第六話 ドキドキの初授業
うんうんと頷く八神君。
左腕には「よつ葉生徒会」と書かれた金刺繍の緑の腕章を付けていた。
二ノ宮さんは八神君へ朝の挨拶もそこそこに、
「ゆづの言う通りの子だった! 野々原さん、とっても可愛いじゃない!」
そんな滅相もない事を言う二ノ宮さんに面食らった八神君。
「は、はあ?!」と困惑し「俺は可愛いだなんて、一言も言ってないけど?!」と返した。
「またまた~。子猫みたいって言っていたじゃない?」
「確かに生まれたての子猫とは言ったけど、そういう意味合いじゃ……」
と、楽しそうに1−Dの教室前で言い合う二人。
通り過ぎる生徒の目線も心なしか優しく見守っている様に感じて。
……うん、確かに。
なんてお似合いの美男美女なんだろう。
とても親しそうだし。
もしかして、二人は……?
すると、私の心を読んだエスパー八神君は「あのさ!」と声を掛けてきた。
「なんか、すっごい納得した目で俺らを見ているけれど、俺とこいつは同じ生徒会役員なだけだから!」
二ノ宮さんは「うふふ♪」と笑うと、白いプリーツスカートのポケットから銀のクローバーに貝殻の絵柄が付いたバッチを襟に取り付けた。
「改めて挨拶するわ! よつ葉生徒会・会計の二ノ宮理亜よ。よろしくね! ちなみに、弟の理久は副会長だよ」
握手を求められて、反射で差し出せば、なんて強い力! 上下に揺すぶられる私。
そんな時、リンゴーン♪ と予鈴が私の耳に響いた。
「あ、そろそろ教室に入らなくちゃね」
二ノ宮さんのセリフに再び硬直する私。
ど、どうしよう。
二人に事情を話さないと。
「あ、あの。わわ、私、教室入るのが……」
「そうだ、理亜。このまま野乃原を連れて、四つ葉ホールへ行ってくれる?」
「四つ葉ホール??……あ、そういう事ね! 了解! 野乃原さん、行こう!」
二ノ宮さんは有無も言わせずに、私の腕を引っ張った。八神君とすれ違う時、彼は私の耳元でぽそっと呟いた。
「ガンバレよ」って。
◆
四つ葉ホールとは。
中庭にある半円形の野外ホールの事だった。
半円状に階段の座席があり、中央の舞台が見れる形になっていた。
私と二ノ宮さんが一番乗り。
――いや、正確に言えば、座席のど真ん中でお昼寝するマカロンが一番だけど。
マカロンは気配を感じると起き上がり、私にすり寄って来た。
「マカロン! 久しぶり!!」
嬉しそうに、丸いお尻をプリプリするマカロン。
すると続々と生徒がホールに集まって来て、階段の席に思い思いに座る。
そして最後に白衣を着た、先生らしき若い男の人が黒サンダルをペタペタと鳴らしてやって来た。
「やあ~、君が野乃原さんだね! 僕はD組の担任の鈴木です。担当は理科です」
「は……初めまして! わわわ私……!」
「はい、皆さーん!! 今日からD組の仲間になった野乃原かりんさんでーす。仲良くしてくださいね!……さ、授業を始めましょうか?」
……え?
私からの挨拶なし??
転入生だから、自己紹介しなさいってのも無し??
訳も分からずに、二ノ宮さんに引っ張られて、女の子の集まっている場所へと腰かけた。
すると女の子達は「よろしくね!」と私に声を掛けてくれる。
私はぺこりと頭を下げると、みんな無言でVサインで返してくれた。
すると男子の一人が手を挙げて「先生〜! 今日はここで何するの? 課外授業?」と尋ねた。
鈴木先生は首を振り「ぶっぶー。残念でした! 普通に座学です!」と答えた。
「えー!? 外で勉強するの!?」とみんなもビックリ。私もビックリ。
すると鈴木先生は言った。
「勉強なんて、どこでも出来ますよ。今日は良い天気で、良い気候です。こんなに素敵な日なのに教室で勉強なんて、もったいないでしょう?」
……確かに。
さわさわと揺れる木々の音に、心地よい風。
木洩れ日がキラキラとホールを照らす。
深呼吸すれば、緊張していた気持ちはどこへやら。足元に再びお昼寝するマカロンが居るのも、とても心強い。
「――さ、今日覚えるのはちょうど光合成です!我々も心も体も光合成をしながら、楽しく勉強しましょう〜!」
気が付けば、私は自然と授業を受けていた。
久しぶりにクラスメイトと一緒に授業。
緊張もせず、のびのびと!
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