0-2 直線で結べる因果関係
……で、だ。
彼からの返信は、待つまでもなく速かった。
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は~い、とーっても緊急のようですね~。
まずは、ファミレスかどこか、他の人も
いる場所でお会いしてみましょ~う。
ファミレスで熟睡しちゃうかもなので、
お店のご迷惑にならないように
なるべく空いてる時間帯にしましょう~。
可能であれば、枕もご持参ください~~~。
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この人は「~」を多用しないと、死ぬ病気なのか。
そんな、ゆるゆる~の返事。
優しげなのか、いい加減なのか、判断に迷ってしまう。
(というか「ファミレスで熟睡」って、どういう意味……?)
ご飯を食べて満腹になったら眠れるような、そんなヤワな不眠じゃない。
私の不眠は、なんちゃって不眠じゃなく、ガチのガチの不眠だ。
もし仮に、お店でこっそり、飲み物に薬を入れられたとしても……私にはさほど効かないだろう。そこんじょそこらの薬やサプリは、あれこれ飲んで、お試し済みだ!
誇れることじゃないけど。
そんな私に、さらに追加で送信されてきたのは、スタンプのような画像。
可愛い動物のイラストに「よろしくです~」と文字が添えられている。
体が黒と白のツートンカラーのその動物は、昔テレビで見たことがあった。
(マレーバクだ。バクって確か、悪夢を食べるんだっけ……)
可愛らしい動物のイラストは、こんな状況でも心を和ませてくれる。
また、向こうから「ファミレス」を提案されたことは、ほんの少しだけ気をラクにしてくれた。「事務所に来て」とかは怖すぎて最悪だもんね。
あと「枕もご持参」は、使ってる寝具をチェックしたいってことかな。何か売りつけたいとか? これは無視しよ。
(とにかく――警戒心は手放すものか。油断は禁物)
そんなことを思いつつ、慎重に待ち合わせ場所と日時を決めた。
で。その日時が――本日。あと1時間後のこと。
だからそろそろ、家を出て出発しないと。
不安感が、無いわけじゃない。
見かけたレビューも、手の込んだ偽装かもしれないし。
いつだって世の中は、最悪すぎるニュースに溢れている。
犯人の男が、SNSでターゲットを物色し、出会った女子学生を惨殺する事件もあった。明日は我が身だ……。いや「今日」会うんだけど! ああ、護身用のスタンガンでも用意しときゃ良かったかな。
でも………………まぁ、いっか。
そう。別に、どうでもいいよ。もし無事に帰ってこれなかったとしても。
3LDKのファミリー向けのマンションの一室。
床にうっすら埃が溜まり、少し荒れたリビングに佇んで、思う。
(だってもう、この家で……私の帰りを待ってる人は、存在しない)
「おはよう」「おやすみ」「いってらっしゃい」「おかえり」「ご飯できたよ~!」「早く寝なさーい!」などを、私に言ってくれる人たちは――あの日から、いなくなってしまった。
原因は、父の居眠り運転。同乗していた母も犠牲に。
そして私は、眠れなくなった。
分かりやす過ぎる、直線で結べる因果関係。
そりゃーもう、どうしようもないね。眠れなくもなるよ!
深夜の単独事故で、他に誰も巻き込まなかったことだけは救い。
悲しみの記憶さえ、眠気に覆われぼんやり霧がかってるけど……。
――そういえば。
眠れなくて読み漁った本の中に、海外のことわざがあった。
日本では「溺れる者は
……私も今、限界まで追い詰められている。
あと一押しで、この世にまるごと諦めがつきそうなぐらいに。
最後まで
まあ、どうだっていいか。
「自暴自棄」は、痛い目に遭う「自業自得www」と繋がっているかもしれない。
「怪しげな男性にすがって、会いに行く」なんて、きっと愚かなこと。
だけど、とにかく眠りたいんだ。しっかり眠らないと、何も始まらない。
――さて。ヤケ気味の覚悟はできて、身支度も終わった。
手で掴んだトートバッグの中にあるのは、藁でも刀でもなくて、家の鍵と財布とスマホ。
それだけ持って……私は『アサガオくん』に会いに行ったのだ。
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