第18話 男の約束

 

 ヨナンが実家に到着すると、丁度、カララム王国学園の寮から帰ってきていた兄達が、玄関先でエドソンやエリザベスとハグして久しぶりの帰郷を喜んでる場面に遭遇してしまった。


「おっ! ヨナン! お前も帰って来たのか!

 これで、家族全員集合だな!」


 ちょっとバツの悪い所に帰ってきてしまったと、少し後悔してたヨナンを、エドソンは、いつものように直ぐ見つける。


「取引してるトップバリュー商会の人が、兄貴達が、今日帰ってくるのを教えてくれたからな」


 ヨナンは正直に答えるが、アスカの事は話さない。

 まあ、聞かれてもないし、エドソン以外は、そもそもヨナンに興味がないし。


「ヨナン。もう、知ってると思うが、俺とセントとジミーとトロワは、明日、グラスホッパー領から集めた私兵を引連れて、戦争に向かう」


「ああ」


「グラスホッパー領の男手が全員、戦争に駆り出されてしまうので、頼れるのはお前一人だ」


 なんか、エドソンがいつもと違い、真剣な顔をして話し掛けてくる。


「グラスホッパー家もそうだけど、他の家とか、男手が足りなくなるから助けてやれって言うんだろ?

 任せとけよ! 俺、兄貴達みたいに剣術スキルが無くて、戦闘はカラッキシだけど、大工スキルがあるから農家の手伝いくらい出来るさ!」


 というか、子供の頃からというか、今も基本芋掘りばかりしてるけど。


「頼むぞ!」


「ああ。大船に乗ったつもりで戦争に行ってきな!」


 ヨナンは、力強く返事をする。


「まあ、お前みたいに才能無い奴は、土弄りするしか取り柄がないもんな!

 俺みたいに将来有望な剣士は、この戦争で手柄を上げて、新たに爵位を貰ってこの家から独立してやんぜ!

 このジミー様のような天才が、こんな辺鄙な田舎貴族の家も継げない次男坊なんて、やってられないしな!」


 次男のジミーが、いつものようにヨナンに絡んでくる。


「オイ! コラ! 言っていい事と悪い事があるぞ!」


 エドソンが、語気を強めてジミーを叱りつける。


「ハッ? 剣術スキルLv.1の親父は、黙ってろって! 俺はアンタみたいに、こんな辺鄙な土地で埋もれるような男じゃねーんだよ!」


「オイ! ジミー! いい加減にしろよ!」


 真面目な長男セントが割って入る。


「お前もヨナンと一緒で、その他大勢と変わんねーんだよ! 長男だからって調子にのんなって!

 俺はお前と違って、剣術スキルLv.2を、女神ナルナー様から授かった選ばれた人間なんだからな!」


 ジミーは、小物臭をプンプン撒き散らしながら吠えまくる。


「ジミー。1つだけ言っとくぞ! 戦争は、お前が思うほど、そんなに生易しいもんじゃない。剣術スキルLv.2の奴も、死ぬ時は死ぬんだ」


 エドソンが、珍しく真剣な顔をして強めに叱る。

 まあ、ここで叱っておかないと、戦争で調子に乗って死ぬ可能性も出てくるかもしれないのだ。


「ハア? 俺は、名門カララム王国学園でも、剣術の腕はトップクラスなんだよ。敵兵なんて、全員、俺が倒してやんよ!」


 この世界では、結構、スキルがものをいう。

 そして、ジミーのように貴重なスキルを授かると、調子に乗るアホな輩もチラホラ現れたりするのだ。


「あの……俺、もう帰るよ。取り敢えず、みんなが戦争行ってる間は、グラスホッパー領の人達が困ってたら、出来るだけ助けるようにするから」


 もう、これ以上居ても、建設的な言葉は一切出てこなそうなので、ヨナンは退散する事にする。

 きっと、養子で他人のヨナンが居ると、家族関係がギスギスしてしまいそうだし。


「そうか……ヨナン。嫌な思いさせて悪かったな。 戦争帰って来たら、また、家に遊びに来いよ! この家が、お前の家なんだからな!」


 しかし、そんなヨナンの気持ちを無視するように、エドソンがヨナンの傍まで来て話し掛けてくる。


「ああ。そうする。エドソンも死なずに帰って来いよ」


「馬鹿野郎! 誰に言ってんだ? 俺はこう見えても、前の大戦の英雄だぞ! 簡単に死ぬかよ!」


 エドソンは腕まくりし、力こぶを見せてニッカリ笑って見せる。


「だな!」


「まあ、一応、言っとくけど、俺に万が一の事があったら、エリザベスとチビ達を頼むぞ!」


「多分、俺より、コナンの方が強いと思うけど?」


「アホか! 戦争以外では強さなんて、なんにも役に立たないんだ! ハッキリ言って、金を稼げる奴の方が偉い!

 その点、お前は13歳にして、もう、自立してるから、グラスホッパー家で、お前が一番偉いんだよ!」


 エドソンは、ヨナンの頭を力強くぐちゃぐちゃに撫でながら言う。


「ちょっと、痛いって!」


 ヨナンは必死に、エドソンの手から逃げようとする。


「ヨナン」


「ん?何?」


 エドソンは、いつにも増して真剣な顔だ。


「グラスホッパー家を頼んだぞ」


 エドソンは、ヨナンの目を、ジッと見つめて言う。


「ああ、頼まれた!」


 エドソンには、助けられた大恩があるのだ。

 エドソンが居なければ、今頃奴隷だった。

 奴隷になる寸前だったヨナンを、奴隷商から救いだしてくれたのだ。


 だから、エドソンが、グラスホッパー領を頼むと言うのであれば、ヨナンは、全力で答える。


 それが、全くの他人であるヨナンを、本当の息子のように育てててくれた、エドソンへの親孝行になると思うから。

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