第152話 与えられたミッション

 

 次の日、セバスチャンさんから、野営訓練の為の詳細な地図が配られた。


 話によると、養父ヨナン・グラスホッパーの騎士が前乗りして、野営訓練会場の下見をして、この詳細な地図を作ってくれたとか。

 本当に、養父ヨナン・グラスホッパーには頭が下がる思いである。


「情報によりますと、今回の野営訓練は、ビートル城塞都市を除く、ビートル男爵領全体を用いて行われるようでございます。

 そして、ビートル男爵領の領民や田畑を傷付けたらぺナルティー。単位の減少されるとの事です!

 そして、ルールはいつも通り、陣地の取り合い。戦闘がスタートして3日間で、15ある陣地を、どれだけ多く確保したかによって決まります!」


 セバスチャンさんが、何故か、まだ発表されてない、今回のルールを教えてくれる。


 多分、グラスホッパー伯爵家やグラスホッパー商会の力を使って調べたのであろう。

 何かズルのような気もするが、本当の戦争では情報がものを言うので、この野営訓練では有りらしい。

 一応、学校行事だが、実際は、カララム王国に仕える貴族同士の模擬戦でもあったりするのだ。


 そして、配られた地図を見てみると、陣地の場所や、詳しい地形、注意点などが事細かく記されている。

 しかも、どこの陣地を最初に確保し、ナナがどのような罠を作り、拠点の補強をするかとかも、事細かく書かれていた。


 ハッキリ言うと、この地図は、野営訓練を勝ち抜く為の虎の巻。


 ハツカも、アンガス神聖国とカララム王国との戦争を経験してるが、学生のうちから、こんなにも実践的な戦争訓練をしてるカララム王国には、負けて当然だったと舌を巻くほどの、詳細な作戦が書き込まれてたのである。


 取り敢えずのハツカのミッションは、この作戦書通りに、軍事行動を遂行する事。

 実際の戦争では、上官の命令を確実に実行する事が求められる。

 それが、有能な上官の命令なら尚更。


 アホな上官の命令で、部隊が全滅する事もあるが、作戦が書き込まれてる地図を見る限り、ハツカの部隊の上官は、有能だという事がハッキリ分かってしまうのだ。


 そして、その上官とは、間違いなく、ハツカの養父であるヨナン・グラスホッパー伯爵。


 ヨナン・グラスホッパーは、単騎でレッドドラゴンを倒してしまえるぐらいの英雄だが、どうやら戦術面でも突出してるようだった。


 まあ、単騎で、アンガス神聖国とカララム王国との戦争を終わらせて、ウルトラCで両国の同盟を成立させ、その結果アンガス女王ココノエが、カララム王国の人質になるだけで、敗戦国であるアンガス神聖国の賠償金をチャラにさせてしまうほどの剛腕。


 まあ、それもこれも、敢えて、ヨナン・グラスホッパーが単騎で戦い、戦いを速攻で終わらし、カララム王国の被害が皆無だったから、成し遂げられたと言えるけど。

 もし、泥沼の戦争になっていて、カララム王国にも被害が出てたら、こんなウィンウィンな戦争の終わり方は無かったのである。


 完全なウィンウィンではなく、アンガス女王ココノエが、カララム王国の人質になってしまっている?


 何故か分からないが、アンガス神聖国女王ココノエは、ヨナン・グラスホッパーの事を神と崇拝してしまってるし。

 カララム王国学園でヨナン・グラスホッパーと同級生になれて、とても嬉しそうなので、ココノエにとっても、カララム王国の人質になって満足なのだ。


 そんな有り得ないほどウィンウィンに、アンガス神聖国とカララム王国との戦争を終わらせた、養父ヨナン・グラスホッパーが、無能な筈は、絶対にない。


 カララム王国に人質で来たココノエ様の護衛として、カララム王国学園に入学する事になった私の事まで気にかけて、自らの養女にしてしまうぐらい懐が深い、優しい人でもあるし。


 なので、ハツカは、とても優しくしてくれる養父ヨナン・グラスホッパーに恩を返す為なら、何だってすると心に決めている。


 自分の命に、変えてでも。


 だって、ヨナン・グラスホッパーは、ハツカの憧れの人物で、尊敬できる養父であるのだから。

 そして、養父の為に命を掛けるのが当然の事だし、それが、与えて貰ってばかりのハツカが、唯一、養父ヨナン・グラスホッパーに出来る事だから。


「絶対に、この与えられたミッションを、完璧にコンプリートしてみせる!」


 ハツカは、ヨナン・グラスホッパーに認められる為に、この与えられたミッションを完璧にこなす事を、深く、深く、心に誓ったのであった。

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