」
「・・・何か・・・信じられないです、昨日までは、踏んだり蹴ったりの人生だったのに、今日は至れり尽くせりになるなんて・・・・うぅ・・・・」
いきなりジインが泣き出してしまった、コイツは困ったぞ・・・・
「お、おい、何も泣かなくても・・・・」
「・・・頑張りますから、僕、頑張りますから・・・よろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそよろしく頼む」
なし崩しに面倒を看る事になったな・・・・我ながらお人好しだ・・・
・・・夜は更けていく・・・
~次の日の朝~ギルド前にて~
「うぅ・・・何か、緊張してきたぁ・・・」
「大丈夫だ、ジイン、さぁ入るぞ」
~30分後~
「はい、ジインさん登録ができました、こちらが探索者カードになります」
「あ、ありがとうございます」
ジインは探索者カードをしげしげと見つめている・・・
「ジイン、良かったな、これでお前も「0」ランカーだ」
~俺は昨日の食事時の話を思い出していた~
「アボスさん、僕も探索者になれるでしょうか?」
「ん?冒険者ギルドのランクや身分が低いからなれないとか思っているのか?」
「いえ、そもそも僕は冒険者ギルドに登録すら出来なかったんです・・・」
「なに、登録が出来ないだと?犯罪者だとでも言うのか?」
「いいえ、犯罪者ではありません、違う理由です」
俺は腕を組み暫し目を閉じて考えていた。
冒険者ギルドは登録条件はかなり緩かったはずだが・・・
いや・・・犯罪者以外に登録出来ないということは・・・まさか・・・
「ジイン、もしや無才なのか?」
「そ、そうです・・・」
ジインは肩をブルブル震わせて、目に涙が溜まっている、今にも泣きそうだ。
「ジイン、不安にならなくても良い、犯罪者でない限り、ここのギルドは登録できる、それに迷宮に潜ればお前の中に眠っている才能の種が芽吹くかもしれん、人間万事塞翁が馬、大丈夫だ、問題ない」
俺は彼にハッキリと告げると果実水をグイっと飲み干して口を拭った。
「・・・アボスさん・・・ありがとうございます・・・」
そう言った彼の目にはもう涙は無かった、その瞳には強い光が宿っていた。
「よし、しっかり食べて英気を養えよ、明日から忙しくなるぞ、ジイン」~
「・・・さん、・・・ボスさん・・・アボスさん」
「ん?あぁ、済まない、少し昨日の事を思い出していたのでな、さぁ、ジイン初仕事と行こうか」
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