第151話 いざ、ビートル男爵領へ!

 

 ハツカ・グラスホッパーは、久しぶりにカララム王国学園に登校している。


 野営訓練の班分けが行われて、暫くしてから、今日までずっと、グラスホッパー伯爵家の屋敷で班員達と秘密特訓してたのだ。


 で、久しぶりに学園に呼ばれて登校したら、朝のホームルームでイキナリ、野営訓練のスタートが伝えられたのであった。


 場所は、カララム王国最南端のビートル男爵領で行われるらしく、本格的な戦闘のスタートは一週間後で、それまでにビートル男爵領に到着していないといけないらしい。


 そして、野営訓練がスタートしたら、グラスホッパー家に戻って来るようにと、執事のセバスチャンさんに言われてたので、グラスホッパー家の屋敷に、班のみんなと行ってみると、そこには、豪華な荷馬車が、ずらりと20台も並んでいたのであった。


「えっと……これから何が始まるのですか?」


 荷馬車の前で、ハツカ達を迎えてくれていた執事のセバスチャンに聞いてみる。


「ハイ! 勿論、ハツカお嬢様の出陣式が、行われます!」


 なんで、荷馬車がたくさん待機してるのかを質問したのに、何故か斜め上の回答が返ってきてしまった。


「出陣式?」


 ハツカは聞き返す。


「カララム王国学園の野営訓練は、実質、戦争と同じですので。出陣式を行うのは当然の流れです」


 セバスチャンさんは、当然とばかりに返す。

 確かに、グラスホッパー伯爵家の野営訓練の熱の入り方は、常軌を逸していた。

 そもそも、学校のただの行事に、各名門貴族達が、こぞって、子息子女達のサポートを手厚くする理由が分からなかったのだ。


 セバスチャンさんの説明によると、このカララム王国1年生時に行われる野営訓練は、所謂、プチ戦争なのだとか。

 戦争では、家の力も、ものを言う。


 結局、貴族は、私兵を揃えて戦争に参加するので、カララム王国学園の野営訓練は、その時の予行演習だと考えられる。


 基本、カララム王国では、15歳で成人と認められ、15歳から戦争への参加の義務が生じてくる。

 そして、カララム王国学園は、14歳からの入学なので、15歳になって、戦争参加の義務が生じる前の1年生のうちに、戦争の模擬練習を、カララム王国学園が行わせようと考えてるのだ。


 そんな、カララム王国学園の野営訓練は、完全に、本当の戦争と同じ形式を取っている。


 家の力を誇示し、派閥や寄子の貴族を率いて戦争を行う。

 そして、この野営訓練そのものが、その家の強さを示す結果にもなるので、特に高位の貴族は、本気に自分の子息子女を支援して、力を示すのである。


 とか、セバスチャンさんからのレクチャーを受けてると、いつの間にか、楽団が登場して、出陣式の演奏が始まっていた。


 流れる音楽は、第九だいくと言う曲らしい。

 何故、第九が流れるのは分からないが、グラスホッパー伯爵家では、最近、事あるごとに第九の演奏がされるのだとか。

 今回の演奏は、「勝利に突き進む英雄のごとく、自らの道を行け」という思いが込められていると、セバスチャンさんに豆知識を聞かされた。


 そして、出陣式が終わると、用意された20台の荷馬車に、ハツカの班の者達や、ハツカをサポートする人員などが、次々に乗り込んで行く。


 そして、そのサポートメンバー達も、ヤル気に漲っているのだ。

 必ず、ハツカお嬢様を優勝させると。


 そんな、状況を見てたら、ハツカも段々と絶対に優勝しなければと思ってくる。


 これは、ただの学園の行事では無く、グラスホッパー伯爵家の戦いで、戦争なのだ。

 即ち、ハツカが、この野営訓練に負ける事は、養父であり、大恩があるヨナン・グラスホッパーの負けを意味する。

 これは、絶対に負けれない戦いなのだ。


 カララム王国の大英雄である、ヨナン・グラスホッパーに、負けの2文字を付ける事など絶対に許されない。


 ナナも、フツフツと闘志が漲ってきた。

 絶対に、優勝してやる。

 そして、大英雄ヨナン・グラスホッパーの養女としての役目を果たすのだ。


 野営訓練で勝ち残り優勝する事だけが、結果として、大恩あるヨナン・グラスホッパー様への恩義に報いる事となると信じて。


 ーーー


 出陣式も無事終わり、荷馬車で、3日間掛けて、カララム王国最南端のビートル男爵家の城塞都市に着くと、そのまま、ビートル城塞都市の正門近くにある、ロードグラスホッパーホテルのスゥィートルームに案内される。


 やはり、グラスホッパー伯爵家の財力は凄い。

 話では、この国1番の大商会である、グラスホッパー商会を経営してると聞いてたが、今まで、王都の屋敷と、カララム王国学園の寮ぐらいしか行ってなかったから、その凄さをあまり認識してなかったのだ。


 なので、まさか、カララム王都から遠く離れた、こんな辺境の地までも、グラスホッパー商会の立派なホテルが有るとは、思ってもみなかったのである。


 実を言うと、1週間前には、ビートル男爵領には、ロードグラスホッパーは進出してなかったのだが、ナナ班の個別面談が終わった後、ヨナンがビートル男爵領まで空中をひとっ走りして、20分程度で、ロードグラスホッパーホテルビートル支店を建てたのは内緒の話である。


 そんな最近建てられた、ロードグラスホッパーホテルでは、本当に居たせり尽くせり。

 何せ、普通にハツカ専属の5人のメイドがいつものように世話してくれるし、まるで自分の家(カララム王都の御屋敷)みたいに寛げてしまうのだ。


 そして相部屋となった、サクラ・ラグーンも、専属マッサージ師のイケメン男性2人に、マッサージされて極楽そうな顔をしてるし。

 何故か、イケメンマッサージ師のシャツが、はだけてて、たまにマッサージ師同士が見つめ合うのも謎だが、サクラ・ラグーンは楽しんでるようなので、敢えて口には出さない事にした。人の趣味をとやかく言うのは、野暮というものだし。


 そんなこんなで、本当に、これが戦争訓練なのか疑問に思ってしまう程、リラックス出来ている。


 Dクラスの人達なんて、野営訓練がビートル男爵領で行われると聞いた途端、学園から飛び出して、走ってビートル男爵領へ向かったみたいだし……

 実際、王都から出発して1日目に、走ってるDクラスの人達見たし。


 本当に、こんなに楽をしてしまって良いのだろうかと、恐縮してしまうぐらい。


 そしてそれが、全て、ナナの養父であるヨナンの力なのだ。


 ハツカは、そんなヨナンの力を見せ付けられる度に、益々、ヨナンへの感謝の気持ちが積もり募っていくのであった。


ーーー


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