第28話 視線


 どこからか視線を感じるようになったのいつだったか、美花はよく覚えていない。

 ただ気づいた時には、すでに強い視線を向けられていた。

 初めは、ストーカーの仕業だと考えた。その頃ちょうど、美花はアルバイト先のコンビニで同僚から告白されていた。完全に友達としか見ていなかったので、断ったのだが逆ギレされてしまった。店長に間に入ってもらい、一応は解決したのだが諦めていない可能性は高い。

 それか、同級生もありえた。自意識過剰と言われるかもしれないが、美花は告白を数度されたことがあるぐらいは人気があった。

 直接告白してくれば、断れるし相手も諦める。しかし思いを告げずに、その感情を大きくさせているタイプもいた。そういう中の一人が、拗らせて突飛な行動に出たのかもしれない。

 警察に相談するべきか、美花は考えたがすぐに無駄だと却下した。視線を感じると言ったところで、それこそ自意識過剰だと思われる。犯人の姿を見ていない、実際に視線を向けられているのか定かではないから、余計にそう思われてしまう。仮に犯人を見たとしても、実害がないから動けないと言われれば終わりだ。

 とりあえず、警察に相談するのはまだにする。もう少し、犯人について情報を集めてから検討し直そうと決めた。


 そうなると、まずは犯人を見つけなくてはならない。本当に見られているのか。

 美花はまず、視線がどの辺りから向けられているのか調べることにした。見られているのを確信するために、姿を把握しなければならない。

 ストーカーの確認をするのは気味が悪いが、わがままを言っていられなくなった。確信が持てれば、他の人に相談も出来る。自意識過剰ではなく、実際に被害を受けていると。

 しかしこれが難航した。視線を感じる時期も場所もばらつきがあって、そちらを見ても人がたくさんいる――なら、まだ仕方ないが違った。それなら、何度も見かける人を怪しむことが出来る。事態はそう簡単にいかなかった。


「どういう、こと?」


 美花は信じられない気持ちで、頭を抱える。

 視線を感じた時に、相手に悟られないように探していたが見つからなかったのだ。

 それらしき人物がではなく、人の存在すらもなかった。誰もいないのに、視線だけは感じる。視線を感じるのは、自分の部屋にいる時だけだった。カーテンも閉めているから、外から見られるわけがない。

 ありえない状況に、美花は人間以外の存在を疑うしかなくなった。

 視線はどんどん強くなる。絶対に見られている。ただ、それが人間以外だとなってしまうと、余計に相談するのが難しくなった。

 絶望的な中、美花はそういったことに詳しい人物がいると噂で聞いた。寺に行けば、何とかしてくれるかもしれない。

 そう期待して行った先で、美花は今まであったことを包み隠さず説明すると、良信はすぐに結論を出した。


「それは、霊じゃないね。紹介するから、ここに相談しな」


 言いながら渡されたのは、弁護士の名刺だった。



 美花が帰った後、聡見は良信に話しかけた。


「結局、犯人は何だったんだ?」


 話しかけたというよりも質問に近い言い方に、良信は眉を下げる。霊なら祓えるが、そうでないものは簡単に終わらない。泥沼が分かっているからこそ、悲しげな表情になった。


「すぐ近くにいる人、かな」


 それ以上は何も答えなかったが、聡見はだいたい察した。

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