第30話 献身


 学校で飼っているうさぎが、急に具合を悪くした。ぐったりと横たわり、全く動かなくなってしまったのだ。原因が分からないまま、1匹がそのまま死んでしまった。

 病気だったのかもしれない。たくさんの生徒が悲しむ中、飼育当番は今まで以上にうさぎの世話をするようになった。

 しかし、またうさぎが体調を崩した。それを皮切りに、次々と他のうさぎも様子がおかしくなった。

 これはさすがにおかしいと、前よりも詳しく調査が行われた。その結果、うさぎの餌に玉ねぎやチョコなど害がある食材が混ぜられていたと判明した。

 うさぎ小屋付近に監視カメラはなく、犯人だと断定できるような怪しい人物も目撃されなかった。内部犯が疑われ、うさぎ小屋を先生が分担して見回りするようになった。しかしその隙を狙って、混入が続いた。


 飼育当番で6年生の大菅みずきは、うさぎの世話を熱心にしていたので、特に悲しんでいた。死んだうさぎの墓を作り、死んでしまったのは自分のせいだと責めた。周りがどんなに慰めても、みずきはその意見を変えなかった。

 新しくうさぎを飼う案も出たが、犯人も分かっていない中で同じことが起こったら大変だと、それは流れた。

 ただ、みずきのクラスでは落ち込んだ彼女を励ますために、メダカを飼おうという話になった。提案したのは、みずきと最も仲がいい里香だった。

 反対意見もあったが、結局教室の後ろに水槽が設置され5匹のメダカが入れられた。うさぎの件もあってか、みずきはつきっきりでメダカの世話をした。朝早く来て、放課後はギリギリまで残る。1匹1匹に名前をつけて世話をしているうちに、段々と元気を取り戻していった。

 しかし、それは長く続かなかった。みずきはいつも通り一番に教室に来て、荷物を置く時間すら惜しいと水槽の元へ行った。


「どうして……」


 昨日まで元気に泳いでいたはずのメダカは、1匹残らず腹を上にして浮いていた。ポンプが作り出す水流に逆らわず動かされている様子は、どこからどう見ても死んでいた。みずきは信じられないと、すぐには事実を受け入れられなかった。

 そのまま固まっているうちに、クラスメイトが登校してきて死んでいるのに気づいた。そこからは大騒ぎになり、担任にすぐに知らされた。


 調査の結果、餌のやりすぎが原因だと分かった。前日に、誰かが餌を大量に水槽へ入れた。

 しかしそれが誰かまでは、いくら調べても特定出来なかった。

 ただ生徒の間で、みずきが怪しいという噂がどこからか流れ出した。うさぎもメダカも世話をしていたのはみずきだ。それにメダカに関しては、遅くまで残って世話をしていた。

 噂はどんどん広まっていき、ついにはうさぎに玉ねぎやチョコをあげているところを見た、教室からコソコソと逃げるように出ていくところを見ただのと、信ぴょう性に欠ける証言も出てきた。

 みずきはうさぎやメダカを殺したとして、クラスメイトから無視されるようになった。それでもいじめにまで発展しなかったのは、里香がみずきが犯人ではないと主張して見捨てなかったおかげである。


「私はみずきちゃんのせいじゃないって信じているからね。みずきちゃんがそんなことするはずないもん」


 そう言って慰める里香に、みずきは涙をにじませた。


「……ありがとう。里香だけが私の味方だよ」


 2人の姿は、友情を感じさせるものだった。




「……うわあ」


 その様子を遠くから見ていた聡見は、まずいものでも食べたぐらいに顔をしかめる。

 聡見の隣に座っている良信は、視線の先を見て納得した。


「ああ、よくやってるよねえ」


 目を細める良信は、聡見と同じものを見ていた。


「どっちもどっちと言うか……だから反対だったんだよ。うさぎもメダカも巻き込まれて可哀想だ」

「そうだね。ちゃんとバチは当たるから、それに次はないよ」

「……ん」


 みずきと里香の周りには、うさぎとメダカがいた。そのどれもが恨みのこもった目をしていた。

 どちらがどちらに何をしたのか、知りたくもないと聡見は視線を外した。良信が言うバチが早く当たれと願いながら。

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