第52話 じゃら
「そんなのおかしいよ」
「へんなの」
家のことを話すと、いつもみんなにそう言われた。優希にはそんなつもりは無いので、どうして変だと言われるのかいつも不思議に思っていた。
何が変なのか誰も教えてくれない。ただ、気味悪そうにする人が多かった。優希にとっての日常を、みんな嫌なものだと判断するのだ。
優希は、どこか納得出来ないが波風を立たせたくなくて反論しなかった。それでも、やはり帰り道はモヤモヤしている。
いつもなら歩いているうちに冷静になって、他人の言うことなんて気にしなければいいと思うのだが、その日はすれ違った人がどこか優希を避けるような素振りを見せたので収まらなかった。
「ただいま!」
怒りに似た感情を持ったまま、家に帰ると勢いよく扉を開ける。いつもより大きな音を立てたせいで、中まで響いたらしい。優希の母親が、心配そうな顔をして出迎えた。
じゃら
「あら、優希ちゃん。おかえりなさい。どうしたの、そんなに怒った顔をして」
じゃら
「……ちょっと嫌なことがあって……」
じゃら
「あらあら、それは大変。お話聞いてあげるから、早く家の中に入りなさい」
「はーい」
じゃら
優しく接してくれる母親に、優希の中で怒りがしぼんでいく。つまらないことで怒っていた自分が恥ずかしくなってきたぐらいだ。
優希は急いで靴を脱ぐと、母親の胸に飛び込む。受け止めてくれた母親の体は柔らかかった。
「優希は甘えん坊さんね」
くすくすと笑いながら、優しく頭を撫でられる。その心地良さに目を細めて、優希はさらに抱きつく力を強める。
じゃら
身動ぎした母親の足から金属音が鳴る。枷に繋がっている鎖が床と擦れたせいだ。
しかし、それは優希にとって聞きなれたものなので気にせず抱きついていた。
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