第48話 守護霊


 どうして、その話題になったのか聡見は覚えていない。もしかしたら、テレビでそんな話題が出ていたのかもしれない。読んでいた本にその言葉があったのかもしれない。

 記憶に残っていて、ふと聞こうと思った。


「なあ、俺に守護霊っているのか?」


 ただの好奇心だった。聡見は見たことが無いので、どうせいないと言われる。そう決めつけていた。


「いるよ」


 しかし予想と反対の答えが返ってきて、驚いて思わず身を乗り出す。


「えっ、いるのか?」


 聡見の反応に、良信はケラケラと笑った。


「なんで驚いてるの。自分で聞いてきたんでしょ」

「そうだけど。まさかいると思ってなくて。え、本当にいる?」


 自分の周りを確認するが、全く何も見えない。担がれている可能性はあると、聡見は疑いの目を向けた。

 それにもし守護霊がいるとしたら、もっと自分を守ってくれてもいいはずだ。そういう意味でも、存在が疑わしかった。


「嘘じゃないって。でもとみちゃんには見えないかもね。そういう力は弱そうだから」

「……俺の守護霊弱いのか?」

「うーん、守ろうっていう気合いはあると思うよ。それに、とみちゃんのことがすっごく大好き」


 大好きと言われて悪い気はしなかったが、それを上回る弱い情報のせいで素直に喜べない。


「どんな感じ?」

「どんな感じ、一言で表すとふわふわ? 毛玉?」

「ふわふわ、毛玉」

「このぐらいの毛玉が、いつも周りを飛んでいるよ」


 このぐらいと言って拳を握った。それが大きいのか小さいのか、聡見には判断できない。ただ弱いというのが納得できた。毛玉に守護霊としての力があるとは、期待するのも可哀想だ。

 少し落ち込む聡見に、フォローするように良信は続けた。


「でも、前と比べたら力はつけてるよ。大きくもなったし。初めて会った時なんか、ホコリが浮いているのかと思ったぐらいだったから」


 励まそうとしているのであれば、言葉選びに失敗していた。さらに落ち込む聡見に、良信はとどめの言葉を突きつける。


「それに可愛いよ。ふわふわしてて。だから、その可愛さに引き寄せられることもあるんだろうね」


 引き寄せられるのは、人ではない。守護霊のせいで危険な目に遭ったこともあるだろう。霊が見えるのも守護霊が原因か。

 いない方が安全な気がする。そう心で思いつつも口にはしなかった。自分を大好きらしい守護霊を傷つけたくなかったからだ。


「……まあ、いるだけありがたいか」

「そうだよ。それに大事にしてあげれば、きっといつかとみちゃんの助けになってくれるって」

「……ん、ほどほどに期待しておく」


 今も自分の周りを飛んでいる守護霊に、力が弱くてもいいから見てみたいものだと、聡見はもう一度周りを確認した。しかし、ホコリすらも見当たらなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る