第58話 誰でも良かった


 誰かを道連れにしたい。

 俺の頭には、それしかなかった。


 俺の人生は災難の連続だった。

 受験は風邪で行くことが出来ず、滑り止めの高校になってしまった。そこではいじめのターゲットにされて、不登校になり卒業まで待てずに中退した。

 家にひきこもっていたが、両親が事故に遭って死んだ。俺は何も分からないまま、親戚の騙されて遺産を取り上げられた。

 一文無しになって、家も追い出された俺は仕事を探そうとした。しかし今まで引きこもっていた俺が、まともに仕事ができるわけがなく、結局ホームレスとして生きていくしかなかった。

 そこで上手く生きられれば良かったが、弱者の気配を察知したのか、ここでも俺は仲間はずれにされたのだ。グループに入れてもらえず、住処を作ることも出来ず、誰もいない路地に行くしかなかった。

 そして面白半分に、若者になぶり殺された。むしゃくしゃしていたところに、ちょうどいい獲物を見つけた。たまたま俺なだけだった。明確な理由なんてない。

 俺の人生一体なんだったのだろう。生まれた意味があったのか。怒りや恨みが募って、いつの間にか俺は怨霊になった。

 誰かを殺してやりたい。俺と同じように苦しませたい。頭を占めるのは、それだけだった。

 俺は空を飛び、獲物を探した。誰でも良かったが、俺の目に入ってきたのはある若者だった。

 ヒョロりと背が高く、俺を殺した若者に少しだけ似ていた。人生に不安なんて無さそうな、楽しんでいる姿が憎たらしかった。

 あいつにしよう。殺してやる。

 俺は怒りや憎しみを力にして、若者に向かっていった。そいつの顔しか視界に入らず、周りに誰がいようと関係なかった。


 死ね、苦しめ、殺す、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね


 俺の伸ばした手が、残り数センチでそいつに届く。




「うーん、何してるのかな?」

「どうした?」


 良信が突然腕を振り上げたので、聡見はどうしたのかと首を傾げる。周りを見ると、砂がさらさらと舞っている。


「……えーっと、何かあったのか」

「うん」

「まじか。全然気づかなかった」


 警戒心が薄れていると聡見が反省する横で、良信は口角を上げた。


「誰でも良かったなんて……そういうのは嫌いだなー。どんな理由があったとしてもねー」


 その言葉を聞く者は、すでにいなかった。


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