第12話 別れ

 

 次の日、早速、大森林の御屋敷の周りに溢れる男爵芋改め、公爵芋の収穫を行う。


「やっぱり、無制限に入る魔法の鞄買って良かっただろ!

 じゃなければ、これだけの公爵芋を収穫しても、保管する所が無かったぞ!」


『ですね!』


 相棒の鑑定スキルが、返事を返す。


「じゃあ、折角、全ての公爵芋を収穫したから、100個ぐらい焼き芋にして、魔法の鞄の中に保存しとくか! そしたら、何時でもホカホカの焼き芋が食べれちゃうぞ!」


『賛成です!』


 ヨナンは、早速、焼き芋を焼く。その間、手持ち無沙汰なので、寄木細工のカラクリ箱を量産する。


『ご主人様、焼き芋が焼けてきたみたいですよ!』


「俺も、丁度、カラクリ箱を100個作り終わったとこだ!」


『早っ!』


「えっ? 早いか?俺の木工スキルなら、こんなもんだろ!」


『ですね!』


 ヨナンは、とっとと昨日買ったばかりの魔法の鞄に、熱々の焼き芋を収納していく。


「というか、もう、今日やろうと思ってた事が終わっちゃったな……まだ、朝の8時30分なのに……」


『そしたら、今日も、トップバリューの領都に、品物を売りに行けばいいんじゃないですか?

 公爵芋も全て収穫したし、寄木細工のカラクリ箱も100個製作しましたから、十分売り物はありますし!』


「そうだな! 早く、エドソンに高い酒飲ましてやりたいし、早速、荷馬車借りてトップバリューの領都に行くか!」


 そんな軽い感じで、早速、エドソンから馬と荷馬車を借りて、2日連チャンで、トップバリューの領都に向かったのだった。


 なんか、エリザベスに小言でも言われるかと思ったが、レンタル料の1万マーブル渡したら、喜んで送り出してくれた。

 まあ、安い男爵芋しか取れないグラスホッパー家は、慢性的に金欠なので、1万マーブル手に入るのが、とても嬉しかったのかもしれない。


 ーーー


 4時間後、トップバリュー商会に着くと、前回同様に、業者用の裏手の入口から入り、俺達の担当であるアスカを呼びだして貰う。


「ヨナン様、昨日に引き続き、何か御用ですか?」


 アスカは、営業スマイルを絶やさず、ヨナンに話し掛けてくる。


「ああ。今日も商品を持ってきたんだけど、買い取ってくれるか?」


「えっ! 勿論ですけど、昨日の今日で売る商品が有るのですか?」


「勿論!」


 ヨナンは、トップバリュー領に来る道すがら、鑑定スキルと打ち合わせたように、公爵芋を、昨日と同様1000個取り出す。


「えっ! 昨日納品したばかりなのに、今日も1000個も……」


「ああ。少なかったか?」


「いえいえ、少なくなど有りません!

 昨日、少しだけ、トップバリュー領で売り出してみたんですが、飛ぶように売れましたので!

 残りは、王都に発送してしまいましたが、間違いなく、すぐに次の注文が入ってくると思いますので、コチラとしても助かります!」


「なら、良かった!それと、コイツも買い取ってくれるか?」


 ヨナンは、引き続き、寄木細工のカラクリ箱を取り出す。


「えっ! また、100個も有るんですか……」


「ああ。作り置きしてた在庫があったんだ!

 昨日、あんなに売れると思ってなかったから、残りも持ってきたんだけど、ダメだったか?」


「とんでごさいません! 昨日、試しにトップバリュー領で売り出してみましたが、10個全て一瞬で売れてしまったので、王都で売る予定だった、カラクリ箱が無くなってしまってたんですよね! 今日も引き続き納品してくれるなら、こんなに有り難い事など、他にありませんよ!」


 なんか、よく分からないが、アスカがとても喜んでくれる。


「あの、それで、親父に美味しいお酒をお土産に買ってくると約束しちゃったんで、何かトップバリュー商会にある高いお酒を見繕ってくれると有り難いんだが……」


「そんな事なら、任せて下さい! なんたって、トップバリュー商会は、この国で一番の大商会ですから、とても良いお酒もたくさん取り揃えておりますからね!」


 なんか、アスカの目がイキイキと光り輝いている。


『ご主人様、いいんですか? 値段指定しないで高いお酒が欲しいとか言っちゃって? きっと、あの女、店にある一番高いお酒を持ってきますよ』


「いいんだよ。エドソンに、ここまで育てて貰って、たくさん世話にもなってんだから! どうせなら、エドソンが飲んだ事もないような、高級な酒を、一度くらい飲ませてやりたいだろ!」


『ご主人様は、どんだけお人好しなんですか!』


「俺の金なんだから、別にやりたいように使ってもいいだろ! どうせ、これから沢山稼げるんだから!」


「あの……私。これから倉庫に行って、お酒を見繕ってきますね……」


 ヨナンが、ヤバい独り言を言ってるのに、気を使ってか、そそくさとアスカはその場から離れて行く。


『何で、ご主人様は、いつも声を出して独り言を喋っちゃうんですか』


 鑑定スキルが、呆れた声で小言を言ってくる。


「そんなの、お前が喋り掛けてくるからだろ!」


『ご主人様はフンフンと、心の中で僕の話を黙って聞いて、そういう考え方もあるだなと思ってるだけでいいんですよ!』


「そんなの会話として、おかしいだろ!」


『独り言を、大声で喋ってるご主人様の方がおかしいですから!』


「お前、言ったな! スキルの癖に!」


『僕は、スキルでも自我があって、心もあるんです!

 僕は、大好きなご主人様が、独り言ばかり言う変人だと、誰にも思われたくないんです!』


「お前、まさか……俺の事を思って言ってくれてたのかよ?」


 ヨナンは少しだけ、ジーンとしてしまう。


『僕は、ご主人様のスキルだから当然ですよ!

 僕だけが、ご主人様の為になる事だけを考えて行動してるんです。その事を努努忘れないで下さいね』


「悪かったな……」


『分かってくれればいいです』


 ーーー


 ヨナンと鑑定スキルが、丁度、分かりあった所で、アスカが高級そうなお酒を持って戻ってきた。


「あの……失礼だと思いますけど、ヨナンさんの為だと思って、一応、話だけでも聞いて下さいね。その……本当に、私は何とも思ってないんですけど、他の従業員が、ヨナンさんの独り言が、少し怖いと言ってるみたいなんです。

 本当に、私が思ってる訳ではなく、私以外の従業員が噂話をしてるのを、さっき、倉庫で、たまたま聞いちゃったんですよね……」


 黙って聞いていた鑑定スキルが、突然、反論し出す。


『ご主人様。この女、絶対にご主人様の独り言が、キショいと思ってるのに、他の従業員のせいにしてますよ!』


 今回の鑑定スキルの言葉に、ヨナンは全く反応する事が出来ない。

 何故なら、初めて自分の独り言を、面と向かって他人にキショいと言われてしまったのだ。


 まあ、怖いと言われただけで、キショいと言ったのは、鑑定スキルなのだけど。


 それを置いといても、ヨナンは想像以上に、生まれて初めての赤の他人からの陰口に、ショックを受けてしまっている。

 なんやかんや言っても、グラスホッパー家では、何があってもヨナンの味方をしてくれるエドソンが居たので、エリザベスの嫌がらせも耐えられたのだ。


「あの、本当に気にしないで下さいね。

 私は、ヨナンさんの事をキショいなんて、一切思っていませんから!

 私だけが、ヨナンさんの味方だと思って下さい!」


 鑑定員の女の子が、続けざまに、ヨナンにトドメを指す。


『ご主人様! やっぱりこの女、ご主人様の事をキショいと思ってたんですよ!

 何が、私だけが、ヨナンさんの味方だよ!

 どう考えても、この女が、一番、ご主人様を利用してるじゃないか!』


 鑑定スキルは、怒り心頭である。

 鑑定スキルは、嘘が言えない設定なのだ。

 その為に、嘘を見破るセンサーも完備している。その嘘つきセンサーに、アスカが吐く嘘がビンビン反応しているのだ。


「ちょっと、黙ってろよ……鑑定スキル。

 アスカさんは、独り言を言う俺の事をキショいと言ってるんだよ。だから暫くの間、俺に喋りかけないで、俺に言われた事だけの情報を教えてくれるだけでいいから……」


『ご主人様……その女と、僕の事、どっちを信用してるんですか?』


 鑑定スキルは、ヨナンが騙されてる事に我慢出来ずに、必死にヨナンに訴えかける。


「そんなの人間である、アスカさんに決まってるだろ」


 しかし、返ってきたのは悲しすぎる言葉。


『ご主人様……僕は……ただ……』


「だから、黙ってろって!」


『ウッ……分かりました。だけど、僕だけが、どんな時でもご主人様の味方だという事だけは、忘れないで下さい。

 必ず、ご主人様のピンチの時には、僕の命に掛えても、必ずご主人様を助けますからね』


 鑑定スキルは、泣きたい気持ちを抑えながらも、ヨナンに言っておきたい事だけは、最後に伝えておく。


 だけれども、


「……」


 鑑定スキルの言葉に、ヨナンは黙ったままだった。


 ーーー


「あの……それで高級なお酒のお値段なんですが、キッカリ58万マーブルでして……今回の買取りした代金から、無制限に入る魔法の鞄の残りの代金と、高級なお酒の金額を差し引いて、丁度、1万マーブルのお釣りになりますね!」


 どうやら、今回も前回と同じく、ヨナンの手元に1万マーブルしか残らなかったのは、当然の話だった。

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