第2話 ショットガンヒーロー

 最近巷で話題の人気者、ショットガンヒーロー。。彼は、どこからともなく現れては怒りを抑えられなくなった人々を迅速に処理し、またどこかへ消えていく。


 最初は単なる快楽殺人鬼と結論付けられていたが、どうもそれではすまないらしい。まず、本当にどこからともなく現れるのだ。彼が道をトコトコと歩いている瞬間を見た者は誰もいない。


 そして、第2に今までショットガンヒーローが出てきたのは計250回であるがその出没場所には一切のまとまりがない。日にちは勿論、場所もバラバラ。福岡に出たと思えば今度は青森に出る。そうかと思えば沖縄になんて具合だ。


 おそらく、奴は人間ではない。そうとしか考えられない。だからこそ絶対に捕まらない。


 …正直、ショットガンヒーローだなんてあだ名…いつの間にかつけられていたが、あんなものがヒーローとは思えない。あいつはただの殺人鬼だ。ショットガンで人の頭をぶっ飛ばす何か妖怪の様な物だ。あいつ自身が人の怒りや殺意に対する殺意の塊なんだ。


 いくら怒りを抑えられないとは言え…それは本人のせいじゃない。おととしから急に出現し始めた原因不明の奇病のせいだ。それなのに、それに侵された人を殺すのを許容できるはずが無い。…あれをヒーローだなんて言ってもてはやしてる人間は自分の周りが巻き込まれていないからまるでショーなんて見てる具合なんだ。


 一度、親が殺されてでもみろ。きっと、ヒーローだなんて二度と思えないだろう。


 許容できるわけがない…。


 「おい!」


 空気中に鳴り響く怒鳴り声で意識が戻る。


 「お前!謝れよ!」


 何やら遠くのほうで人が怒鳴っているようだ。


 「謝れ!謝れ!」


 なおも続けている。…発症か?


 「なんだとぉ!?てめぇ!!殺すぞ!!」


 まだ続いている。一体、なんだろうか?そちらのほうに目を向ける。


 一人の30代ほどの男が学生服を着た、少年の胸倉をつかんでいた。


 あれは…うちの学生じゃないか。


 急いで、駆け寄る。


 「ちょっと、何があったんですか?それはうちの生徒ですが…」


 「あぁ!?うるせぇ!!急にこっちに歩いてきたんだよ!てめぇもだよ!」


 駄目だ。会話が成立していない。それに口の端から泡が出ている。おそらく、発症者だ。胸倉をつかまれている少年を見る。


 一見、男には見えない中性的な顔。美少年というべきか。焦る様子も無く、ただ冷静な目で目の前の男を見下ろしていた。


 なんだ…?やけに落ち着いているが…少なくとも、ここで無視するわけにはいけない…。


 「その子を離してください!そうでなければ今すぐ警察を呼びますよ!」


 ここはそんなに人通りの無い住宅街。とはいえ、今は通勤、通学の時間帯だ。少し遠巻きにこちらに視線が注がれている。誰か、既に警察を呼んだんじゃないか?だが、少なくとも、これは最後の確認だ。これが発症なら警察を呼ぶだけじゃ間に合わない。


 「あっ!?なんだぁ!!?いみわかんねんだよ!コラ!!俺に恥かかせるな!!」


 駄目だ。本当に会話が成立しない。このままでは、この生徒に危害を加えるだろう。警察を呼ぶ余裕は無い。

 

 …俺は、一応は教師だ。生徒を見捨てるわけにはいかない。


 手をギュっと握り拳を向ける。


 その瞬間、目の前の生徒が自分をつかむ男の顎を思いっきり手のひらで押し出す。そしてそのまま、よろけた男に足をかけ自分ごと倒れ込んだ。


 アスファルトに響く鈍い音。


 「君!大丈夫か!?」


 一目散に倒れた生徒に走って向かう。


 さっきまで怒りに我を忘れていただろう男は既に一言も発さずに目を白くして口をパクパクさせ痙攣している。後頭部を地面に打ち付け脳震盪を起こしているのか?


 そのうえに倒れる生徒がゆっくりとこちらを振り返る。


 先ほどと打って変らない、非常に冷静な目。無表情な顔。えらく落ち着き払っている感じだった。


 少しあっけに取られていると、その少年が男の上から立ち上がり、服をパンパンと両手で払う。


 「大丈夫です…特に怪我はしてません」


 淡々とした返しに唖然としていると、少年が歩き始めた。


 「あ…ちょっと、待て待て!大丈夫か?本当に怪我とかは…?」


 少年に走り寄り、肩をつかむ。


 「はい、特には…」


 振り返って倒れている男を見る。


 まだ痙攣している。あれは…まずいな放っておけば死にかねない。ああなってももとは普通の人間だ。見捨ててはおけないだろう。


 携帯を取り出し、119を押す。


 「き、君!ちょっと待って!学校には私から言っておくから、警察に説明しないとだから…」


 電話に向かって手短に状況を説明する。別に珍しい事じゃない。急に「発症」した人間がまだその中途にあるうちに怒りをぶつけた人間に「正当防衛」されてしまうことは少なくない。


 すぐに状況を理解し救急車をよこすと言ってくれた。そこから対応した隊員の指示に従い生死を確認する。痙攣してるが呼吸はある。心臓は動いている。取り敢えず、体勢を変え、楽な姿勢にさせる。


 電話を切る。


 横にぼおっとただ立つ少年に話しかける。まぁ…少年だ。なれないことにびっくりしてるんだろう。そういうときは俺たちが代わりに頑張るしかない。


 「ふぅ…きみ、ついてないね」


 横目でこちらを見る。


 「いえ、しょうがないですよ」


 びっくりして逆に冷静になってるんだろう。やけに淡々とした返答に少しだけびっくりする。


 それにしても…この少年…なんの躊躇も無しに相手をアスファルトに向かって倒したな。…まぁ、やらなきゃ自分がやられるかもしれないから気持ちは分かるが……。これは、注意しといたほうが良いのか…?


 …いや、まぁ…こんなご時世だ。道徳を守れなんて言ってもしょうがないだろう。


 そうだ。取り敢えず学校のほうに連絡しておかないと…。


 「君、飛鳥南高校の生徒だよね?名前と出席番号、クラスを教えてもらっていいかな?僕は一応、そこの先生なんだ」


 「たかやま だいちです、出席番号24番、1年3組」


 


 


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