第147話 個別面談カイ・ホークの場合
【個別面談、カイ・ホークの場合】
姉、アイ・ホークの指令通りに、なんとかハツカ・グラスホッパーの班に入る事が出来た。
これも全て、ホーク男爵家の為。
ホーク男爵家の跡取り息子であるカイ・ホークは、なんとしても、寄親であるグラスホッパー伯爵家に取り入らなければならないのだ。
グラスホッパー伯爵派閥は、カララム王国で1番新しい派閥である。
派閥の会長であるヨナン・グラスホッパーは、齢13才でレッドドラゴンを倒した英雄。しかも、国内最大の大商会であるグラスホッパー商会の商会長であり、国内の経済と流通、全てを牛耳ってる。
しかも、つい最近起こったアンガス神聖国との戦争も、たった1人で平和裏に終結させたり、もう、意味の分から無い活躍を連発する超大物だったりする。
そんなヨナン・グラスホッパーに、カイの姉であるアイ・ホークが上手い具合に取り入り、グラスホッパー伯爵派閥に入る事が出来たのだ。
そして、現在は、派閥内では、壮絶な役職争いが繰り広げられたりしている。
本来なら、グラスホッパー伯爵派閥の中で、一番地位の高いチーター子爵家が、副会長をやるのが普通なのだが、何を思ったのか、カイの父親のホーク男爵も副会長に立候補してしまったのだ。
派閥内の役職は、爵位の順位で決まるものだが、ホーク家は、名門イーグル辺境伯家の分家。しかも、グラスホッパー伯爵家は、イーグル辺境伯と色濃い繋がりがある。
それも相まって、とち狂ったカイ・ホークの父親が派閥副会長に立候補してしまったので、現在、派閥内がギクシャクしてしまってたりする。
そして、父親ホーク男爵からの命令は、「なんとしても、グラスホッパー伯爵ヨナン・グラスホッパーに取り入れ!」なのであった。
ーーー
「君が、アイさんの弟のカイ君だね。初めまして」
黒目黒髪が特徴的な、ヨナン・グラスホッパーが喋りかけてくる。
今現在、姉アイ・ホークに指令を受けて、ヨナン・グラスホッパーの寮の部屋に来ているのだ。
「ハッ!ヨナン様。初めましてでございます!」
カイ・ホークは深々と頭を下げる。
ハッキリ言うと、ヨナン・グラスホッパーは変わっている。
国内有数の金持ちなのだが、何故か、下級貴族や平民が暮らす貧乏寮に住んでいるのだ。
しかも、国の大英雄であるのに、決して偉ぶらない。
貴族に対しても、平民に対しても平等に接するのだ。
それが例え、この国の王アレキサンダー・カララムや、アンガス神聖国女王ココノエ様であっても。誰とでも平等に接する。
まあ、ちょっとだけ、カララム国王アレキサンダー様には、キツめに接するけど、それはいつも、アレキサンダー国王に無理難題を押し付けられているからであって、決して無礼を働いてように見えない所が、ヨナン・グラスホッパーの凄い所である。
実際、アレキサンダー国王も、ヨナン・グラスホッパーの事を、親友と言って憚らないし。ヨナン・グラスホッパーにタメ口で話されても、全く持って気にしてなさそうだし。
そんな大英雄ヨナン・グラスホッパーに、2人っきりで会ってるので、緊張するなという方が無理な話であるのだ。
「まあ、落ち着いてよ。今、お茶入れるから」
そんなカイの事を知ってか知らずか、ヨナン・グラスホッパーが、自らお茶を入れるという。
派閥の会長自らに、お茶を入れさせる訳にはいかないと、カイ・ホークも慌てて席を立つ。
「まあまあ、席に座っておいてよ。君は、お茶がある場所、どこか知らないでしょ?
君は、お客様なんだから、ゆっくりと寛いでよ!」
ヨナン・グラスホッパーは、ニコニコしながら、フレンドリーに話し掛けてくる。
どれだけ、人間が出来てるのだろう。
そして、お茶とお茶請けを運んでくると、カイの前に差し出し、ヨナンもソファーに腰掛ける。
「あの……それで、私にどのような話でございましょうか?」
「ああ。それは勿論、ハツカ・グラスホッパーの話だよ!」
来た! 姉アイ・ホークから実は聞いているのだ。ヨナン・グラスホッパーは、養女のハツカ・グラスホッパーを溺愛してると。
そして、ハツカ・グラスホッパーには、どんだけ可愛いくて好みで惚れたとしても、決して手を出すなと。
温和なヨナン・グラスホッパーが、現在、唯一怒り狂うのは、ハツカ・グラスホッパーのこと於いてのみ。
つい最近までは、大罪人アスカ・トップバリューとトップバリュー男爵に、並々ならぬ敵対心を燃やしていたが、現在、トップバリュー男爵は、サラス帝国に亡命してしまった為、現在は、ハツカ・グラスホッパーを溺愛する事に心血を注いでいるらしい。
でもって、これは姉アイ・ホークから聞いた内緒の話なのだが、ハツカ・グラスホッパーは、実は、ヨナン・グラスホッパーの実の妹であるらしいのだ。
まあ、ハツカ・グラスホッパーも、ヨナン・グラスホッパーと同じ黒目黒髪なので、そう言われると、そうだと思うし。
「ハツカ様は、大変優秀で可愛らしい方でございます!」
カイは、冷や汗を垂らしながら答える。
「ん?可愛らしい?」
ニコニコしてた、ヨナン・グラスホッパーの顔色が少し変わる。
それを、直ぐに汲み取ったカイは、
「ええと、決して、恋心を抱いてる訳ではありません!ただ、見た目が可愛らしい人だな。と、思った次第であります!」
慌てて、訂正する。
「そうだよな! ナナじゃなくて、ハツカは、とっても可愛いよな!」
ヨナン・グラスホッパーは、ハツカを褒められて、もう、デレデレである。
それを見て、カイは、更に畳み掛ける。
「ハイ!とても可愛らしくて、クラスの人気者でもあります!」
「そうか。そうか。ハツカは、クラスの人気者なのか」
「私としては、ハツカ様に悪い虫が付かないように、グラスホッパー伯爵家の寄子の子息として、キッチリと、ハツカ様をガードする所存であります!」
「おっ?君はなんだか、気が合うし、見どころがありそうだな!
そうかそうか。ハツカに、悪い虫が付かないようにガードしてくれるか!
それなら、コレを持っていけ!」
ヨナン・グラスホッパーは、ご機嫌な感じで、自分の魔法の鞄から、何やら木刀を取り出し、カイに渡す。
「これは?」
「それは、俺が作った木刀だ! 鉄の剣やミスリルの剣程度なら、軽くスパッ!と斬れちゃうから、それでハツカを、悪い虫から守ってくれよ!」
「ははーー! 承りました!」
カイは、ヨナン・グラスホッパーから、ミスリルをも斬れるという、意味の分からない木刀を受け取り、ヨナン・グラスホッパーとの個別面談を、なんとか乗り切ったのであった。
これで取り敢えず、父、ホーク男爵から与えられた、グラスホッパー伯爵取り入り作戦は成功であろう。気が合うとも言われたし。木刀も授かったし。
でもって、自分の寮の部屋に帰ってから、冗談だと思うが、一応、ミスリルをも斬り裂く、木刀の斬れ味を確認してみることにする。
流石にミスリルの剣は持ってないので、鉄の剣の刀身に、木刀を軽く当ててみたら、鉄の剣が豆腐のように何の抵抗もなく斬れてしまい、カイ・ホークが、目ん玉飛び出すくらい驚いたのは言うまでも無い話だった。
ーーー
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