第2話

家に帰ってベットに潜り込む

ひどいひどいひどいひどい

今度はいきなり涙が出てきた

1ヶ月間くらいLINE見ないし電話も出ないし部屋に籠ったままだったし

ひとりで抱え込まないで欲しいって言ったのに

もっと頼って欲しいって言ったのに

なんで勝手に知らないところで消えて逝っちゃうの

置いていかないでよ

わたしのために生きるって言ってたくせに

どうしようもない後悔が心を蝕んでいく

お母さんからの着信も雨に濡れた前髪も皺になりかけたスカートも知らないふりをして目を瞑った



依鈴が転校してきたのはいまからちょうど2年前の6月だった


『初めまして、鳴宮依鈴です

先月東京から引っ越してきました』

『ということで今日から南水晶瀧中学校に転校してきた鳴宮さんです

3年A組のメンバーがまた1人増えましたね!

じゃあ鳴宮さんはあそこの席、涼風さんの隣座りましょうか』

静かに隣の席に座った鳴宮さんは大きな目を細めてお人形さんのように笑った

『よろしくお願いします』

凛と澄んだ声はよく通っていてわたしは『こ、こちらこそ…』と返すことしかできなかった

鳴宮さんはすぐにクラスの注目の的になった

『東京のどこからきたの?!』

『今どこら辺に住んでるのー?』

『なんて呼べばいい??』

質問ばかりしてくるクラスメイトひとりひとりに人を惹きつける魅力のある笑顔で丁寧に返答していた

『依鈴って呼んでもらえると嬉しいな』

たくさんの質問を返すなかで鳴宮さんがそう言っているのを聞いた時わたしは自分も鳴宮さんを依鈴と呼べる仲になりたいと心の底から思った


鳴宮さんが転校してきてからしばらく経った

席が隣なんだし話しかけるチャンスはそれこそ取りきれないほどあった

でも涼風夏帆なる人物コミュ障がすぎて話しかけるは愚か、おはようさえ言えないのが現実だった

第一今鳴宮さんはクラスの人気者で話しかける隙などないのだ

鳴宮さんは毎日お昼の時間になるといきなり姿を消した

クラスでは鳴宮さんとお弁当を食べたかったであろう俗に言う『クラスの一軍女子』である星月さん率いる集団がお弁当を持って鳴宮さんを探していた

そんな様子を横目にわたしはいつもひとりでお弁当を食べる屋上へと歩みを進めた

屋上へと続くドアを開いた瞬間わたしは左手に持っていたお弁当を落としてしまうのではないかと言うほど驚いた

いつもわたしが使っている屋上のベンチで鳴宮さんがひとりお弁当を食べていたからだ

わたしはドアを開けた瞬間鳴宮さんとしっかり目があってしまったため、こっそりこの場を去ることすらできず硬直していた

『あ、涼風さんもここでお弁当食べようとしてた?』

『は、あ、う、うん』

わたしがぎこちなく答えると鳴宮さんは花が咲くかのように笑って『そっか』と言った

『じゃあ一緒に食べてもいいかな?』

わたしは無言で頷くことしかできない

というか先にいたのは鳴宮さんなのにこんな形になってしまっていいのであろうか、、

そんなことをぐるぐると考えている間にそっとベンチの右側を空けてくれた鳴宮さんが尋ねてきた

『夏帆ちゃんって呼んでもいい?』

『あ…ちゃんなんてつけなくても夏帆で全然大丈夫です』

『ほんと?じゃあ夏帆、ありがとう』

『え!あ、いや、、お構いなく?』

『ふふふ』

『私、転校してきてからずっとのんびりお弁当食べれる場所探してたんだよね

こんなに広い校舎でおんなじ場所でお昼食べようとしてたなんて、私たち気が合うみたいだね』


正直この日は緊張のあまりなにを話したか覚えていない

なんて言ったってあの憧れの鳴宮さんとふたりでお弁当を食べたのだ

ただ鳴宮さんは無意識に敬語を使ってしまうわたしになにか言うことはなく、話しやすいように立ち回ってくれたことが印象に残った

こんなに人に気を遣って優しくできる人がいるのかと

そんな鳴宮さんの魅力にわたしはますます惹かれた

そしてわたしにとってこの日は運命を変える大きな日になったのだった

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