第14話 アスカの画策

 

 無事、公爵芋と、寄木細工のカラクリ箱を売ったヨナンの心は晴れない。


 何故なら、鑑定スキルとケンカをしてしまったからだ。


 ヨナンにとって、鑑定スキルは、初めての友達でお喋り相手だった。

 エドソンとは、結構、話したりしてたのだけど、遠慮してしか話せない。

 だけど、鑑定スキルにだけは、何でも言いたい事が言える間柄だったのだ。


 家に帰り、アスカに見繕ってもらった高級なお酒をエドソンにお土産としてあげても、エドソンが泣いて喜んでくれても、心はそぞろ。

 ヨナンの心には、なんだかポッカリと、大きな穴が空いてしまっている。


 ただ毎日、トップバリュー商会に通い、公爵芋を決まったように1000個売り、寄木細工のカラクリ箱を100個売る。


 そんな毎日が、1ヶ月ほど経過したある日。ヨナンの担当のアスカが、突拍子もなく、ヨナンの生き別れて奴隷商に売られてしまった妹の話をしだしたのだ。


「ヨナンさん。ヨナンさんには妹がいますよね?」


「ん?いるぞ。シスの事か?」


「違います。ナナさんの話です」


「えっ! ナナって、あのナナの事を言ってるのか?」


「はい。ヨナンさんと生き別れになってしまった妹さんのナナさんの事を言っています」


「何で、突然、ナナの話をするんだ?」


「あのですね。ヨナンさん。落ち着いて聞いて下さいよ。

 ナナさんは、今、うちの商会で保護しています!」


「何だって! 何で、ナナが、トップバリュー商会で保護されてんだよ!」


 ヨナンは、突然のアスカの言葉に、気が動転する。


「あのですね。最近、ヨナンさんが生産してる公爵芋と、寄木細工のカラクリ箱が有名になってきまして、多分ですけど、ナナさんを所有してたある貴族が、ナナさんを餌にヨナンさんからお金をせしめようとして、うちの商会に接触してきたんです」


「そうなのか?」


「はい。そしてですね、うちの商会にナナさんの買取りを求めて来たのです。

 それも、法外な金額を要求して来まして……」


「お金なら、幾らでも払うから、頼むからナナを取り返してくれ!」


 ヨナンは、必死にアスカに頼む。


「はい。そう言うと思って、先程、言ったようにナナさんを、うちの商会が買い取り致しました」


「だったら、早く会わせてくれよ!」


「ですけど、それが有り得いぐらい法外な金額で、うちとしてもヨナンさんと円滑に取引を続けたいので、無理をして払ったのです」


 アスカは、何故か、勿体ぶっている。


「幾らだったんだ? 幾らでも、一生掛かっても、頑張って払うから!」


「ヨナンさんなら、そう言うと思ってました。ナナさんの買い取り金額は、本当に、申し訳ございませんが、5兆マーブルとなります」


 アスカは、申し訳なさそうに話す。


「5兆だと! そんなお金、俺が死ぬまで働いても、返せないんじゃないのか……」


「あっ! ヨナンさん。心配しないで下さい。お金は分割でいいですので!」


「そうか。それなら良かった……あっ! でも、アレは、もしかしたら……」


 ヨナンは、話してるうちに、昔、セメントを作った時に掘り当てた宝石の事を思いだす。


「どうしましたか?」


「俺、もしかしたら、5兆マーブル、すぐ払えるかもしれん……」


「ですよね!5兆マーブルなんて、すぐには払えないですからね! ですから分割で、オッケーって?えっ!? 5兆マーブル払えちゃうんですか!

 ヨナンさんが、一生、安納芋と、寄木細工のカラクリ箱を売っても、簡単には稼げない筈の金額ですけど!?」


 アスカは有り得ないと驚愕する。だって、ヨナンでは、絶対払えない金額を設定して吹っかけたのだ。

 実際は、トップバリュー商会が、ナナを買い取るのに使ったお金は、たったの200万マーブルなのに。


「多分、大丈夫だと思う。まあ、トップバリュー商会が買い取り出来たらだけどな?」


「買い取り? ちょっと、ヨナンさん。貴方は一体、何を持ってるんですか?!」


 ヨナンは、アスカが余りに興奮気味に聞いてくるので、穴を掘った時に見つけた宝石を、3粒だけ取り出し、アスカに渡す。


「えっ!? コレは?」


「ああ。今、俺が住んでる庭を掘ったら出て来た」


 ヨナンは、サラッと答える。


「何ですって! そこは、まさか、不毛の地と呼ばれてるグラスホッパー領ですか?」


「えっ? 大森林だけど?」


「 大森林って、もしかして帰らずの森の事を言ってます?」


「ああ。最近、俺、家を出て大森林に住んでるんだ。結構、お金も貯まって、馬と荷馬車も買えたし!」


「えっ……グラスホッパーの家を出てる?」


「というか?コレで、ナナの買い取り大丈夫だったか?足りなかったら、まだ何個か有るけど?」


「えっ!? まだ、持ってるんですか?」


「合計30個ぐらいは、あるかな?」


 アスカは、ビックリし過ぎて気を失いそうになる。


 ヨナンが逃げないようにと、ナナを餌にして、ヨナンに首輪を付けようとしたのに、まさか藪をつついて蛇が出た感じと言えば、分かって貰えるだろうか。

 やぶ蛇ならぬ、棚から牡丹餅とはこの事を言うのだろう。


 アスカは、よろけたついでに、ヨナンの手をしっかりと握る。


「今すぐ、ヨナンさんが住んでるという家に行きましょう!」


「ナナの買い取りの件は?」


「ええと? 取り敢えず、この3粒の宝石で大丈夫ですよ!」


 アスカは、本当は1粒で十分なのに、ついでに3粒せしめる。


「ナナとは、今すぐ会えないのか?」


「今日は無理ですね! 保護したばかりですから、色々、女の子にはヤル事があるんです!」


「そうなのか?」


「そうです! それより、今は、ヨナンさんが住んでるという、家の方が重要ですので!」


「てか、何で俺の家が重要なんだ?」


「それは、その家が、私達の家になるからです!」


「えっ? 私達の家って、俺の家なんだけど?」


「ヨナンさん。私達、結婚を前提に婚約しましょう!」


 突然、アスカは変になってしまったのか、おかしな事を言ってくる。


「えっ? 本当に、アスカさん、何、言ってんの?」


「だから、私達は、婚約するんです!」


 アスカは、今まで、キショいヨナンには温存していた、魅了スキルを最大出力で使う。


「うん! 俺達、婚約しよう!」


 どうやら、ヨナンに、魅了スキルがバッチリ効いたようである。


「そしたら、すぐに私達の新居に行きましょうね!」

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