第9話 新入生歓迎パーティ前日①
私は父親の執務室に呼ばれていた。
久しぶりに父親の顔を見た気がする、正直見たくもないけど。
「ソフィア、明日の新入生歓迎パーティにはこのドレスを着て行きなさい」
父親のロイエはそういって背中が大きく空いたスカート丈の短い、
紫色の派手なドレスを私に渡した。
明日学園に入学してくるベロニカ達新入生と二年生の私達在校生が、
入学式後の夕方に親睦会を兼ねて学園主催の歓迎パーティを行うのだ。
三年生は卒業まで一年近くあるのだけど、
貴族達は卒業前に婚約やら卒業後の婚姻に向けて新入生にあまり関われないので、
部活の付き合い等の個人的な事情による参加など、判断を任せて自由出席となり、
別途卒業パーティとして三年生だけでパーティが模様される。
では何故こんな頭の悪そうなドレスを着ていけと言われているかというと、
当初は王子様と婚姻出来た私を父親はそれなりに大切に扱ってきた。
だけど王子の気持ちがベロニカに気移りしている事に気付くと、
私をキープ的な存在と判断して、
もしもの時にベロニカが王子から見放された時の為の色仕掛け担当として扱った。
自分のふくよかな腹で腹踊りの練習でもしていれば良いのに、
自分の野心が娘頼りだとか、本当に糞親父だ。
前回の私は第一王子を出来るだけ引き立たせる為に、
普段から出来るだけ地味な化粧と格好をしていた。
それが新入生が主役のパーティでこんなケバケバしいドレスを、
いきなり着てきたら邪推されても仕方ない。
ただでさえ、王子の婚約者という事で妬まれていたのだ。
私への露骨な嫌がらせは、この時から酷くなっていった。
女のドロドロした水面下の争い舐めんなよ、糞親父。
前回は、父親に逆らう事なんて全く考えていなかったが、
今回ならいくらでもいいかえせる。
だがこれから王妃に伴って活動するに当たって父親と仲違いをするのは、
あまり宜しくない。
父親は外面だけは良いので、
自分に反抗的な娘を外国の要人に合わせる事を嫌がるに決まっている。
まあ良いか、娼婦みたいな格好で周りの令嬢から侮蔑されようと、
目的を果たすだけの人生だ、目的を果たした後に幸せな人生など期待していない。
私が了承の返事をしようとすると、使用人が慌ただしく部屋のノックをして、
父親が返事をするやいなや部屋に飛び込んできた。
「何事だ慌ただしい」
「それが第一王子様が急にお見えになられて、旦那様とお嬢様にお会いになりたいと」
「急に何だ、私は所用で外出中と伝えておけ、ソフィアは直ぐに行かせるので、
応接室にでも通しておけ、あんなのでも王族だ、茶菓子はそこそこの物を出しておけ」
「それが、その...」
「何だまだ何かあるのか」
「今晩は、ロイエ泊、こんなんでも第一王子の私で申し訳ありません」
「ああ、アーサー第一王子殿下、いくら殿下でもこんな急な訪問はいかがかと」
「あれおかしいですね、王城の役人には通達しておいたのですが、
確か今日ロイエ泊は城にいらっしゃる予定と聞いていたのですがね」
「そそそ、そうですか、申し訳ありません、お知らせするのを忘れていたかも知れません」
「忘れる事は誰でもありますからね、気にしませんよ」
「ありがとうございます」
「ところで今ロイエ泊がお持ちの斬新なドレスは、
私の婚約者であるソフィアに着させるつもりですか?
私が成人して王太子になった暁には、王太子妃になるソフィアに?」
「いえ、これは…」
「最近父上から相談を受けてるのですよ、
そろそろ四月になるんで叙爵したい貴族がいるらしくて、
良い領地が余ってないかと。
ロイエ泊は心あたりはありませんか?
例えば王族を軽んじて娼婦の様なドレスを送ろうとする貴族とか」
「ぞぞぞ、ぞんじあげません、これは私の妻に贈るドレスを娘に相談していたのです」
「なるほど失礼しました、奥様は大変お若いのですね。
一度だけその言い分を信じます、但し一度だけです。
ソフィアが本意でないドレス着せられて、周りから揶揄されたと私の耳に届いたら」
「はい、わかっております」
狂王、前回の人生で臣下の前で人の命も虫の命も違いが分からないと言い放ち、
目前の臣下の首を飛ばして恐れられた男。
王族の威厳に狂気をまとわせた男がロイエ泊を見る目は虫を見る目だった。
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