第5話 ろくでもない贈り物
とんでもないバートンの発言に、脳が処理をすると感情が込み上げてきた。護衛騎士というのは、教会の警備とはわけが違う。下手をすれば四六時中、近くにいることになるのだ。
私の厄介な能力もそうだが、コミュニケーションを取るのが面倒極まりない。関係構築を含め、無駄な労力を割くことは間違いないだろう。
というか、私が喋れないのを知っているのにその案を通しているのだ、このバートンは。気遣いのなさにあきれていると、本人は全く悪びれる態度はなく続けた。
「どうだ、嬉しいだろう?」
(ろくなことしませんね、本当に!)
チラリとこちらを見ながら、むしろ得意気な態度で尋ねる姿は、非常に癪にさわった。文句の一つでも言ってやりたいが、私に拒否権もないため、作り笑顔で内心を悟られないようにする。
「そうか嬉しいか! それなら何人でもつけるといいぞ。今日は神殿の騎士団が祝いに来てくれるらしくてな。そこから自由に決めていいと大神官様からのお達しだ。おそらくルミエーラへの贈り物だろうな」
(てことは、ルキウス・ブラウンの仕業か!)
頭を抱えたくなったが、それを我慢してペコリと会釈をした。
(あいつ……絶対何か企んでるでしょ)
あの高貴な大神官が何を考えているかはわからないが、取り敢えずは一旦厚意として受け取ろうと思った。嫌々だけど。
「ふむ。先方に何人つけると言わなくてはならないんだがな……少なくとも四人とかか?」
顎に手を当てながら考え出したかと思えば、またとんでもないことを言い出したので、勢い良く人差し指を出してバートンに押し付けるように見せた。
「一人だと? 遠慮をするなルミエ」
(一人でも要らないのよ!)
びしっ!
バートンの言葉を遮って、笑顔で人差し指を掲げた。心なしか笑みに力をめいいっぱい入れて、頑張って圧を出してみた。
「そ、そうか。まぁ、教会の警備体制は完璧だからな。それも重ねて伝えるとしよう」
バートンが了承すると、こくりと頷いて指を下ろした。
「それではルミエーラ。お前にふさわしい、最高の騎士をみつけるといい」
(……なるべくコミュニケーションを取らなくていい人材を見つけなきゃ。ここは私の見る目が試されるわね)
騎士にも寡黙な人間はいるはず。そう思って、
いつもように、教会内の中心に立って笑みを浮かべる。背後には教会が大層大切に管理をしている、創造神レビノレアの像が建てられていた。私の大嫌いな神の像が。
「皆様、本日は我らが聖女、ルミエーラ様の生誕祭にございます! こんなに素晴らしい日はないでしょう。さぁ、祈りをお捧げください」
見世物のように立たされているが、もはや慣れてしまったために何の感情も浮かばなかった。
本来ならば、生誕祭くらい信者と話を聞いたりと交流をするべきなのだろう。だが私が話せないことを、悟られてはいけないという理由から、私が必要以上に人と関わることは神殿側が禁止している。
私が話さなくても信者や周囲が不思議に思わないのは、神々しいからという理由で成り立っているようだ。聖女という立場の人間だからこそ、そう簡単に声を発さないということになっている。
これもバートンの謎の説得力のおかげだが、そもそも私が喋らないことに疑問を抱くような勘の良い人間は教会には来ないのだ。
ここに来るのは、何かに行き詰まって助けを求めるような人々ばかりだから。もちろん全ての人の心が清らかとは言えないが。
「聖女様、おめでとうございます」
「お誕生日おめでとうございます!」
信者の一人一人から祝いの言葉をもらうと、笑顔で会釈をしながら受け取る。
やっぱり思惑渦巻くこの日でも、祝辞をもらうのは嬉しいな、そう思って心からの笑みを浮かべようとするも、すぐさますっと気持ちが薄れてしまった。
「皆様。このブレスレットは聖女様の思いが込められたものなのです! 神のご加護があると言っても過言ではないでしょう」
「是非それを一つ!」
「私にもください!」
(……はぁ)
バートンの欲まみれの声が耳に届くと、目に浮かびかけた光はすんっと消えた。代わりに心のなかで特大のため息が生まれることになった。
(そう言えば、神殿の騎士団はもう来てるの?)
バートンは今日来ると言っていたが、あまり正面玄関から目立つ登場はしないと思った。それ故に、彼らは既に来ているんじゃないかと考えたのだ。
信者に笑顔を向ける合間に、ちらりと周囲を見ていた。
(やっぱりもう何人かいるみたいね)
騎士らしい服を着た者が目に入ると、状況が把握できた。ちらりと見続けると、目立った髪色が目に入った。
(綺麗な青色……)
その瞬間、青色の髪をした騎士と目があった。
予想外のことに目を離そうとしたのだが、彼は目が合うと優しく微笑んだのだ。
(!)
慌てて目をそらしながら、何もなかったように信者への笑みを崩さないようにしていた。
(な、なに? 今の表情。……もしかして挨拶?)
ドキリと胸が高鳴ったのも気付かずに、騎士の挨拶は随分軽薄なのだなと感想を抱いて終わった。
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