ショットガンヒーロー

蛇いちご

第1話 プロローグ

 ショットガンのチューブマガジンにシェルを入れる。スラグ弾だ。バラクラバマスクを付けているから少し呼吸がきつい。だが、外すわけにはいかない。遠くから扉を打ち破る音が聞こえる。


 俺は止まらない。頭の中ではロックが流れている。


 俺一人、ここで死んだところで明日は変わらず流れていくだろう。俺の残したメッセージも決して世間には広まらないだろう。だが、俺はそれを許さない。そして俺を許さないものを全て殺す。殺す。殺す。


 SATがここに到着すまでに何人殺せるか。別に俺は殺したいわけじゃない。


 だが、ここに突入してくるなら殺す。なぜならそういう風に決まっているからだ。


 ~


 村上警部補は週の暴力事件の件数を張り出していた。この地区では1週間に報告された暴力事件の件数は97件だ。殺人事件は59件。1年前と比べれば10倍以上の異常な数だ。


 「一体なんなんかね~、殺意の波動って感じかね…」


 村上警部補が後ろに立つ石井巡査長に話しかける。


 「さぁ…どうなんですかね…奇病としか言われてないですけど…」


 そういった瞬間に背中越しに車のエンジンを思いっきり踏み込む音が聞こえる。


 二人が急いで振り返ると、白いワゴン車が歩道に向かって猛スピードで突っ込んでいるところだった。


 「っち…出たぞ!」


 歩道にはちょうど帰宅時の人々であふれている。一瞬で状況を判断した彼らは言葉を発する前に瞬間的に腰に下げたP230 を抜き、運転席に向かってマガジンの弾丸を全て撃ち込む。


 阿鼻叫喚。歩道には、前方がぺしゃんこになり、運転席の窓に穴がいくつも空いた白いバンが電柱につっこんでいる。


 死んだか?


 二人がそう思った瞬間、止まっていた筈の白いバンのタイヤが動きだし、バックし始めた。二人は大慌てで腰の後ろにつけているマガジンポーチからマガジンを取り出し、銃に弾を装填するがその時には既に車は人混みが逃げている方向に照準を定めていた。


 「殺せ!!」


 村上がそう叫んだ瞬間。バンの上に何かが飛び乗った。あまりにも瞬間的なことだったので2人が何が起こったか理解する前に空気を揺るがす音が響く。


 ショットガンの発砲音だ。それを二人が理解した瞬間、バンの上にいた様に見える人影はそこから転がり落ちたかと思うと、忽然と消えていた。


 「おい…いくぞ」


 石井巡査長が左から、村上警部補が右から銃を向けたままバンに近づいていく。運転席を見る。


 …中の男は顔が真っ赤になって、明らかに歪んでいることしか分からなかった。車内はあれだけ撃ちこんだにしては弾痕は残っているが、スプラッター映画の様に血の海という感じでは一切無く、むしろこぎれいな感じだ。



 「はぁ…またか…」


 村上が拳銃をホルスターにしまい込む。


 「やられましたね…ショットガンヒーローさん…ですかぁ…」


 石井巡査部長は既に拳銃をしまっていた。


 

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