第153話 拠点確保

 

「カッカッカッカッカッ! 皆の者、よくここまで遅れず来れたな!

 カララム王として、貴様らのことを誇りに思うぞ!

 まあ、カララム王の仕事は、休養中で息子に任せてるがな!」


 何故か、今回、新入生の野営訓練の実行委員長をしているアレキサンダー君が高笑い。


 アレキサンダー君のやらしい所は、今回、1週間でギリギリ走って到着できるぐらいの距離の場所を、野営訓練の開催地に決定した所である。


 俺らの時は、何班かが、開催地に到着出来なくて、本戦が始まる前に脱落してたし。


 まあ、今回も説明するが、野営訓練は陣地の取り合い。簡単に言うと15ある陣地を、3日間でどれだけ確保出来るか。

 ハッキリ言うと、陣地取りゲームである。


 この陣地取りゲームは、結構、奥深く、うまくやれば、下位チームが優勝できてしまう可能性もあるのだ。


 実際、何度かCクラスの班や、Dクラスの班が優勝した事もあるのだとか。


 唯一、1度だけ優勝した事があるDクラスの班の場合は、最初から最後まで領地を持たずに隠れ続け、最終日の最後に、上位班が勝手に自滅して、残った陣地を全て確保して優勝出来たとか。


 まあ、大体、1班10人だから、絶対に、優勝チームは10個の陣地しか確保出来ない訳で、残った5つの陣地は、他の班がゲットできる仕様になっている。


 まあ、兎に角、この野営訓練は、とても戦略が大事で、奥深いのである。


 しかも、殆どの有力貴族が観戦に訪れていて、家を継げない下級貴族二男三男や、平民を、騎士としてスカウトする事もあるし、目立つ活躍をすれば、王国騎士団に就職する為のアピールになるのだ。


 なので、下級貴族も特待生の平民も必死だし、上級貴族の子息達も、家の力と自分の力を示す為に必死なのである。


 因みに、グラスホッパー家の野営訓練の成績は、長男セントと、三男トロワ、長女アン、そして、俺は、全員、自分の班を優勝させてたりする。

 唯一、グラスホッパー家で優勝出来なかったのは、次男ジミーの時だけ、まあ、同じ年代に剣鬼カレン・イーグルが居たから、仕方が無い事なのだけど。


 まあ、兄ちゃん達や、アン姉ちゃんが、野営訓練や剣術祭で好成績を残してたので、

 俺が、カナワン城塞都市で焼き芋を売ってた時、カナワン伯爵やイーグル辺境伯が、自分達の陣営に入れようと近付いて来た訳なのだけど。


 あの時点で、カナワン伯爵とイーグル辺境伯は、既に、グラスホッパー騎士爵家の秘めた力に目を付けていたのだ。

 グラスホッパー騎士爵家は、大戦の英雄エドソンだけでは無いと、子供達まで、その圧倒的な武力を受け継いてるとね。


 そして、あまりに貴族社会に馴染んでないエドソンに、話を持っていっても、そもそもエドソンは他の貴族に会おうとしないので、どうしようかと、手を込まねていた所に、俺とコナンとシスが、たまたまカナワン城塞都市に焼き芋を売りに来たので、カナワン伯爵はチャンスと思い、すぐさま、俺達に近付いて来たというのが、事の真相だったのかもしれない。


「それでは、野営訓練本戦スタートじゃ!

 戦闘開始は、明日の朝6時!それから3日後の朝6時に終了!以上!

 直ちに、開戦準備に取り掛かれ!」


 野営訓練実行委員長のアレキサンダー君の号令により、直ちに、各班の生徒達は、自分達が確保する予定の陣地に向かう。


 今回、Sクラス、ナナ班が目指す陣地は、多分、一番人気があるであろう、小高い丘の上にある古城の陣地。

 古城は石造りで強度があり、しかも見晴らしも良いので、拠点にするには理想的な陣地なのである。


 なので、競争相手も多い。

 殆どの、SクラスやAクラスの上位班が狙っていて、古城陣地を拠点に出来れば、その後の戦略を優位に進める事が出来るのである。


 今回、ナナの班には、瞬足スキルを持つマリン・チーターのような人材がいないので、ヨナンは、戦略によって、古城の陣地を手に入れる事にしたのだ。


 基本、明日の朝6:00の開戦まで、戦闘行為は不可なのだが、唯一、トラップなどを仕掛けるのは有りとなっている。


 これは現地に早く到着してなければ出来ない事で、それも野営訓練で認められた、れっきとしたルールなのである。


 まあ、ナナの班にできる事なので、他の班も勿論できる事なのだが、実は、一番、最初にビートル男爵領に到着したナナ班は、ずっと他の班の動向を見張ってたのである。


 他の班が、一番狙いである古城陣地を確保する為の罠作りをしてる所を、

 常軌を逸した特訓で引き上げた、カイ・ホークの鷹の目Lv.3と、サクラ・ラグーンの狸寝入りLv.3の幽体離脱で、もう、隅々まで、しっかりと、しかもサクラ・ラグーンの場合は、至近距離で見てたのである。


 そして、しめしめこれで、うちの班が古城陣地を確保出来ると、他の班が帰っていった所に、今日の朝方、全てのトラップを、土木スキルを持つハツカが全てぶっ壊し、

 代わりに、他の班の通り道と思われる道に、有り得ない数のトラップを仕掛けたのである。


 誰しも、前日の夜中に仕掛けたトラップを、朝方の短時間にぶっ壊されて、しかも、逆に大量のトラップを仕掛けられてるとは思わないし。


 どこの班も、前日までに、自分達が古城まで目指す最短ルートをチェックしてるのだが、その何度もチェックしてトラップが無い事も確認してた道に、まさか、朝方の短時間の間に、新たなトラップが設置されてるなんて、普通思わないし。


 そして、案の定、他のライバル班は、ハツカが仕掛けた罠に引っ掛かり、ハツカ班は、見事、お目当ての古城陣地を確保する事に成功したのだった。


 しかも、ナナ班のライバルになると思われる、古城を拠点にしようとしてたSクラスの1つの班と、Aクラスの2つの班は、この前哨戦である拠点確保合戦で、大体、2、3人が戦線離脱する羽目になってるし。


 相変わらず、ヨナンのズル賢い戦略は、ハマりまくったのだった。

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