第29話 蔵
良信の寺には、呪われた品がしまわれている蔵がある。蔵は2つあり、どちらにしまうのかは明確に決められていた。
――本物か偽物か。言葉にすれば簡単だ。しかしそれを見極める目を持ち合わせ、分ける作業を行える人はそうそういない。
特に良信は、その作業が得意だった。出来る人がするのが、一番効率がいい。父である住職の考えで、月に一度ほどの頻度で良信は整理を任された。
「本当に勘弁してほしいよねえ。面倒だから押し付けてきているだけなんだよ。古いのとか、重いのとかあるし」
預けられた品を分けるだけでなく、蔵の中も点検しなければいけない。偽物は、期間を定めて置いておく。基本的には年末まで。それまで何も無ければ、後はまとめてお焚き上げをする。こちらはそこまで大変ではなかった。埃がたまらないように、掃除をするだけでいい。
問題は本物だった。それぞれに込められた念の強さが違い、いつまでといった期間を定められなかった。お祓いは済んでいるが、簡単には終わらない。諦めるまで、蔵に留めておく。
「でも、諦めたってどうやって分かるんだ?」
蔵の話は何回も愚痴として聞いていたが、聡見は詳しいことを知らなかった。入ってもいない。そのため、どうなっているのか何の情報も持っていなかった。
「凄く分かりやすいよ。ある日突然、砂にみたいに崩れるの。それまでは、どんなにきれいな状態だったとしてもね。形を維持する力が無くなった証拠。でもそれを片付けるのが面倒かな。掃いて、清めて、寺の焼却炉で燃やす」
「ああ……だから、蔵の整理した後に会うと、モヤモヤしていることがあるんだな」
整理にも色々苦労があるだろうし、そこまで悪いものではなさそうだと放置していた。聡見としては、別に重要なことを言ったつもりはなかった。しかし良信は驚いた表情を浮かべた。
「え、とみちゃん分かるの?」
「分かるって何が? 変な感じがしているとは思っていたけど……まずいのか」
良信が純粋に驚いている様子が珍しく、感じるのが良くないことなのかと、聡見は言ったのを後悔する。
いや、後悔したのは良信の表情に嫌な予感がしたからだ。そしてその予感は当たる。
「とみちゃん、今度の休みちょーっとバイトしてみない?」
「え、いや、俺は……」
「大丈夫大丈夫。お礼はたっぷり弾むから」
「それ、蔵に関係しているだろう。絶対に嫌だからな」
抵抗虚しく、次の休みに聡見は蔵の整理をしていた。もちろん危ないことはしていない。二度目はしないと聡見は決意を固めていたが、バイト料が思っていたよりも多く、それからも何度か手伝うこととなった。
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