第15話 大森林に出来た街

 

「な……なんなの、ここは……」


 大森林のヨナンの家を見たアスカは、口をポッカ~ン!と開けて驚愕する。


 無理もない、現在のヨナンの家は、前よりパワーアップしている。

 何せ、お喋り相手だった鑑定スキルが居ないのだ。

 鑑定を頼んでも、鑑定内容を機械的に表示するだけ。


 あまりに暇を持て余して、ヨナンは、開拓した大森林で街づくりをしていたのである。

 まあ、誰一人住民など居ないのだけど。


「というか、ヨナンさん。ここで一人で生活してるのですか?」


「ん? そうだけど?」


「もしかして、ここの存在、グラスホッパー家の人達は、知らないのでは?」


 ハッキリ言って、グラスホッパー領より、この大森林のヨナンの街の方が、人は居ないが栄えている。

 街は小さいが、この辺りで一番栄えてるトップバリュー男爵領より、建ってる建物は立派だし、街の周辺には、公爵芋が、もう雑草のように生い茂っているのだ。

 そもそも、芋が、土の中を飛びでて、枝に生えてるのが異常。

 どれだけ大森林の土地が、肥沃だという事が分かる現象である。


 そんな凄過ぎる土地に、ヨナンしか住んでいないという事は、いつも窮困しているグラスホッパー家の者達が、このヨナンが住む大森林の家を知らないという事を意味してる。


『これは、早く手を打たないといけないわね……グラスホッパー家の者達に、気付かれるより前に……』


 アスカは、想像以上に凄過ぎたヨナンの所有物全てを、自分の物にする為の方法を、猛スピードで画策する。

 勿論、アスカはヨナンと結婚するつもりなど、更々ない。

 だって、アスカが結婚するのは、1年後にカララム王国学園で出会う、攻略対象の王子様達なのだから。


「あの。提案なんですけど……ヨナンさん。トップバリュー男爵家の養子になってみませんか?

 実は、トップバリュー男爵様が、前々から、ヨナンさんの事を高く評価してたのです。

 知っての通り、トップバリュー男爵家には、男子の跡継ぎが居ません。

 それで、現在、公爵芋と寄木細工のカラクリ箱で、トップバリュー商会に莫大な利益を与えてくれているヨナンさんに白羽の矢が立ったのです!」


「えっ? そうなの?!」


 ヨナンは、突然の事に、ビックリ仰天する。


「そうなんです! なので、ヨナンさんの妹さんのナナさんを見付けると、トップバリュー男爵の号令で、幾らでも出しても構わなから、大恩のあるヨナンさんの妹さんを救い出せ! と、大商会のトップバリュー商会でも無理がある4兆マーブルを捻出し、ナナさんをトップバリュー商会の手元に置くことに成功したんです!

 多分、あの時を逃せば、もう一生、ヨナンさんは、ナナさんを取り戻せなかったと思いますし!」


 アスカは、ここぞとばかりに熱く語る。

 完全に捏造なのだけど。


「トップバリュー男爵は、そんなにも俺の事を期待してくれていたのかよ……」


 だけれども、単純で人の良いヨナンには、グサリと、胸に刺さってしまう。

 ここで、鑑定スキルが居てくれたら、違う結果になってたかもしれないけど。


「そうです! ですので、トップバリュー男爵の養子になってしまいましょう!

 もう、ヨナンさんは、グラスホッパー家を出て、独立してるんですよね!」


「まあ、最近、結構稼いでたから、1週間前に家を出るとは言ったけど……だけど、エドソンが15歳になるまでは、グラスホッパー家の人間でいろって五月蝿いんだよな……グラスホッパー家の人間なら、トップバリュー家の領都に入る時、貴族特権でタダになるとか言われて……」


「という事は、まだ、ヨナンさんはグラスホッパー家の人間だと……」


「一応、そういう事になるな……まあ、実家からは出て、今はここで1人で暮らしてるんだけどな……」


「待って下さいね。今、考えます。というか、トップバリューの領都にタダで入れる特権なら、簡単に渡せますよ!

 何せ、ヨナンさんは、トップバリュー商会の一番のお得意様だし、ビジネスパートナーなので、当然の権利です。

 そして、次は、グラスホッパー家の件ですね。

 それは、トップバリュー男爵家の養子になれば、全て解決出来るんじゃないですか?

 多分、エドソン様は、ヨナンさんに貴族としての後ろ盾がないと、トップバリュー商会と対等に商売する上で、マイナスになると考えていらっしゃるのではないですか?」


「そうかな……。多分、俺の死んだ本当の親父に、俺の事を託されたから、それを愚直に守ってるだけの気がするけど……」


「えっ? そうなんですか……」


「俺は、そう思うけど。だから、俺が成人する15歳になるまで、テコでも、グラスホッパー家の人間であり続けろと言うだろうな。まあ、15歳過ぎたら、「トップバリュー男爵家でも何処にでも行きやがれ!」とか、言うと思うけど」


 ヨナンは、エドソンの考えていそうな考えを語る。


「でも、絶対に、ヨナンさんは、グラスホッパー家に居るより、トップバリュー男爵家に養子にいった方が得ですよね?」


 アスカは、エドソンの考えを置いといて、ヨナンの気持ちを確認する。


「これは、損得の問題じゃないんだよ。俺は、エドソンに本当に世話になったし、今、生きてるのだってエドソンのお陰だと思ってる。まあ、奥さんのエリザベスは少々性格に難は有るけど、だがしかし、俺に家から出て行けとは絶対に言わない。

 エドソンが、絶対に、俺をグラスホッパー家から出さないと知ってるだけかもしれないけど……。

 兎に角、俺は、成人するまでは、エドソンの指示に従うつもりだよ。

 だって、エドソンは、俺が最も信頼し得る大事な父親だからな!」


「そ……そうなんですね……」


 ここまでハッキリ言われてしまうと、これは、正攻法では絶対にヨナンを落とせないと考え直すアスカであった。

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