0-9 いいこと思いついたかも


 あああぁぁ……また一人で考え込んでいた。たぶん、0.5秒ぐらいの間に!

 

 そう。実は私には、

【独りで勝手に内面世界に浸る】というダメな癖がある。

 

 深海の奥底に、深く深く落ちていく感覚で、ネガティブなことをずっと考える。

 そのとき、時は止まっているかのようで――1秒未満しか経ってなかったりするんだ。

 それが起きるのはごくまれで。普通に考え事して、普通に時間が経つのが大半だけど。

 

 えーっと、えーっと、現実に戻ろう。ハイ!


 うん。実際には、目の前のアサガオくんは、無邪気に素直に喜んでくれている。

「謎について一緒に考えたい」という私の提案を。


 まるで「夏休みの宿題を手伝ってもらえることが決まった少年」のように、ぱああぁっ! と明るい晴れやかな表情だ。背景にひまわり咲いてそう。


 こーの、ハイスペ素直イケメンめ! うじうじしてる私の気持ちなんて、わかるまい。


 でも、その直後――。

 何かに気付いたかのようにハッとして、「うぅ~ん……」と低く呻くアサガオくん。

 表情の変化が、晴れのち曇りみたいで忙しい。


 やがて長い睫毛を伏せて、しょんぼりと心底残念そうな声で、

「相談したいのはやまやまだけど、お客さんの個人情報に関わることだから、たにたになんだよね~~……」

 

 山と谷を対応させたようだけど、単によくわからない日本語になってるよ。

 時折、アサガオくんはこういうヘンな表現をすることがある。けれど(天使と人間のハーフだから感性も独特なんだなぁ)と妙な納得をしている。要するにスルーだ。

 

 それより個人情報の取り扱いについて。

 まあ確かに、そうか。令和を生きる現代人として、お客さんの話を、他の客にベラベラ詳しく話せるわけがないよね。ちぇっ。


「あ~! でもね、僕いいこと思いついたかも~~!」

 そんな声をあげたアサガオくんが、口角をあげて、にこーーーと微笑む。

 まるで、新しい遊びを思いついた子供みたいに、ご機嫌な笑み。


 それは思ってもみない提案だった。




 ――ねえねえっ、もうすぐ夏休みだよね。

 暇な日は、うちで「助手」としてバイトしてみない?


 そしたら僕とマヨさんは「仕事仲間」になるからさ~。

 お客さんに関する謎のことを、詳しく相談しても自然な気がする~!


 それに、事務所には大きなソファーベッドがあってね。

 そこでなら横になって、もっとずーーっと眠らせてあげられるよ~~!!




「……な、なっ! ………あっ、……はぁ!??」

 動揺しすぎて言葉にならない。悲鳴みたいな吐息しか出ない。


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