第13話 男爵令嬢アスカ・トップバリュー

 

 トップバリュー男爵家の庶子の少女アスカが、トップバリュー男爵家に呼び戻されたのは3歳の時だった。

 まあ、よくある話で、トップバリュー男爵と本妻の間に子供が生まれなかった為。


 アスカの生みの親の母親が病死するのと同時に、アスカは、見計らったようにトップバリュー家に引き取られたのだ。


 そして、お約束通り、本妻の継母に虐めに会うのが定番なのだが、アスカの場合、それが起こらなかった。


 何故なら、アスカは、生まれながらにして、ユニークスキル『魅了』を持ってたから。


 魅了スキルが働いていたお陰か、アスカは、トップバリュー男爵家に引き取られてから何不自由なく育つ。


 それからアスカが覚醒するのは、アスカが4歳になった誕生日。アスカは、自分が日本からの異世界転生者だと思い出したのだ。


 そんでもって、アスカがこの世界に転生する時に、女神ナルナーに与えられたユニークスキルは2つ。


 自分が、気づかないうちに使っていた魅了スキルと、隠蔽スキルLv.2。


 そして、アスカは転生者と気付くと同時に、この世界が、アスカが日本時代にやっていた人気乙女ゲームの世界だと気付いたのであった。


 アスカは、その人気乙女ゲームの主人公で、貴族の中では身分が低い男爵家の少女。

 ゲームの内容は、アスカが攻略対象である身分の高い、貴族や王子を自分のモノにして、ハッピーエンドとなる話。


 その事に気付いてからというもの、アスカは乙女ゲームの主人公の名に恥じぬように、切磋琢磨、自分磨きに勤しんだのである。


 そして10歳になると、隠蔽スキルLv.2を使って、身分を偽り、トップバリュー商会の鑑定員を始めるようになる。全ては、自分自身を鍛える為に。


 そんな乙女ゲームの主人公に有るまじき野望を秘めたアスカの前に、ちょっと変わった少年が、トップバリュー商会に商談に現れたのは、アスカが、王立カララム学園に入学する予定の14歳になる1年前の13歳の時。


 その少年は、前触れもなく、突然訪れたのだ。


 その日、いつものように買い取りの鑑定をしてると、隣の領地であるグラスホッパー騎士爵家の子息が、トップバリュー商会に、男爵芋と、寄木細工のカラクリ箱を売りに来たと連絡が入ったのだ。

 アスカ的には、トップバリュー男爵家の周辺領地の貴族とのツテを作る事はやぶさかではない。


 例え、貴族の中で一番身分が低い騎士爵家であっても。

 それにグラスホッパーの名前は、聞き覚えがある家柄だった。先の大戦で大変手柄を立て貴族の取り立てられたと、風の噂で聞いていたのだ。

 それが、自分の隣の領地だとは、全く気付かなかったのだけど。


 何せ、隣の領地は、国民が忌み嫌う『帰らずの森』に隣接する領地だし、土地が痩せて男爵芋しか育たないと言われる不毛な領地。

 カララム王国も、誰かが戦争で功績を上げる度に、その呪われた領地を恩賞として与えるのだけど、どの領主も3年以内に、国に払う税金を納められなくなり、お取り潰しになってしまうのだ。


 そんな事もあり、トップバリュー男爵家の隣の領主など、誰も覚える気などないのであった。


「確か、グラスホッパー家の領主は、剣術スキルを持ってたわね。それなら、例え税金が納められなくても、戦争になればまた、活躍する筈なので、爵位を取り上げられる事はないわね……。

 分かったわ! そのグラスホッパー家の子息の対応は、私が直々に相手をしましょう!」


 そして、隠蔽スキルLv.2を使って、本当の身分を隠し、グラスホッパー家四男ヨナン・グラスホッパーに対応にあたった、アスカは度肝を抜かれるのだ。


 まずは、やたらに独り言が多い。しかも、声が大きい。どう考えても、独り言の域を越えていて、誰かに話し掛けているようである。


 まあ、そんな事もあり第一印象は最悪。

 ことも有ろうか、トップバリュー男爵家の次期当主である自分に向かって、「子供が物の価値が分かるのか?」とか、生意気な事を言ってきたのである。

 自分だって、大声で独り言を言う、キショい奴だというのに。


 だけれども、そのキショい子供は、普通ではなかった。

 何故なら、地球の日本原産の安納芋を持ち込んで来たのである。しかも、1000個も。


 アスカは、完全に面を食らった。何故なら、この世界にはジャガイモはあっても、さつまいもなどない。

 しかも、日本でも甘くて、ねっとりして、美味しいと評判だった安納芋。

 実際、アスカがこの世界に転生する前、日本でも大好きだった、さつまいもの品種である。


『これは絶対に売れる!』


 ヨナンは、独り言ばかり言うキショい男の子だけど、商売の為ならアスカはヘッチャラで媚びを売れる少女なのである。

 アスカの目標は、自分がカララム王国学園に入学する前までに、トップバリュー商会をこの国一番の商会まで、押し上げる事。それが、乙女ゲームの舞台であるカララム王国学園で暗躍する為に、必要な武器になると思っていたからだ。


 実際の乙女ゲームの中でのアスカの立ち位置は、金の力で男爵になった庶子の娘。

 しかも、その男爵の商会は、黒い噂のある新進気鋭の全国でも5番手ぐらいにつけるショボイ商会だったのだ。


 しかしながら、完璧を求めるアスカはそれを許さない。

 日本の知識をふんだんに使いまくり、トップバリュー商会を、現在、カララム王国で一位の商会まで押し上げたのである。


 そんなアスカにとって、安納芋の独占販売は、千載一遇の大チャンス。

 まだまだ知名度がイマイチのトップバリュー商会を、安納芋の販売で一躍有名にしようと画策したのである。


 とか、思っていたのだが、ヨナン・グラスホッパーの凄さはそれだけではなかった。


 有り得ないほど、複雑で精巧な寄木細工のカラクリ箱まで、自身が持つ大工スキルで作ってきたのである。


 これは、売れる! しかも、トップバリュー商会史上、最大のヒットは間違いない!

 しかも、王侯貴族がこぞって欲しがると思うので、強固な貴族とのコネが出来る。


 ここまで来ると、アスカは、絶対にヨナンを逃がす事は出来なくなってくる。


 ヨナン・グラスホッパーについて、トップバリュー商会の全情報網を持っで調べあげ、あの手この手の搦め手で、ヨナンを絶対に逃がさないように画策したのだ。


 そして、その画策した一手の一つが、奴隷商に売られてしまったというヨナンの本物の妹を見つけ出し、それを餌に、ヨナンを完全にコントロールする事であったのだった。

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