第19話 断罪ショー

 

 エドソンと、兄貴達と、グラスホッパー領の男手が戦争に行ってから、10日が経った。


 ヨナンは、このところ毎日、グラスホッパー領の男手が戦争に行った農家の手伝いをしにいっている。


 そんな最中に、アスカが、ふらりと農家に現れた。


「ヨナンさん! 大変です! どうやら、グラスホッパー騎士爵の部隊が全滅してしまったらしいです!」


「エッ……何言ってんだ? 何でグラスホッパー騎士爵の部隊が全滅するんだよ?

 エドソンは、戦争の英雄だし、兄貴達も全員剣術スキルを持ってんだぞ!

 ジミーだって、剣術スキルLv.2だし、そう簡単にはやられない筈だろ……」


「それが、グラスホッパー騎士爵の部隊は、激戦区域の前線で戦ってたみたいで、相手の主力1万の部隊に突撃して行ったとの事です」


 何故か詳しい、アスカが説明する。


「何で、1万の部隊に、15人の兵士が突撃するんだよ! 本当に、訳が分かんないんだけど!」


 ヨナンは、頭が混乱して何がなんだか分からない。

 というか、分からないのは当然で、普通に考えても、1万の敵に対して、15人で突撃するなんて自殺行為としか思えない。


「何で、そんな事になってんだよ! カララム王国の作戦参謀は無能なのか?」


「何でも、20人の兵士を集めなければならないのに、たったの15人の兵士しか集めれなかった懲罰的な意味合いがあったとか、無かったとか……」


 アスカは、何故ここまで詳しいのか、事の成り行きを説明する。


「何だ?それ? 国はふざけてんのか?親父が、このグラスホッパー領に赴任して来た当初から、元々、こんな痩せた土地に人なんか住んでなかっての!

 居ない者を、どうやって集めろってんだよ!」


「まあ、人を雇うとか、方法は幾らでも有りますけどね」


 アスカは、少し、現実的で厳しい事を言ってくる。


「人を雇うって、グラスホッパー領に人を雇う金なんかねーよ!

 安い男爵芋しか育てねーし、国に納税しなきゃなんねーし! 貴族だから、子供達を学校に行かせて、寮にまで入らせなきゃなんねーんだぞ!

 エドソンなんて、お小遣い月3万マーブルで、慎ましく生活してたんだからな!」


 ヨナンは、現実を受け入れられない。

 人って、こんなにも呆気なく死ぬものなのか。

 というか、これからグラスホッパー領はどうなるのだ。

 現在、グラスホッパー領には、成人した男性が1人も居ないのである。

 五男のコナンが成人するまで、後5年も掛かってしまうのだ。


「ヨナンさん。多分、グラスホッパー騎士爵は、廃爵処分になると思います」


「嘘だろ! 俺はエドソンに、エリザベスとチビ達を任されてるんだぞ!どうにかならないのかよ!」


「国への納税を滞りなく出来れば、まだ何とかなるかもしれませんけど、それも怪しいですよね……なんたって、グラスホッパー領の男手は、全員、戦争で死んでしまってますから、税金なんて払えませんね」


「俺が立て替えれば何とかなるだろ?」


「それは無理です。ヨナンさんは、トップバリュー商会に莫大な借金が有りますから!」


 アスカが、突然、意味の分からない事を言う。


「ん? 何の話しだ?」


「大森林に巨大城塞都市を建設するに当たって、ヨナンさんは、トップバリュー商会に莫大な借金をしていると言いました」


「どういう事だ? 俺、アスカに高価な宝石30個全部やっただろ!

 それで、足りないお金を当ててくれって!」


「それでも足りないくらいに、高価な建材やら、家具やら、道具を、トップバリュー商会から買っていますから!しかもトイチで!

 借用書も、ヨナンさんの拇印入りで、私が持っていますから!」


 アスカは、鞄から紙の束を取り出す。


「アスカ、お前、何言ってんだ……」


「だから、ヨナンさん、この借用書に見覚えがありますよね?」


「それって、婚約証明とか何とか言ってた紙だよな?

 確かに、烙印したけど、それがどうやったら借用書になるんだ?」


「この、婚姻証明書のような紙には、まだまだ続きがありまして、このように小文字でビッシリ契約内容が書いてあるんです。

 しかも、これは実際、婚姻証明書ではなくて、借用書、兼、奴隷売買契約書も兼ねてます。とてもとても小さく書いてるでしょ!

 そもそも、この国には、婚姻届は有りますけど、婚姻証明書という書類自体ありませんからね」


「奴隷売買契約書?」


「ハイ。今も、ヨナンさんって、私の奴隷なんですよ!」


 アスカは、笑みを浮かべながら、首輪のような物を取り出し、なにやら呪文のような言葉を発すると、突然、首輪がヨナンに飛んで行き、ヨナンの首に勝手に装着されてしまう。


「何だこれ?!」


「知らないんですか? 奴隷の首輪ですよ。

 妹さんも付けてますよね」


「ん? 妹はトップバリュー商会が買い取って、奴隷から解放されたんじゃなかったか?」


「ハイ。一度解放したんですけど、どうやらお父様がヨナンさんの妹さんのナナさんを気に入ってしまい、再び、お父様の性〇隷にしちゃったんですよね!

 子供は、締りが良くていいとか、何とか言ってましたわ」


「お前、一体、何言ってんだ?俺の妹をお父様の性〇隷にだと! お父様って、誰の事を言ってやがるんだ! 俺がソイツを殺してやる!」


「あら? 言ってませんでした?私のお父様のトップバリュー男爵の事?

 私、実を言うと、トップバリュー男爵の娘なんですの」


 アスカは、にへら笑いしながら、スカートの端を両手で持ち、まるで貴族令嬢のような挨拶をする。


「嘘付くな! 鑑定でお前を調べた時、トップバリュー男爵の娘じゃなかったぞ!」


「それは、私の持つ隠蔽スキルLv.2の効果ですね。私の持つ隠蔽スキルLv.2を越える鑑定スキルLv.3じゃないと、私の隠蔽スキルは看破できませんから。

 まあ、鑑定スキルLv.3が、この世に存在するかは知りませんけど」


「糞っ!俺を今まで騙してたのかよ!」


「フフフフフ。もっと悔しがりなさい。私は今日この日の為に、アナタのような独り言が多いキショい男と、いやいや一緒にいたんだから!

 ああ。そうそう、戦争でグラスホッパー騎士爵が全滅したのも、私の策略よ!

 というか、戦争自体も、私がトップバリュー商会の財力を使って起こしたの!

 どうしても、大森林と隣接してるグラスホッパー領が欲しかったし、もう、グラスホッパー男爵家の新しい領都も作っちゃったしね!

 しかも、アナタのお陰で、全てタダ!

 本当に、アナタって頼りになるわよね!

 とても、キショいけど」


「……」


 ヨナンは、ブルブル打ち震えて怒りを抑える事が出来ない。


「何? 黙っちゃって? もしかして怒ってるの? 私を殺したい? だけれども、私を殺す事など出来ないわよ!

 だって私は、アナタのご主人様なんですから!

 その奴隷の首輪を付けてる限り、アナタは、私の命令に絶対逆らえないの!

 ほら、私のこの泥が付いて汚い靴を舐めなさい」


 アスカが、足を前に出すと、勝手に体が動き出す。


「ほら、綺麗にペロペロするのよ」


「止めろー!」


 バキッ!


「早く舐めろよ!キショ男!」


 アスカは、ヨナンの顔面を蹴り上げる。


「チキショー」


 絶対に靴なんか舐めたくないのに、勝手に動いてアスカの靴を舐め舐めしてしまう。


「ヨナン君。いい子ね。私がアナタをずっと飼って上げるからね 」


 アスカは、光悦の表情をしてウットリしている。


「殺してやる……グッ……ギャァァァァァァァー!!」


 アスカに殺意を向けた瞬間、首輪が絞めつけられる。


「ヨナン君。本当にアナタは馬鹿な子よね。自分の借金を作る為に、グラスホッパー男爵家の新領都を作って、妹まで、私のお父様に差し出して、そして、義理の家族を死なす原因を作っちゃったんだから。

 多分、アナタが居なかったら、エドソンさんも死ななかったでしょうに」


「ウワァァァァァァァァァァーー!!」


 ヨナンには、エドソンやグラスホッパー領の人々の死、そして実の妹が、自分が原因で性奴隷になってしまった現実を、到底受け止める事などできない。


「アハハハハ! ウケるーー。なんてヨナン君っておマヌケなのかしら? ヨナン君。アナタは、一生、私の為にお金を生み出し続け、私の足の指の間をペロペロして生きるのよ!」


 アスカは、ヨナンを頭を踏みつけ、とても満足そうに高笑いするのだった。

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