第148話 個別面談 サクラ・ラクーンの場合

 

【個別面談 サクラ・ラクーンの場合】


 ラクーン準男爵令嬢サクラ・ラクーンは、基本ボッチだ。

 喋るのが苦手で、入学して2週間経っても、クラスの誰とも話す事が出来ない、超絶人見知りの性格なのだ。


 そんなある日、たまたまクラスのヒエラルキー頂点のハツカ・グラスホッパーに喋り掛けられた。


 ハツカ・グラスホッパーは、国の大英雄ヨナン・グラスホッパーの養女。アンガス神聖国出身で、アンガス女王ココノエの護衛として、カララム王国学園に留学生として入学して来たのだが、ぶっちゃけ、どう考えても、ヨナン・グラスホッパーの実の妹だと、サクラは踏んでいる。


 だって、2人とも、この国では珍しい黒目黒髪だし、持ってるスキルも、大工スキルと、土木スキルで似通ってる。

 そして、他国の人間を、そもそも大英雄が、自分の養女にするなんて、普通有り得ないし。


 でもって、ヨナン・グラスホッパー自身もグラスホッパー男爵家の養子で、本当のグラスホッパー家の子供じゃないのだ。

 極めつけは、ハツカには、子供の頃の記憶が無い事。

 ここまで、揃えば、誰の目にもヨナン・グラスホッパーと、ハツカは実の兄妹と分かる筈なのだが、Sクラスのみんなは、何故か、誰一人としてその事実に気付いてないのであった。


「あの……いつも本を読んでるよね……」


「あ……うん」


 そう。サクラは、自分がボッチなのを隠す為に、いつも本を読んでるフリをしてたのだ。


「あの、もしかし、お菓子作りが趣味なのかと思って……」


「え?」


「ほら、いつも料理本読んでるから……」


 確かに、サクラはいつも料理本を読んでいる。そして、それは、たまたまなのだ。

 サクラ・ラクーンは、貧乏寮に住んでいる。

 でもって、生徒は自炊する者も多い。


 それでなのか、女子の貧乏寮の共用スペースには、何故か、料理本が大量に置いてあるのである。


 まあ、貧乏寮の生徒は、寮の食堂でバイトする者も居るし、それから、貴族の優良子息を落とすには、料理の腕は必須で、何故か、カララム王国学園では、付き合ってる彼氏に手作り弁当を作って渡すのが、鉄板という理由もあるから。


 サクラは、そんな訳で、たまたま貧乏寮の共有スペースにおいてあった、料理本を借りて読んでいただけなのであった。


 そして、現在読んでる本が、またまた、たまたま、お菓子作りの本であったのである。


「お菓子……ウン。お菓子作りはするよ」


 実を言うと、本当に、たまたまなのだが、サクラ・ラクーンは、お菓子作りが趣味だったのだ。


「そしたら、どうか、私にお菓子作りを教えて下さい!」


 突然、サクラ・ラクーンは、クラスのヒエラルキー頂点のハツカに頭を下げられて困惑する。


 そして、話を詳しく聞いてみると、どうやら、ハツカ・グラスホッパーは、とてもお世話になってる、養父のヨナン・グラスホッパーに、手作りのお菓子を作って渡したいのだとか。


 何故、ハツカが、ヨナン・グラスホッパーが、実の兄だと気付かないか謎だが、サクラはお菓子作りには自信があるし、折角、このクラスのヒエラルキー頂点であるハツカが、自分の方から話し掛けてくれたのだ。


 このチャンスを、どうやってでも活かさなければ、さもなければサクラは、カララム王国学園在学中、1人も友達が出来ない自信がある。


 そんな訳で、サクラは、グラスホッパー伯爵家王都別邸に呼ばれて、ハツカにお菓子作りを教える事となったのだが……


「あれ?これ……私要らなくない……」


 そう、ハツカ・グラスホッパーは、大工スキルの劣化版、土木スキルの使い手だったのである。


 まあ、何でも程々に出来てしまうのだが、その程々が、大工スキルに対しての程々なので、何を作ってもトンデモナイものが、出来上がってしまうのだ。


 普通に、お菓子作りに自信のあった、サクラより、数倍上手く、有名パティシエ真っ青なクッキーが出来上がってるし。

 まあ、グラスホッパー商会が販売してる、メチャクチャ美味しいクッキーよりかは、上手くは作れてないんだけど、ハッキリ言うとプロ並。


 素人お菓子の枠を、完全に飛び出してるクッキーが、完成してしまったのであった。


「サクラちゃんのお陰だよ!」


 なんか、よく分からないが、ハツカ・グラスホッパーには、メチャクチャ感謝されてしまうし、本当に意味が分からない。


 そんな事が有りつつ、野営訓練では、ハツカ・グラスホッパーの方から、一緒の班になろうと誘われたりして、今現在、


「やあ。サクラさんだよね! ハツカと仲良くしてくれてるようで。

 聞いたよ!ハツカにクッキーの作り方教えてくれたんだよね!

 本当に、ハツカと友達になってくれてありがとう!」


 何故か、食堂で、いつものようにボッチで昼食を食べていたら、この国の大英雄ヨナン・グラスホッパーが、目の前の席に座ってきて、いきなり話し掛けてきたのであった。

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