第3話

目が覚めた

暗くて周りがよく見えない

頭の横でスマホの液晶が青白い光を放っていた

『19:27』

無機質に映し出されたその数字を見て自分が長い間寝てしまったことに気づく

体が重い

訳もなく涙が出てくる

「うぅ、、、」

長い夢を見ていた気がする

依鈴と出会った頃の夢

喉の奥に真っ黒い何かが詰まっていて今にも吐き出してしまいそうだ

「なんでりんなの、、」

自分の口から零れた声は驚くほど掠れていていまにも消えてしまいそうだった

もう一度スマホの液晶画面を横目で確認する

気づいたらもう起きてから15分も経っていた

そんなことをぼんやり思ってどうでもよくなって

意味もなくロック画面を見ていると突然着信画面に切り替わった

『水瀬くん』と表示された文字を眺める

なにが起きているのか理解するのにいつもと比にならないほどの時間がかかった

「あ、、電話、、、」

とりあえず青いボタンをタップしたわたしはスマホを持ち上げる気にもなれずただただ画面を眺め続けることしかできなかった

スマホからところどころ聞こえてくる水瀬くんの声は焦ったような悲しいような寂しい声だった

途切れ途切れ言葉が聞こえる

「鳴宮が夏帆に残した手紙夏帆ん家のポストに入れといたから

、、絶対読めよ」

朦朧とした意識の中で

ぼんやりと聞こえる音の中で

水瀬くんの放ったこの言葉だけははっきりと聞こえた

「……ポスト」

重い体を必死で持ち上げる

やっとの思いで部屋のドアを開けたときには電話は切れてしまっていた


階段を降りることすら辛い

前にもこういうことがあった

確かあれはもう2年前の中3の夏だった

でもあの時は隣に依鈴がいてくれた

苦しさで寄りかかるわたしを依鈴はいつだって支えてくれてた

なのに自分は守れなかった

繋ぎ止められなかった

最後に依鈴と会った夏休みのあの日から今日の朝まで依鈴は

何を思って、何を感じて、どれだけ苦しんだんだろう

独りぼっちでどれだけ寒かったんだろう

なんで助けに行かなかったんだろう

依鈴にしてもらったようにわたしも手を差し伸べたかった

「だめだ、」

思考が悪い方にばっかり流れてく

結局階段に蹲って泣き出してしまう

「やだやだやだやだやだ」

嘘だ

死んでない

依鈴は死んでない

いやだいやだいやだ

もうこの世界に依鈴はいないという事実に恐ろしいほどの虚無感を覚える

わたしはそのまま階段に蹲って立てなくなった

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