第6話 直感を信じて
生誕祭の午前の部が終わると、私はバートンと一緒に奥の休憩室へ移動して昼食を取ることにした。
移動している間、先ほど笑いかけられた青色の騎士のことが何故か頭から離れなかった。
(……なんだろうな。理由はないんだけど凄く気になる)
一目惚れという類いではないと思うのだが、あの笑顔には引き寄せられる何かがあった。
(あの笑顔に世の女性は惚れるのかしらね)
素敵な笑顔だとは思ったが、それを挨拶でするには少し不必要にも思えた。
(まぁもちろん。多くの女性に好かれたいと言うなら話は別だけど)
そこまで考えて、自分の頭の中をかき消すように首を横に振って考えを払った。
(なんでこんなこと考えてるんだか)
出会ってすらない、一目交わしただけの相手のことを考えすぎていることに気が付くと、急いで思考するのをやめた。
「ルミエーラ、何をしている? 座らないのか」
(!)
どうやら私は扉の前で立ち止まっていたらしく、先に席に着いたバートンがこちらを向いて声をかけた。
慌てて頷くと向かい側に座った。
そう言えばなにも飲んでいなかったことを思い出すと、目の前に用意されたお茶に口をつけた。
「そうだルミエーラ。気になる騎士は見つかったか」
(うっ)
飲みかける直前で、カップの中に泡が立つ。ゆっくりとテーブルにお茶を戻すと、何事もなかったようにバートンの方を見た。
「教会内には既に何人かの騎士がいたと思うが、それが神殿の騎士団だ。基本的に誰でも良いという話を大神官様から言われていてな」
恐らく派遣される騎士は、神殿の中でも立場の高い者の可能性が高い。ソティカの立場は聞いたことがないからわからないが、神殿の中にも序列はあるはず。
ソティカの有能さを見る限りでは、少なくとも半分よりは上の位だと思う。
そして今回護衛騎士となる候補達も、ある程度聖女に関する情報を持っている人間だろう。それと同時に、大神官の息がかかっている可能性が高い。
私に選ばせる理由はわからないが、大神官は人望がかなりあるため、誰を選んでも自分に情報は流れてくると思っているのだろう。
(だとしたら嫌なやつすぎる……)
監視されるという精神的負担だけでなく、選らばせる労力まで贈るとはやはり大神官はとてつもなく性格が良い。私が嫌悪する理由が含まれてるというものだ。
「さすがは大神官様だな。聖女のことをここまで考えるとは」
(真意は真逆かもしれませんね)
バートンはもちろん神官長なので、大神官のことを慕っている。大神官を持ち上げ終えると、彼が抱くもしもの懸念伝えた。
「だからルミエーラ。気になる騎士がいるなら、なるべく早く言いなさい。万が一にでも駄目かもしれない時は、選び直さないといけないからな」
何が言いたいのかはよくわかる。もしも私が選んだ騎士が、役職持ちであったり、騎士団側からは不都合な者であった場合は断られるだろうから。
(護衛騎士……)
騎士の二文字と共に、どうしても青色の彼が思い浮かぶ。
もどかしい思いが沸き起こるものの、その理由に答えを見いだすと、私は立ち上がった。
「どうした、ルミエーラ」
バートンの声を背に、部屋の中にある書くものを見つける。そして立ち上がると、近くにあった紙に書き込んで、自分の要件を述べた。
『護衛騎士を決めました』
「おお、本当か! それでどんな特徴の騎士だ?」
反応を確認すると、もう一度紙に文字を書いていく。
『青色の髪色の人です』
「青色……」
もしかしたら、他にも青色の騎士はいるかもしれない。最悪、バートンに頼んで全員連れてきてもらうことも視野にいれて伝えた。
「あぁ! わかったぞ。青色の髪の騎士は一人しかいない。だから間違えることはないだろうな」
(それなら良かった)
安堵のため息をつきながら、紙とペンを持って席に着席した。
「……だがルミエーラ良いのか?」
その瞬間バートンから疑問を尋ねられるも、どういう意味か問うつもりで首をかしげた。
「いや、決まったかと尋ねた私が言うことではないが……実はこの後騎士団長から、特におすすめの騎士を紹介してもらおうと思ってな。そういうこともできたのだが」
(それは初耳ですね)
今更過ぎる話に愛想笑いが出てしまう。
「一応ルミエーラは何も知らないに等しいからな。だがお前が見た目で選んだならば文句はいうまい。好きに選べと言ったのは私だからな」
(……説明することじゃないし、面倒だからそういうことにしとくか)
バートンなりに気遣おうとしていたのはわかったが、遅すぎる情報でもあったため、使う必要はないと判断した。
(それに……護衛騎士は彼でいいと、私の直感がそう告げるから、大丈夫な気がする)
軽薄だ何だと考えていたが、何故だか自分の中の感覚が彼にするべきだと働いたのだ。断じてこれは一目惚れではないと思うが、その理由も知るためにも、一度選んでみるのも手かもしれないと考えた。
「では後程騎士団長に伝えておこう」
バートンに感謝のお辞儀をしたところで、昼食が運ばれてくるのだった。
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