第17話 策略

 

 サラス帝国とカララム王国が戦争状態になった事は、すぐに、アスカからヨナンにも伝えられる。


「ヨナンさん! 大変です! トップバリュー商会から連絡があったのですが、どうやらサラス帝国が、カララム王国に戦争を仕掛けて来たみたいです!」


「ほっ…本当かよ……」


 流石に、ヨナンも戦争と聞いて驚いてしまう。


「それで、どうやらこの辺りの貴族達にも、カララム王国から戦争の招集が掛かってるようですね。トップバリュー男爵の所にも招集が掛かったみたいですし……」


「そしたら、グラスホッパー家の兄貴達も戦争に駆り出されるんじゃないのか?

 うちの領地って、爺さん婆さんばかりだから、上の三人の兄貴達は、まだ学生だけど、一度、学生寮から領地に戻ってくるかもしれないな……」


 因みに、グラスホッパー家の男兄弟はこんな感じ。グラスホッパー家の長男セント18歳。次男ジミー16歳。三男トロワ15歳。四男ヨナン13歳、五男コナン10歳。


 成人してる長男から三男までは、戦争に参加出来る年齢であるのだ。


「ヨナンさん……グラスホッパー家って、騎士爵家ですから、20人戦争に私兵を連れていかないといけないんですよね……ですが、そもそも、グラスホッパー領に20人も戦争に参加できるような男性って居るんですか?」


 アスカが、心配というか、探るように聞いてくる。


「居ないな……年齢的には成人になってる、長男、次男、三男も入れても、15人くらいしか集めれない気がする……」


「それって、大丈夫なんですか……」


「大丈夫じゃないけど、居ない者はしょうがないだろ……」


「心配ですね……」


「そりゃ、心配だろ。いくらエドソンや兄貴達が剣術スキル持ってたとしても、俺の本当の親のように、死ぬ時は死ぬんだから……」


 ヨナンは、とても憂鬱になる。

 剣術スキルLv.2を持っていて、とても性格悪い次男のジミーはともかく、エドソンと、長男のセント、三男のトロワには死んで欲しくない。


「だけれども、グラスホッパー家の男子は、全員剣術スキルを持ってて、強いんですよね?」


「ああ。俺以外は全員持ってて強いぞ。二男のジミーなんて剣術スキルLv.2だし、多分、弟のコナンも剣術スキルLv.2かもしれない。

 だって、父親のエドソンとの剣術の練習を見ていても、まだ10歳だというのに、非凡な才能を発揮してるしな……」


「なら、お兄様方も、戦争行っても生きて返ってこれますね!

 もしかしたら、前の大戦の時のように活躍して、次は準男爵とかに出世するかもしれませんよ!」


「だと、いいんだけど……」


 ーーー


 そんな話をしていた10日後。


「ヨナンさん。どうやらグラスホッパー家のお兄様方が、今日、グラスホッパー家に帰ってくるみたいですよ。

 なんでも、王都とトップバリューの領都を繋ぐ、トップバリュー商会が運営する乗り合い馬車に、グラスホッパー家の子息が乗っていたという連絡がありましたので、間違い無いと思います!」


 アスカが、トップバリュー商会の情報網を駆使して、ヨナンの兄達の帰りを教えてくれた。


「トップバリュー商会の情報網って、メッチャ凄いんだな……」


「たまたま、お兄様方が、トップバリュー商会の乗り合い馬車に乗ったからですよ」


 何故か、トップバリュー商会を褒めただけなのに、アスカが謙遜する。

 まあ、アスカは、トップバリュー商会のお偉いさんらしいので、自分が所属する商会が褒められて嬉しいのかもしれないけど。


「兄貴達が帰ってくるんなら、俺、ちょっと実家に戻って、エドソン達と話してくるよ!」


「そうですね。それがいいと思います」


「じゃあ、行ってくる!」


「ええ、いってらっしゃいませ」


 ヨナンが屋敷から出て行くと、直ぐさま誰かと示し合わせでもしてたかのように、トップバリュー商会の、裏の仕事を請け負う暗部の者が屋敷の中に入ってくる。


「お嬢様。先程、グラスホッパー家の子息達が、自宅に帰って来ました」


「あら? タイミング的にバッチリね!」


「そのように、乗り合い馬車のスピードを調整致しましたから」


「で? 計画は全て順調?」


「自国の貴族の工作も、帝国への工作も、全てつつがなく終わっております」


「なら、大丈夫ね。 ああ、それにしても本当に楽しみだわ。これから起こる、絶対に逃れられない悲劇に直面して、あの、独り言が多くてキショ過ぎるヨナンが、顔を歪めて、絶望する姿を想像するだけで、ゾクゾクして、イッてしまいそうだわ……」


 アスカは、内に秘めるドス黒い感情が抑えられない。


「ああぁぁああぁぁ……なんて哀れで、バカな男なんでしょう。私の手の上で踊らされてるとも知らずに」


 アスカは、窓から見える、グラスホッパーの家に向かうヨナンの後ろ姿を眺めながら、光悦な表情を浮かべ、とても愛おしそうにほくそ笑むのだった。

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