第170話 血の決闘

 

 俺は、昼休憩になり、ココノエが販売員になってる稲荷寿司を買いに行く。


 というか、稲荷寿司屋は大繁殖で、長い行列が出来ていた。


「凄い行列だな……」


『稲荷寿司人気というか、ココノエさん人気だと思います。だって、ココノエさんが販売してる列だけ、異常な長さですから』


「確かに、巫女服着てるココノエは、可愛らしいよな」


『ですね!』


 とか話してると、ビクトリア婆ちゃんが、俺の為に、稲荷寿司を持ってきてくれた。


「ヨナン君!本当にありがとね!ココノエ様を、この国に連れてきてくれて!」


 なんかよく分からんが、ビクトリア婆ちゃんに、メチャクチャ感謝される。

 まあ、ココノエは、完全に金の成る木になってるし、実際、グリズリー公爵領に、九尾神社が建てられてから、九尾神社に参拝する人が押し寄せ、賽銭と、ココノエグッズと、稲荷寿司人気で、ビクトリア婆ちゃんは、ウハウハ。


 商売が三度の飯より大好きなビクトリア婆ちゃんは、笑いが止まらないのである。


 まあ、取り敢えず、稲荷寿司を貰ったので、食べなから、他の屋台とか見て回っててたら、可愛い弟と妹の、コナンとシスがやって来た。


「コナン兄ちゃん! また、公爵芋の石焼き芋屋やろうよ!」


「お兄ちゃん聞いたよ!去年の剣術祭の時、コナン兄と2人だけで、石焼き芋屋やったって!

 私達3人でチームだったのに、ズルいよ!」


 シスが、頬っぺを膨らまして怒ってる姿が、また可愛らし過ぎる。


 ここは、格好良くて優しいお兄ちゃんとして、シスの機嫌を治さなければ、

 俺は、いつでも頼れるお兄ちゃんでありたいのだ。


「よし! それじゃあ、また3人で石焼き芋の屋台出しちゃうか!」


「「ヤッター!!」」


 コナンとシスは大喜び。

 この2人は、グラスホッパー男爵家の中で、特に、イーグル辺境伯の血筋が濃いのだ。

 2人とも、闘争大好きだし、商売大好き。

 昼休憩時間でさえ、商売したくなっちゃうのだ。


 でもって、例に漏れず、強くて甲斐性がある男が大好きなので、強くて甲斐性がある俺によく懐いているのである。


 俺は、早速、魔法の鞄の中から、キャンピングキッチントレーラーを取り出し準備する。


 俺にとって、屋台営業などおちゃのこさいさい。

 聖剣ムラサメを取り出し、僅か1分で2万個の石焼き芋を焼いてやった。


「ヨナン兄ちゃん、やっぱりいつ見てもすげーぜ!」


「お兄ちゃん……なんか、私……お兄ちゃん見てたらお股が濡れちゃったよ……」


 なんか、シスがおかしな事を言ってるがスルー。


 俺が屋台を開いた時点で、もういつの間にか、キャンピングキッチントレーラーの前には、長い行列が出来ていたのだ。


「じゃあ、いつものように売りまくるぞ!」


「「ラジャ!!」」


 2人は、息の合った返事をする、

 ハッキリ言って、俺ら3兄妹の連携は、グラスホッパー家最強。

 グラスホッパー商会を立ち上げて、暫くは、3人だけで活動してきたのだ。


 俺ら兄妹が商売したら、本当にトンデモない事になってしまう。

 例え、ライバルに、商売上手なビクトリア婆ちゃんと、現人神のココノエが居たとしても。


 絶対に、稲荷寿司屋の売上を超えてやるのだ。


「お兄ちゃん、値段設定はどうするの?」


 商売始める前に、しっかり者のシスが確認してくる。


「今回は、前回の剣術祭より安くして、1000マーブル丁度にする!

 少しでも、早く売りたいから、お釣りを出来るだけ無くす作戦だ!」


「流石、ヨナン兄ちゃん!頭いい!」


「私達がどれだけ早く動いても、お客さんが支払いにもたついたら、1人1人の接客時間が掛かっちゃうもんね!」


 コナンと、シスが褒めてくれる。

 そう。俺は、コナンとシスに、いつも凄い兄ちゃんだと思われたいのだ。


「ああ。そういう事だ!そして、数でも売上でも、全て、ビクトリア婆ちゃんとココノエの稲荷寿司を越えてやるぞ!」


「ヨナン兄ちゃん、俺、なんか燃えてきた!」


「私は、お兄ちゃんが格好良すぎてお股が濡れてきた!」


 最近、ませてきて、おかしな言葉を連発するシスはスルーする。

 多分、アスカのエロ過ぎる動画を見ちゃったのかもしれない。


 それは置いとて、俺は、すぐさま、高々とでっかい登りを作り、公爵芋、1つ1000マーブルと宣伝してやる。


 これにより、並んでる人が会計する時、幾らでした?とか、まごつく事がなくなるのだ!


 みんな、並んでる内に、お金を用意するので、相当なスピードアップが狙える作戦なのである。


「安いよ!安いよ! 公爵芋の焼き芋1000マーブルだよ!」


「お兄ちゃんが焼いた、プレミアムで美味しい、ここでしか食べれない石焼き芋だよ!」


 コナンとシスが、慣れた感じで宣伝しながら売りまくる。


 そう、この感じ。

 グラスホッパー商会立ち上げの初期の頃、まだ、俺とコナンとシスの3人だけで、カナワン城塞都市の正門の外で売ってた頃を思い出す。


「お兄ちゃん、なんで泣いてるの?」


 売れに売れ過ぎて、足りなくなった公爵芋を、泣きながら焼いてる俺に気付き、シスが心配そうに聞いてくる。


「ああ。まだ、貧乏だった時、3人で頑張ってた時の事を思い出してな……」


 兄ちゃんなのに、妹や弟の前で泣いてしまうのは、恥ずかしいと思ったが、俺は思ってた事を、正直にシスに伝える。


 俺は、いつでも家族には誠実でありたいのだ。


 死に戻り前のように、家族に大工スキルを隠して、取り返しがつかない悲劇が、また起こってしまうような失敗は、もう、2度と起こさないと決めている。


「そうだね!あの時は、凄く忙しくて、楽しくて、良い思い出だよね!

 貧乏から、脱出する為に必死に3人で頑張って!」


「ああ。あの時は、人並みの生活がしたくて、頑張ってたもんな!

 俺も、コナンやシスが学校に通えるようになるようにと、必死だったんだ!」


「うん。お兄ちゃんのお陰で、私もコナン兄も学校行けるよ!

 そして、今、私は、お兄ちゃんのお陰で、本当に自分がしたかった事をやらして貰えてるし!」


 シスは、俺を見て、ニッコリと笑う。

 そのシスのやりたい事というのが、今と変わらぬ商売なんだけど。

 公爵芋を売り捌くシスは、誰よりもイキイキしてるし。


 シスは、グラスホッパー家の中で、誰よりも、イーグル辺境伯の血が濃いので、人一倍、闘争大好きで、商売大好きで、強い男が好きで、甲斐性がある男が大好きなのである。


 だから、誰よりも、俺に執着してると言えるんだけど。


 でもって、普段は大人しくて可愛い妹なのだが、スイッチが入ると、イーグル辺境伯の血が暴走してしまうのだ。


 なんか、みじん切りスキルLv.3を持ってるコナンより、公爵芋を売り捌いてるし……


 なんなのかよく分からんが、うちらの屋台が、猛スピードで芋を打ってるのを見て、稲荷寿司の屋台をやってるビクトリア婆ちゃん達も、火が付いてしまったようである。

 手の治療が終えたエリザベスも応援に駆けつけ、あちらも、凄いスピードで稲荷寿司を売り始めている。


 もう、ここまで来ると、販売スピードが遅いココノエが邪魔になったのか、販売員から外して、稲荷寿司を買った者限定の握手会を始めさせているし。


 というか、アッチは、他の販売員には任せてられないと、ビクトリア婆ちゃんとエリザベスの親子2人で売りまくってる。


 なんか、ただの昼休憩が、イーグル辺境伯の血筋の女達同士の、熱い戦いの場に変わってしまったようである。


「お兄ちゃん! コナン兄! 手が遅すぎる!」


 ヤバイ……ヤバ過ぎる。聖剣ムラサメを持って作業してる俺と、みじん切りLv.3を持ってるコナンに向かって、真顔で遅いとか、シスが言っているし……。


 どう考えても、この世界で、スピードスターツートップの俺とコナンに向かって遅いとか、シスはもう、完全にイーグル辺境伯の血によって心が支配されてしまってるようである。


 実際、シスの手の速さは、俺とコナンより速く動いてるし。

 人との闘争と、大好きな金儲けを同時にやる事によって、ゾーンに入ってしまったようである。


「絶対に、お母さんとお婆ちゃんには、負けないんだから!」


 これは、もはや、誰が一番イーグル辺境伯の血が濃いかの血闘! そう、血と血の戦いなのだ!


「お兄ちゃん! もう仕事はいいから、私の後ろに回って、ギュッ!として、それで私は頑張れる!」


 もう、ここまで来ると、何をしてるのか分からなくなってくる。

 まあ、可愛い妹の為なら、俺はなんだってするので、シスの後ろに回って、言われた通りに

 ギュッ!としてやる。


「ああぁぁぁぁぁああぁぁぁ……血が滾るぅ……気持ちイイ~よぉ……」


 シスは、ビクビク震えながら、まるで千手観音みたいに手が何本も生え、一気に、俺が在庫に持ってた公爵芋を全て売り捌いてしまった。


 そして、全ての公爵芋を売りきって安心したシスは、そのまま俺の腕の中で力尽きてしまったのだった。


 勿論、公爵芋の売上は、ビクトリア婆ちゃんの稲荷寿司屋の売上を大きく越え、晴れて、シスは、イーグル辺境伯の血筋の女の中で、一番血が濃い女と認定されたのであった。


 まあ、それが、一体どうしたの?と言われれば、それだけの話なんだけど。

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