第7話 熊の置物

 

 早速、ヨナンは、熊の置物を作ってみる。


「どうよ! これ! いかにも熊の置物だろ!」


『何で、熊が魚を咥えてるんですか?』


「それが、様式美ってもんだろ!」


 ヨナンは、自信満々に言い放つ。


『だから、それはどこの情報なんですか?』


「う~ん……分からん……」


 鑑定スキルに、指摘されるが、ヨナンは何故、熊に魚を咥えさせたのか全く分からない。

 ただ、ヨナン的に、熊といったら鮭?なのだ。


『取り敢えず、その熊の置物は却下です。男爵領の領都で、到底売れるとは思えません。もっと、煌びやかで豪華な木工は出来ないんですか?』


「う~ん。宝石箱とか?」


『そう! それですよ!男爵領の領都は、商売の街なんです!

 なんたって、領主のトップバリュー男爵は、商売で成り上がって、金で爵位を買った成金男爵なんですから!

 高級品も、普通に売れちゃうんです!

 グラスホッパー領や、隣町の貧乏な村とは違うんですよ!』


 鑑定スキルが、力説する。

 暗に、グラスホッパー領をディスってる気がするが、トップバリュー男爵領の領都が栄えてるのは事実。この辺の貴族の中では、地位が高いカナワン伯爵家の領都より、トップバリュー男爵の領都の方が栄えているのだ。


「よし! 出来たぞ! コイツなら売れるだろ!」


 ヨナンは、喋りながらも手を動かし作っていた宝石箱を、自信満々に鑑定スキルに見せてやる。

 というか、鑑定スキルはただのスキルなので、ヨナンが完成した宝石箱をマジマジ見るだけなのだけど。


『ご主人様! 何考えてるんですか! こんな宝石箱駄目ですよ! 宝石箱は、宝石を入れる為の箱だというのに、何、メッチャ高価な宝石を散りばめちゃってるんですか!

 中に入れる宝石より、宝石箱の装飾の宝石の方が高価って、本末転倒ですよ!

 それに、こんな宝石、王家でも持ってないですからね!

 というか、流石の男爵領でも、この宝石箱は高価過ぎて買取りなんて出来ませんから!』


 ヨナンは、鑑定スキルに長めのダメ出しを受ける。


「難しいな……中途半端な木工を作るのって……。

 というかこの宝石。どうやら穴掘ってた時に掘り当てたらしくて、たくさん持ってるみたいなんだけど、普通の店では売れないのか?」


『絶対に売れませんから! これ1つで国の国家予算の1年分くらいの価値がありますからね!』


 鑑定スキルに、絶対に売れないと念押しされる。

 まあ、国家予算の一年分の宝石が、突然、何百個もゴロゴロ市場に出回ったら、それこそ宝石の価値が暴落してしまうので、絶対に外に出せないのは、ヨナンでも想像がつく。


「これ売って、グラスホッパー家を独立する資金にしようと思ってたんだか、高価過ぎる物って、お金にするの難しいんだな……」


『そうです。世の中需要と供給なんです!この世界に釣り合わないものは、絶対に売っちゃダメなんです!

 ただでさえ、ご主人様の大工スキルは凄過ぎるんですから! 取り敢えず、鉱物とかは使わずに、木だけで売り物を作って下さい!』


「なら、これならどうだ!」


 ヨナンは、その凄過ぎる大工スキルで、既に次の作品を作っていた。


『ん? それはもしかして寄木細工のカラクリ箱じゃないですか?』


「お前、これがカラクリ箱って、分かるのかよ?」


 ヨナンは鑑定スキルに、まさか、木工の箱にカラクリ細工をしてるのを気付かれると思ってなかったので、少し驚いてしまう。


『僕はこう見えても、優秀な鑑定スキルですからね! データベースに入ってる情報は何でも分かるんですよ!』


「そこって、威張る所か? 分かる事しか分かんないと言ってるだけだろ?」


 ヨナンは、呆れながら言う。


『兎に角、そのカラクリ箱はいいですよ!

 まず、その繊細な模様の寄木細工が、高級そうに見えます!

 しかも、寄木をパズルのように動かすと、隠れてる空間が現れる仕組みなんですよね!』


「お前、本当に何でも知ってるんだな。

 兎に角、そうなんだよ!このカラクリ箱は、普通に開けると、ただこの蓋が開くだけだけど、ここをこうして、ここを右に動くし、次は下、そして、ここをこうすると、」


 ガチャ!


『なるほど、隠されてた空間が現れるんですね! コレはお金持ちの貴族とかに売れますよ!寄木の細工も繊細で、見た目も高そうですし、金目のモノを隠すにも持ってこいです!』


「売れるかな?」


『売れます! 確実に売れます! ご主人様、これを量産しましょう!』


「熊の置物は?」


『それは、こんなの作ったとエドソンに見せましょう。これくらいなら、エリザベスさんに目をつけられませんから。

 下手に、良い物を作れる所を見せてしまうと、エリザベスさんに搾取されてしまうかもしれませんしね』


「だな」


 ヨナンは、がめついエリザベスなら、さもあらんと大きく頷いたのだった。

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