第171話 アン姉ちゃんVSコナン

 

 昼休みが終わると、決勝トーナメントに進んだ者達によって、くじ引きが行われた。


 シスは、ビクトリア婆ちゃんとエリザベスとの血戦で疲れきってしまって、決勝トーナメント不参加を決めた。


 何故か、未だに、俺の腕の中で眠ってるし。

 眠り続けてるので、ベットに移動させようとしたら、俺の腕を、その有り得ん馬鹿力で握り締め、決してベットに移動してくれないのである。


 どう考えても、起きてるだろ! と思うが、それは可愛い妹の我儘。

 優しくて、頼れるお兄ちゃんを自負する俺は、シスの願いを何でも叶えちゃうのであった。


『シスちゃんにとって、剣術祭の決勝トーナメント進出より、ご主人様に、お姫様抱っこされる方が上なんですね!』


 鑑定スキルが、シスとの念話チャンネルを切って、ニシシシシと、俺に話し掛けてくる。

 俺は、シスを腕に抱いた状態なので、鑑定スキルの言葉をスルーする。


 まあ、本来なら、ただの重い女なのだが、シスは俺の妹なのだ。嫌いになれる訳ない。


『ご主人様が、いつもシスちゃんを甘やかしちゃうから、シスちゃんは、益々、ご主人様の事を大好きになってしまうんですよ!

 ご主人様は、シスちゃんを甘やかすだけの甲斐性が有る、凄い男と思われてるんです!』


「そうなの?」


 俺は、シスが腕の中で寝てるというのに、思わず口を開いてしまう。

 可愛いシスを甘やかすなんて、誰にも簡単に出来ると思うし。


『ですよ! なんてったって、シスちゃんは、スーパー幼女なんです!

 強いですし、商売上手だし、グラスホッパー商会の取締役ですし、今は、グラスホッパー伯爵領まで、ご主人様の代わりに取り仕切ってるんですよ!

 そんなスーパー幼女を、甘やかして上げれるのって、もう、ご主人様しか存在しないんですから!

 逆に、普通の人は、シスちゃんがスーパー過ぎて、話し掛ける事もできないくらい、眩し過ぎる存在なんですからね!』


「確かに、もうシスは、エドソンやビクトリアにも頼ってないからな……」


 そう。シスは、既に自立してるのだ。

 まだ10歳だというのに、エドソンとエリザベスとも別れて暮らしてるし。


『そうです!唯一、シスちゃんが頼るのは、ご主人様だけなんです!

 それで、益々、シスちゃんは、ご主人様の事が凄いと! 物凄く、甲斐性があると思い込んじゃうんです!』


 なんか、鑑定スキルに指摘されて、思わず納得してしまう。

 というか、シスと釣り合う男なんて、この世に存在しない。


 エリザベスやカレンとかも、幼少の時から目立ってたとは思うが、シスに比べたら全然。


 シスの場合は、幼い頃、物凄く貧乏で、苦労してるから、エリザベスやカレンみたいな、金持ちの高位貴族みたいな甘えが一切ないのだ。


 実際、カレンもエリザベスも甘やかされて育ってきたので、少し詰めが甘いのだ。


 エリザベスなんて、力があったにも関わらず、甘々過ぎて、俺の死に戻り前は、力を発揮出来ずに、エドソンや息子達をミスミス、殺されてしまってるし……。


 それに比べて、シスには全く死角がない。

 全てを完璧にこなす。


 エリザベスにも全く甘えないし、一度、グラスホッパー商会の経営から離れた後、自分からもう一度やらしてくれと頼んで、エリザベスを説得してるし。


「シスって、凄かったんだな……俺にとっては、ただの可愛い妹なのに……てっ、痛てー!」


 突然、寝ている筈のシスに、腕をつねられた。


『ご主人様、全く女心が分かってないですね!

 流石に、の妹は無いですよ!』


 鑑定スキルが指摘する。俺は全く悪気は無く言ったのだが、のという部分が悪かったのだろう。


「シスは、特別な俺の可愛い妹だからな」


 すかさず、言い直してみたら、つねられた場所の痛みが、スゥーと引いた。


 多分、シスが治癒魔法を掛けてくれたのだろう。


 ーーー


 そんな、狸寝入りを続けてるシスを置いとて、決勝トーナメント進出者がくじ引きをして、全ての対戦相手が決まった。


 第1会場は、エドソン対シスだったのだが、シスが狸寝入りを続けてるので、エドソンの不戦勝勝ち。


 第2会場は、アン姉ちゃん対コナンとの、姉弟対決。


 第3会場は、イーグル辺境伯対カレンの、爺ちゃん、孫対決。


 そして、第4会場は、カトリーヌ対ナナの対戦である。


 でもって、第2会場のアン姉ちゃんとコナンとの戦い。


 俺は、シスをエリザベスに預けて、会場上空でいつものように、試合を監視する。


 まあ、俺以外だと、何が起こった時、誰も止められないしね!

 そう、俺がいつも上空に居るのは、大会委員長のアレキサンダー君に頼まれてるから。何かあった時の保険としてね。


「それでは、アン・グラスホッパーとコナン・グラスホッパーの戦いを始める!」


 この試合の審判であるグロリア先生の号令により、アン姉ちゃんとコナンによる姉弟対決が始まった。


 アン姉ちゃんは、いつものように修羅のような有り得ん闘気を撒き散らす。


 これには、流石のコナンも足が竦むようだ。

 アン姉ちゃんは、真面目で愚直。

 どんな時も、いつでも、黙々と修行を続けて、今の強さを手に入れた。


 一方、コナンは、エドソンと同じく、戦いに関しては天才肌。


 それも、最近は、ずっと、大戦の英雄エドソンと稽古をしており、一気に実力を上げているのだ。


「流石、アン姉、俺、空気が震えるって、初めて体験するよ!」


 真正面で、アン姉ちゃんの有り得ない闘気を受けてるというのに、コナンは全く怯まない。

 トロワ兄は、去年、立ったまま失神してたというのに。

 この時点で、コナンは、トロワ兄より実力は上という事になる。


「じゃあ、俺から行くよ!」


 コナンは、真正面から、ラッシュをかける。

 しかしながら、アン姉ちゃんは、何故か目を瞑ったまま、全ての攻撃を剣さばきだけで、避けきってしまう。


「何で、アン姉ちゃん、目を瞑ってるのに、俺の攻撃を受けれちゃうんだよ!」


 もう、コナンの方が訳が分からないって顔をしてる。


 まあ、これは有り得ん修行によって成せる技。心眼とも言うべきか?

 アン姉ちゃんは、俺が思ってた以上に神の領域に足を踏み入れてたようである。


 まあ、神と言っても、阿修羅、鬼神の類なんだけど。


 コナンは、どんな攻撃をしても、アン姉ちゃんに目を瞑ったまま防がれてしまうので焦り出す。

 コナンは、天才なのだが、如何せんエドソンとしか稽古してないから、圧倒的に、実践不足なのである。


 アン姉ちゃんのように、武者修行し続けてる、戦い馬鹿とは、今迄、戦った事など無いのであった。


 そして、アン姉ちゃんは、そんな焦り出すコナンの隙を見逃さない。


 コナンが隙を見せた瞬間、一閃。


 スパン!と、コナンの体を真っ二つに斬りさいてしまった。


 アン姉ちゃん。全く、実の弟だというのに手を抜いてない。

 コナンの切れた腹から、内蔵が飛びだしてるし。


 慌てて、審判であるグロリア先生が飛び出して来て、試合を止める。


 というか、俺も、アン姉ちゃんが凄まじ過ぎて、試合を止める事が出来なかった。

 監視員、失格である。

 姉弟の対決だったので、アン姉ちゃんが手加減すると、何となく心の中で思ってしまっていたのだ。


 だけれども、よく考えたら、アン姉ちゃんに手加減という文字は無かった。

 アン姉ちゃんは、愚直で不器用。


 俺が、一番、アン姉ちゃんのヤバさを知ってた筈なのだが、最近は、そんなにアン姉ちゃんと接してないので、失念してた。


 俺は、アン姉ちゃんのせいで、グロい事になってるコナンをすぐさま、医務室に運びこみ、世界樹の葉で作ったポーションで治療してやる。


 すると、内蔵やら、絶対に、切れてはいけなものが、あっという間に元通りにくっ付いて、すぐにコナンは復活したのだった。


「ヨナン兄ちゃん! すげーぜ!」


 なんか、コナンが興奮してる。

 なんて、能天気。

 俺は、結構焦ってたというのに。

 コナンは、俺が、絶対に治してくれると、全く疑ってなかったし。


 普通は、痛いとか絶叫する所だと思うが、流石は、戦闘民族グラスホッパー家の男である。

 ずっと、普通に、切れた自分の臓物を観察して、人の人体について研究してる始末。


 俺の弟、ヤバいんですけど!


「ヨナン兄ちゃん!なんか、俺、分かっちゃった!刺されても死なない方法!

 刺される瞬間、体の中の内蔵をグイッ!と筋肉で動かして、内蔵に穴を開けないように、上手く刺されれば、ブスッて刺されても大丈夫だよね!」


 なんか、コナンが、おかしな事を言ってる。

 そう。コナンは、事、戦闘に関しては貪欲なのだ。


 多分これからコナンは、内蔵を自由に動かす練習をするんだろう。


 自分の内蔵の形や位置を、しっかり確認してたし。ピクピク、斬られた内蔵を動かしたりしてたし。


 本当に、俺の弟は、凄い弟である。

 ヤバい意味でも。

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