第118話 ジミー爆死

 

「トロワ! まず、最初にお前を倒して、俺が、グラスホッパー男爵家最強の男だという事を証明してやる!」


 アホなジミーが、他の選手を倒せばいいのに、わざわざ身内の、しかも下の弟であるトロワに戦いを挑む。


 なんか、1人だけ大会の趣旨を履き違えてるような……

 というか、まだ、グラスホッパー家最弱の男だと気付いてないのか?


 つい最近も、エリザベスにボコられて、顔をパンパンに腫らしてた筈だが?

 まあ、直接、俺や、トロワ兄や、アン姉ちゃんと戦った事が無いから、分かってないのかもしれないけど。


 ある程度の実力者なら、大体、戦わずとも、相手の力量が分かるものだが、ジミーの場合、そこまで行ってないのかもしれない。


 まあ、剣術スキルLv.2を持ってる事に、胡座をかいて全く剣術の練習してなかったし。


 俺の見立てでも、トロワ兄の方が普通に強いと思う。なんてたって、トロワ兄は、ユニークスキルに、身体強化Lv.2を持ってるしね!


「ゲッ! ジミー兄ちゃん、トロワ兄ちゃんと戦う気?!

 何で分かんないかな。トロワ兄ちゃんと戦っても、絶対に勝てないのに」


 もう既に、コナンでさえ、ジミーの力量が分かってしまってるようだ。

 可哀想なジミー。家族で、ただ1人だけ自分の力量を分かってない男。


 そう。ジミーは、まだ、11歳のコナンにさえ負けてるのだ。

 というか、多分、コナンはグラスホッパー男爵家最強になる筈の男。


 だって、夏休み里帰りして見た時、普通に、大戦の英雄とガチで稽古してたし。

 全く、手抜きしないエドソン相手にだよ。


 もう、これ普通じゃないから。

 剣術スキルLv.2と、みじん切りスキルLv.3の相性の良さ。もう、これ神速だから。


 多分、もうすぐアン姉ちゃんを、追い抜きそうだし。

 アン姉ちゃんだって、11歳の時は、エドソンに軽く捻られてたんだからね。


 でもって、案の定、ジミーはトロワ兄に、手加減されて倒されてしまった。


「ああ~! だから止めとけば良かったのに……」


 コナンは、相当、ジミーに呆れてしまっている。コナンも、つい最近までは、剣術スキルLv.2を持ってるジミーこそが、グラスホッパー男爵家最強と思ってた。ジミーも、事ある毎に、「俺こそが、グラスホッパー家最強の男だ!」と、家族に風潮してたし。

 でも、コナン自身が強くなって、ジミーのしょぼさに気付いてしまったのだ。ただの口だけ男だという事を。

 そして、ヨナン兄ちゃんこそが、グラスホッパー家最強の男だと!気付いてしまったのである!


 コナンは、元々、ヨナンの事が大好きであった。だって芋堀りが異常に上手かったから。

 どこに埋まってるのか簡単に分かるらしく、ものの30秒くらいで、いつも掘り当ててたから。


 そんなヨナンが、13歳になり、女神ナルナーからスキルを授かると覚醒する。


 芋堀りは、今迄以上に物凄くなるし、大工道具を使いこなして、大森林を開発し、貧乏だったグラスホッパー家を、一躍、金持ち成金貴族に押し上げたのである。


 コナンは、その姿を見て、物凄く興奮した。

 コナンも一応、イーグル辺境伯の血を引き継いでいる。

 それも、男子だというのに、結構、色濃く。


 そう。強くて、甲斐性がある男に、メチャクチャ憧れてしまうのである。


 イーグル辺境伯領に行った時、ヨナンが、レッドドラゴンを倒して凱旋して来た時なんか、物凄く興奮した。

 もう、カレンが10メートルもあるレッドドラゴンの尻尾を引きづって来た時なんか、卒倒してしまいそうな程に。


 そして、そんな尻尾だけで10メートルもあるレッドドラゴンを倒してしまえる、ヨナンに心底、尊敬を通り越して畏敬の念を抱くようになったのだ。


 ヨナン兄ちゃん、半端ねえって!


 コナンのヨナン評は置いといて、剣術祭は続いてる。

 やはり、下馬評通り、アレクサンダー君とトロワ兄と、恋愛イチャイチャキングダムの攻略対象、それから、俺の9人の女騎士の強さは際立っている。


 次々に生徒達を倒していき、あれよあれよといううちに、その他の生徒達を全員倒してしまった。


 そして、俺はというと、再起不能になった生徒を、会場から、セッセと医務室に運ぶ係。


 ここで、聖剣ムラサメがとても役にたった。だって、聖剣ムラサメを握ってるだけで、物凄く時間がスローモーションになってしまうのだ。


 その効果を使って、安全に、手早く、負傷した生徒を運び出す事が出来るから、負傷して倒れてる所を、選手に踏んずけられるとかいう、マヌケな二次災害は絶対に起こらない。


 こんな使い方なら、封印していた聖剣ムラサメを使ってもいいよね!

 大森林の木刀クラスでは、会場4つをカバー出来ないし!


 そんな言い訳は置いといて、とうとう予選はクライマックスに突入する。


「カッカッカッカッカッ! 腑抜けどもが! やはり、カララムダンジョンを完全攻略した、このワシに比べたら、まだまだじゃな!」


 第一会場のアレクサンダー君は、もう既に、勝利宣言。

 だって、ステータス上でも、カララム王国学園で一番良いので、当然と言えば当然。


 だけれども、


「それは、どうかしら?」


 突然、どこからともなく、聞き覚えがある若い女の声が聞こえてくる。


 そして、それと同時に、上空から見た事もない巨大な魔物の死骸が、ドサドサと、4つの会場に次々に落ちてきた。


「「うわあぁぁぁーー!!」」


 突然の事に、会場は大パニック。

 だって、巨大な魔物が、何十匹も降ってくるんだよ。最早、天変地異だって!


 そんな中、


「おい! あれ見てみろよ!」


 観客の1人が、上空に浮かんでる3人の少女に気付く。


「ヨナン兄ちゃん! あれ、カレン姉ちゃんと、アン姉ちゃんと、カトリーヌ姉ちゃんじゃない!」


 コナンも、流石に気付いたようだ。

 まあ、俺は、聖剣ムラサメによるスローモーションの世界に居たから、早くから気付いてたんだけど。


 そして、カレンは、そんなスローモーションの世界で生きる俺を、しっかりと視認してる。普通の人間の動体視力では見えない筈なのに。


 というか、カレンは、普通の登場の仕方が出来ないのか?

 そう。カレンは、狩った獲物を皆に見せびらかす習性があるのだ。


 多分、会場に山のように積まれた、たくさんの魔物の死骸は、カララムダンジョン70階層以上に生息してる魔物であろう。


 俺が、見た事ない魔物ばかりだし。

 俺が攻略した時は、カララムダンジョンがひよってしまって、70階から最上階まで、魔物が一匹も出て来なかったし。


 そして、これでもかと、カララム王国学園剣術祭に集まった観客達に、自分の凄さをアピールしたカレンは、俺をしっかりと睨み付けて、


「ヨナン待たせたわね! 私達も、カララムダンジョンを完全攻略して来たわよ!」


 何故か、ドヤ顔で言い放ったのだった。


 ーーー


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