第3話 一緒に食べようたかやまくん
午前の授業を終える。
この間は大変だった。警察と救急車が来るまであの場でたかやま君と一緒に待ち、結局もろもろあって全て終わって職場につくのが17時過ぎになってしまった。既に定時を過ぎてるが教師には大して関係無いので授業を変わってもらった先生方に礼を言った後、残していた仕事を片付けて21時過ぎに帰った。
たかやま君は取り調べが終わったらすぐに帰っていたな。それでも14時過ぎだ。朝早くからあんな目にあってさぞ疲れたことだろう。折角入学してきたばっかりなのに可哀そうだ。
…あの子、非常に整った顔を持っていて…やけに冷静だった。何か不思議な生徒だったな。友達とか…あまり作れそうにないな…。ていうか、いじめられそうな感じもするが…。
まぁ、あんな目立つ生徒だ。きっとまた、直ぐにでも会うだろう。そしたら気にかけてみよう。
って…あ…。
あんな所に…。
「あ!ちょっと!たかやまくん!」
一人で後ろを歩く少年に急いで駆け寄っていく。ぼぉっとした顔でとぼとぼと歩く少年。今は昼休みだ。今は昼休みだ。こんなとこでなにしてるんだ?
少年がそっけなくこちらを一瞥する。
「せんせい…」
本当に何?って表情だ。もしかして、嫌われてるのか?
「先生も今授業が終わって職員室に戻る所なんだ、一緒に行っていいかな?」
…
返事が返ってこない。多分元々引っ込み思案なんだろう。人と話すのが嫌いなんだ。
「たかやまくん、この間は災難だったね…あの後大丈夫だった?」
「まぁ…」
…本当に人見知りだな。この調子じゃ俺の危惧してた通り友達もいなそうじゃないか?
「そうだなぁ…いま昼休みだけど…どこに向かってるんだ?こっちは食堂じゃないけど…」
「トイレです」
「トイレか…」
トイレね…。両手を確認する。良く見るとコンビニで買ったらしいパック詰めのサンドイッチが握られていた。
…
「たかやまくん、もしそれトイレで食べるつもりだったら外で一緒に食べないか?」
「…いえ、おかまいなく」
そう言ってたかやまくんはさっさと行ってしまった。
嫌われてるのかな…?
~
翌日、同じように廊下を歩いていると、またトボトボと歩くたかやまくんを見つける。…嫌われてるのかもしれないし、もしかしたら俺に話しかけられるのを嫌に思っているのかも…。だが、俺が話しかけなかったら誰にも話しかけられないなら…。
「よう!たかやまくん!」
「…こんにちは」
また返事は無い。
相変わらず、コンビニのツナマヨサンドウィッチを握っている。
「今日もトイレに?」
「…」
おそらくトイレだろう。
たかやまくんに友達はいるのか?3組か…ってことは、担任は中村先生…俺あの人苦手なんだよな…。40ぐらいの偏屈そうな人で…無口で正直何考えてんのかよくわかんないんだよ。
近づくなってオーラが少し出てて…つれないんだよな…。話しかけてもそっけないし…。ってあれ…この子と似てる…?
「たかやまくん、お昼一緒に食べないか?」
「いえ、おかまいなく」
また、スタスタと歩いていく。
そんなに俺のこと嫌いなのか?
~
翌日、朝。アラームで起きてぼろアパートを出発する。朝飯は昨日買った菓子パンだ。
今日も、きっとどっかの学校では朝飯に菓子パンを食べた子供が、ただゲームをした子供が、意味の分からない説教をされているんだろう。
って…あ。たかやまくんだ。俺のことを嫌っていても、俺は嫌いじゃないぞ!
「おはようたかやまくん」
今はまだ7時前だ。人通りも少ない。この時間に歩いてるのなんて部活動の朝練がある生徒か、もしくはくたびれたリーマンだけだ。
…そういえば、この間もこんな時間帯だったな…なんでこんな早くに…?
「おはようございます、せんせい」
こちらを横目で見て挨拶を返してくれる。
「早いな、部活とか入ってるのか?」
「…」
入ってないのか。じゃあ、どうしてこんな早くに…?
たかやまくんと学校に向かって並らんで歩く。
一瞬自分の過去が映像として頭に流れる。…あまり、そこを突っ込むのは得策じゃないな。
「いやぁ…今日は暑いな」
Yシャツの一番襟をパタパタとする。
「そうですか?」
今日は暑い。それもそのはず、今着実に夏が近づいている。制服は来週から完全に夏服だし。たかやまくんは既に夏服だ。
「こんな時期にはな、先生はアイス食いながら出勤するのが毎日の楽しみなんだよな」
もうすぐ行くと、コンビニがある。ここに赴任してきてからまだ1年近くしか経ってないが、熱くなってくるとそこでアイスを買って食べながら登校する。赴任したての頃は学校につく前には食べ終えて誰にも見られていないはずなのにどこからかクレームが来ていたのでびびっていた。だが、今はそんなこと気にしない。
そんな見ず知らずの人間のお気持ちになぜ配慮しなきゃならんのだいと思って。
「ほらあそこにコンビニがあるだろう?俺はあそこでアイス買って学校まで食べながら行くんだよ…どうだたかやまくん…これは本当に至福の時間でな、一日の憂鬱なことも全部頑張れるようになるんだ」
「はぁ…」
「ついでに、買って行ってあげるから一緒に食べないか?」
「いえ、結構です」
…本当に嫌われてるのか…。そんなに俺のこと嫌う要素あるかな。たかやまくんがいるクラスは国語で担当したこともないんだけど…。どこで嫌われるんだ?
あぁ、やっぱりうざがられてるのかな。う~ん…。
まぁ、でも本人が結構って言うんなら…それ以上深入りするのはよしておこう。
「分かった、じゃあ先生はアイス買って悠々自適に歩いていくから、ここでお別れだ、じゃあな」
笑顔でたかやまくんに向かって手を振る。
たかやまくんは相変わらず無表情のまま少しこちらに会釈すると、またすたすたと学校へ向かってしまった。
~
昼休み。廊下。2度あることはなんとやら。しかも本日2回目の遭遇だ。
「おやおや、たかやまくん…トイレか?」
「…はい」
うざがっているのだろう。きっとそうだ。自分より年上の男が毎日、親しげに話しかけてくるのはきっと嫌だろう。だけど…高校始まって早々一人で便所飯に行く生徒を放っておいて平気かと言われると、そこまで俺はできた人間じゃないんだ。
「さて、今日は先生と一緒に…」
たかやまくんがこちらが言い終わる前に深いため息をつく。
「いいですよ…一緒に食べましょう先生」
今、ため息をついた…。なんのため息だ。諦めか。そうか、俺のしつこい誘いについに観念したってことか?なんか…改めて考えるとストーカーみたいで少し嫌気がさしてきたな…。まぁ、いいや。
「よっし、そうと決まれば…先生のお気にの場所…紹介しちゃるわ!」
右手をグっとしてみせる。
「あ、じゃあ、職員室に飯取りに行くから…あそこで待っててくれ、屋上前の会談で」
たかやまくんのほうを見る。少し、驚いた表情でこちらを見ている。
~
「どうだ?高校と屋上なんて最高の組み合わせだろう?それっぽくて最高だろう?」
「…」
「これが先生権限だ、普通学校の屋上なんて閉まってるもんだからな、ここを邪魔するやつはいないさ」
適当に腰を下ろし、コンビニのおにぎりが4つ入ったレジ袋をあさって、中からパック入りの牛乳を取り出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます