0-4 気持ちよかったでしょ

 

 ――安らぎ。

 ずっと飢えていた、欲していた安心感。


 そーゆーもので、ふんわり包まれて……満たされてた。

 心も身体も意識も、まどろんで溶け合って漂う感じ。


「……マヨマヨマヨさん……?」


 遠くから、かすかに声が聞こえる。……うるさいよぉ。

 せっかく眠ってるのに。なんかマヨ多いし。


「……マヨマヨマヨマヨマヨさ~ん。ねーねー」


 増えてるし。

 私のこと、そんなふうに呼ぶ人なんて知らない。

 ――あなたは、だあれ?


 トントン、と肩への優しい振動。

 誰かにそっと、触れられたみたいな。


 それはまるで……夢の世界のドアを、ノックされたみたいで――

 ふぁっ!!?? と目を覚ます。



「よく眠れた~~??」



 そんな明るい声で、夢から現実に出迎えられて。

 目の前にはアサガオくんの綺麗な顔。

 ニコニコな笑顔と、ふふーんと得意さが混ざり合った表情。


「気持ちよかったでしょ~~。熟睡できて」


 私は、ファミレスのソファーに座ったままの体勢で。

 思わずキョロキョロして、身体もビクッと震わせる。

(わ、わたしっ、寝てた!!??)


 アサガオくんは、手のひらを自分の頬にあてつつ、残念そうに呟く。

「もっと眠らせてあげたかったけどね~、お店もそろそろ混んできちゃうから」


 その言葉で窓の方に目をやると、外の景色は明らかに夕方へと変化していた。

 ひーーーっ! 何時間も居座って、お店の人ごめんなさいごめんなさいっ。


「あ、あのっ、わ、私……!」


 お礼とお詫びと、ええと、何から言おう!

 そんな焦る私に、彼は包み込むような柔らかい声で 




「おはよ~マヨさん。今日も絶対、いい日だよ」




 ……!! 


 もう夕方だし。何を根拠にそう断言するのか? ――なんて、ひねくれた反論は出てこなかった。


 久しぶりに眠れて、幸せ過ぎたから。

 代わりに出てきたのは、ふぬけた同意の返事。


「……ふぁぃ……」


 半分寝ぼけてたけど、きっとずっと忘れない。

 

 ――これが、アサガオくんと初めて出会った、ある春の日の出来事だ。



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