第169話 予選(4)
最後の1枠は、シスとセバスチャンさんの戦い。
セバスチャンさんは、ミスターエレガント。
兎に角、立ち振る舞いがエレガントなのである。
対するシスは、エリザベス同様に、得物を何も持ってない。
ただ、敵を拳でぶん殴るだけ。
全く、エリザベスと変わらない戦闘スタイルである。
「エリザベスお嬢様の若い頃にソックリです」
そんなシスを見て、セバスチャンさんは、とても嬉しそうである。
「セバスチャンさん。本気で行くよ!」
でもって、シスはというと、やはりイーグル辺境伯の血筋の女の子、爺さん相手でもヤル気満々である。
「セバスと呼んで下さい」
なんか、セバスチャンさんは、シスに、セバスチャンさんと呼んで欲しくないみたいである。
まあ、元々が、グリズリー公爵家の筆頭執事で、エリザベスを子供の頃から可愛がってたので、その子供のシスの事を、自分の孫のように思ってるのかもしれない。
「え……そんな……呼べないよ……」
「絶対に、呼んで下さい」
なんか、セバスチャンさんの圧が凄い。
何がなんでも、エリザベスと同じように、シスにも、セバスと呼んで貰いたいようである、
「じゃあ、セバス……」
「ハイ。シスお嬢様!」
なんか、今さっきまで怖い顔してたのに、シスに、セバスと呼ばれて、嬉しそうにニヤケているし。
「あの……ちょっと、やりにくいんですけど……」
まあ、確かに、シスを見てニヤけてる爺さんをタコ殴りにするのは、やりにくいだろう。
「シスお嬢様、ドーンと掛かってきて下さい。全ての攻撃をいなしてさせあげますので」
なんか、セバスチャンさんは余裕綽々である。
まあ、セバスチャンさんは、エリザベスの教育係だったと聞いている。
エリザベスに対しても、こんなように戦闘訓練をしてたのかもしれない。
「ちょっと、私、舐められてるのかな……」
シスは、少し膨れっ面。
「さあ、いつでも、どうぞ!」
「じゃあ、遠慮なく行くよ!」
シスは、一気にセバスチャンさんとの間合いを詰め、超高速パンチを繰り出す。
しかし、その全ての超高速パンチを、セバスチャンさんは、涼しい顔をして全部避けてしまう。
「なんで当たらないの~」
シズは、悔しがっているが、手だけは止まらない。
諦めずに、一発貰えば致命傷を与える程のメガトンパンチを放ち続けている。
「パンチの軌道が、やはり、エリザベスお嬢様と似てますね」
なんか知らんが、セバスチャンさんは嬉しそう。
どんだけ、シスが好きなんだろう。
多分、同じエリザベスの娘であるアン姉ちゃんより、セバスチャンさんは、シスの事が好きだと思う。
だって、シスの方が、よりエリザベスに似てるから。
アン姉ちゃんは、どっちかというとエドソン似だし。
2人とも、義理堅いし、結構真面目。
アン姉ちゃんは、ド天然で、エドソンは、ちょっと抜けてる感じ。
それにひきかえ、シスの場合は、商売好きな所とか、エリザベスに良く似ている。
素手で、人を殴りたがるとことか。
だって、シスって、薙刀スキルを持ってるのに、敢えて、素手の戦いを選択してるしね。
まあ、兎に角、セバスチャンさんは、アン姉ちゃんより、シスの事を可愛がってるのである。
そんな話は置いといて、戦闘は続いてる。
というか、シスの連続パンチは、一向に止まる気配がない。
「おい、シスって、あんなに体力あったっけ?」
俺は、鑑定スキルに質問する。
『体力は人並みだと思いますけど、シスちゃん、自分に回復魔法を掛けながら戦ってるみたいです。
それも、自動的に。どうやら、パンチモーションをする度に、自動的に回復していくみたいですね!』
「嘘だろ!そしたら、あの一発貰ったら、顎が粉砕するようなパンチを、高速でずっと打ち続ける事ができるのかよ!」
『それが、殴り僧侶Lv.2のスキルの特徴みたいです!
詳しく解説すると、殴り僧侶Lv.2は、身体強化Lv.3と、素早さLv.1、治癒魔法Lv.2の複合スキルのようです!』
「なんだそれ! イーグル辺境伯の血筋と、グリズリー公爵家の血筋の良いとこ取りじゃねーかよ!」
『ですね! しかも、シズちゃんの場合は、更に、薙刀Lv.2と、水魔法Lv.2まで持ってますから、末恐ろしいですよ!』
「ヤベエな……連続パンチを打ち続けても全く疲れなくて、しかも、水魔法Lv.2で、水分補給まで出来ちまうのかよ!」
ヨナンは、今更ながら、シスのトンデモない才能に、ビックリする。
とか、思ってたら、
バキッ!
とうとう、シスの超高速パンチが、セバスチャンさんにヒットする。
まあ、それで本来は一発KOなのだが、どうやら、シスは相当ストレスを貯めてたようである。
だって、15分ぐらいも空振りし続けてたから。
そのまま、白目になって失神してしまってるセバスチャンに、連続パンチ。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ--!!」
なんか、セバスチャンさん、完全にサンドバッグ状態。
まあ、気を利かせた俺が、セバスチャンさんが死んでしまう前に、丸太にすり替えてたけど。
今回、分かった事は、イーグル辺境伯の血筋の女の子には、ストレスを与え過ぎてはイケナイという事。
カトリーヌも、そうだが、ストレスが溜まりすぎると、どうやら、人をタコ殴りにしたくなっちゃう血筋であるようだ。
人間凶器のアン姉ちゃんも、最近、自由に行動出来ないから、いつもストレス溜まってるしね。
だから、たまに自由になると、闘気だけで人を失神させちゃうのだろう。
最早、アン姉ちゃんは、普通の状態に居るだけで、人を失神に追い込む化け物なのである。
まあ、そんな話は置いといて、シスも無事、決勝トーナメント進出を決めたのだった。
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