第6話 男爵芋

 

 ヨナンは、エドソンと廊下で話した道すがら、ふと、男爵芋を大森林で育ててみようと思った事を思い出す。


「確か、大森林の腐葉土は栄養満点とか言ってたな、というか、腐葉土って何だろうな?」


『腐葉土とは、落ち葉が年月を掛けて積み重なって、栄養満点の土になったものですね』


 ヨナンの独り言に、鑑定スキルが勝手に答えてくれる。

 最早、鑑定しようとも思ってもないのに答えてくれるので、完全に物知りなお喋り相手である。

 まあ、知らない人が今のヨナンを見たら、ずっと独り言を喋ってる相当ヤバい人だけど。


「じゃあ、食料庫で芽が出てる男爵芋を、何個か取りに行くか!」


『それがいいです! きっと、美味しい男爵芋が育つと思いますよ』


「だな!」


 てな感じで、鑑定スキルとわちゃわちゃ話しているのを、廊下の片隅から覗き見してる2つの影があった事を、ヨナンは全く気付いていない。


「ヨナン兄ちゃん……いつも1人っきりで、とうとうおかしくなっちゃったよ……」


「しょうがないよ……お兄ちゃんと話すと、お母さんが、とっても怒るんだもの」


 覗き見してたのは、ヨナンの義理の弟と妹のコナンとシス。

 年下の弟妹は、ヨナンの事を嫌ってはいない。

 ただ、母親のエリザベスが、「ヨナンと、お話しちゃいけません!」と言うから話さないだけで、何故かいつも畑で芋堀りばかりしてるヨナンに、どんだけ男爵芋が好きなんだろう?と、少しだけ興味が湧いていたのだ。


 そんな小さな観察者が居た事にも気付かずに、ヨナンは不用心にも、まるで誰かと会話してるみたいに、独り言?を話していたのだった。


 ーー-


 次の日。


『たった2個だけなんですね……』


 鑑定スキルが、テンション低めに話し掛けてくる。

 というか、鑑定頼んでないのに、最早、友達感覚で話し掛けてくる。


「仕方が無いだろ! 芽が出て食べれなくなった男爵芋でも、家の備蓄がなくなるとエリザベスに怒られるんだから!

 俺は本来、自分で食べる分は自分で芋堀りしなきゃならんのだからな!」


 ヨナンは、鑑定スキルの戯言なのに、必死になって言い訳をする。


『でも実際、ご主人様が収穫した男爵芋ですよね?』


「俺が収穫した男爵芋でも、畑はグラスホッパー家の畑なんだよ!」


『ご主人様も、グラスホッパー家の子供ですよね?』


「しょうがないだろ! 俺は養子なんだから!空気を読んで、わきまえて行動しないと、エリザベスにネチネチ嫌味を言われるんだよ!」


『世知辛いですね……』


「世の中って、そんなもんだよ。だけど、芋が2つだけでも、こうやって切り刻めばたくさん植えれるんだよ」


 ヨナンは、どうだとばかりに、果物ナイフで、男爵芋を切り刻む。


『そんなに、細かく刻んで大丈夫なんですか?』


「お前、鑑定スキルなのに何も知らないんだな。男爵芋ってのは、生命力が凄いんだよ!

 こんだけ細かく切り分けても、きっと育つと思う……」


『育つと思う……って、ご主人様、やった事ないんですか?』


「4等分にしか、切った事ないな……」


 ヨナンは正直に答える。だって、最近、有り得ない事ばかり起こるから。

 まあ、これくらいなんとかなるかもと、思ってしまったのである。


『ご主人様、これ、20等分に切り刻んでますよ』


「だって、たくさん食べたいだろ?種芋2つで合計40等分、大体、一株で8個ぐらい取れるから、360個も男爵芋が取れちゃうぞ!」


『たった2つの種芋から、360個の男爵芋が取れる訳ないでしょ! 常識考えて下さいよ!』


 鑑定スキルが、鑑定スキルの癖に、激しく突っ込む。

 もはや、鑑定スキルにあるまじき、突っ込みスキルである。


「だって、お前が大森林の腐葉土が栄養満点だと言ったんだぞ?お前が言ったから、欲張って20等分しちゃったんじゃないかよ!」


『確かに言いましたが、僕は鑑定スキルのデータベースに入ってる情報を教えただけで、どんだけ男爵芋が育つかまでは分からないですから!』


「お前って、結構、融通効かないんだな……」


『ご主人様、どんだけ僕の事を優秀と思ってるんですか!

 僕は、何度もいいますが、自分のデータベースに入ってる事しか、分かんないですからね!』


「まあ、取り敢えず、植えてみるわ。360個収穫出来たらラッキーだし」


 ヨナンは、鑑定スキルの言葉をスルーして、話を進める。


『ですね。こんだけ切り刻んだら、スープに入れたとしても、原型とどめずドロドロに溶けちゃいますし、種芋にするしか有りません』


「だな」


 とか、言ってたのが、3日前。


「これは、どうなってんだ……」


『木を伐採した、御屋敷がある敷地外が、全て男爵芋で埋まってますね……』


「というか、男爵芋って、畑から溢れ出てくるものなのか?」


『普通、芋は土の中に埋まってるものですね……』


 ヨナンと鑑定スキルが目のあたりにした光景は、男爵芋が何十万個も、木を伐採した空き地一面に、地面の上に溢れかえっている光景であったのだ。


「というか、こんなに食べきれないよな……」


『売るか何かしたほうがいいですね……』


「だな……」


『というか、その前に食べてみません?』


「男爵芋なんて、食べてもしょうがないだろ?毎日食べてるし、どうせパサパサだろ?」


『僕のデータベースの情報では、大森林で育った食物は栄養満点だと言ってましたよ。見た目も少し変わってるみたいですし』


「栄養満点でも、味は変わらんだろ?」


『食べてみないと分からないですって!』


「お前は、鑑定スキルだから味なんか分からんだろ?」


『ご主人様が食べればわかります!』


「そんなもんなのか?」


『そんなもんです』


 てな訳で、ヨナンは手っ取り早く、芋を焚き火で焼いてみた。


『美味しそうですね』


「そうか?見た目はいつもの男爵芋だけどな……」


『早く食べてみて下さいよ!』


「そう、急かすなって、メッチャ熱いんだから!」


 ヨナンは、皮を剥き、フーフーしながら一口頬張る。


「なんじゃこりゃー!! メッチャ甘いじゃないか~い!」


『本当に、凄く甘いですね! これは安納芋に匹敵する甘さですよ!』


「何?安納芋って?」


 鑑定スキルが、またよく分からん知識をひけらかしてきた。


『知りません。僕の鑑定スキルのデータベースに入ってた情報ですけど、詳しい事まで書かれてないんで』


「お前のデータベースって、本当、大概だよな」


『酷いです! 大森林の情報は、凄かったじゃないですか!』


「まあ、それは認めるけど、それよりこの男爵芋、隣町に持っていけば高く売れるんじゃないか?」


『絶対に売れます! というか売るべきです!

 ご主人様が、グラスホッパー家から独立するにも資金は必要ですから!』


「だよな。じゃあ、隣町まで売りに行くか!」


『駄目です! 隣町じゃ、このとても甘い男爵芋の価値が分からなくて買い叩かれてしまいますよ!』


「じゃあ、どうすればいいんだよ?」


『隣の男爵領の領都で売りましょう!』


「男爵領の領都って、歩いて丸1日以上かかるじゃねーかよ」


『ですが、領都じゃないと、この男爵芋の価値が分かる人なんていませんよ?』


「だけれども、ずた袋に満杯に入れて丸1日も歩いたら、体がボロボロになっちゃうだろうがよ!」


『そこは、エドソンさんに、荷馬車と馬を借りたらいいんじゃないですか?』


「お前、借りれると思うのかよ?

 俺って、1人だけで隣町に行った事もない、最近13歳になったばかりのいたいけな子供なんだぞ」


「そこは、大工スキルで作った物を街で売ってみたいと言えばなんとかなるんじゃないですか?

 エドソンさんが大工道具を買ってくれた訳ですから。きっと喜んで貸してくれますよ!」


 鑑定スキルが、自信満々に言い切る。


『俺が作ったのって、そこの豪邸だけだぞ?』


 ヨナンは、無駄に立派な御屋敷を見やる。


『そしたら、適当な物でも作ればいいじゃないですか?きっとご主人様の大工スキルなら、物凄いものが作れちゃう筈ですから!』


「熊の置物とか?」


『何ですか?それ? 何で熊の置物が出てくるんですか? もっと男爵領の領都で高く売れそうな物ですよ!』


「木工と言ったら、熊の置物じゃないのか?」


『それは、どこの知識ですか!』


「さあ?なんとなく。頭に浮かんだんだけど」

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