第27話 酷い話
少女は孤独だった。
親は彼女を疎ましく思い、育児を放棄した。アパートに一人、ゴミに埋もれて生きていた。食べ物を探して、賞味期限の切れたパンを見つければ嬉しくてたまらなかった。これでお腹いっぱい食べられる。
すぐに食べたい気持ちを抑えて、ゆっくりと噛みしめるように貴重なパンを楽しんだ。
いい子で待っていれば、お父さんもお母さんも褒めてくれる。
頭を撫でてくれて、お菓子をいっぱい食べられて、おもちゃもたくさん買ってくれるはず。
そう信じて、少女は待っていた。
しかし帰ってくる親は、少女にどこまでも冷たかった。
「やだっ、汚い。どうしてこんな汚してるの。信じられないっ」
「うわ、腐っているじゃねえか。ハエもたかって。気持ち悪い。……なんだよ、まだ生きているじゃないか」
久しぶりに帰ってきたかと思えば、ゴミで溢れた部屋に顔をしかめ、そして中心でやつれてぐったりと倒れている少女を睨みつけた。
「おい、何してるんだよ。そんなところで寝てるなよ。邪魔だな」
苛立ちをぶつけるように、母親がまるでボールみたいに蹴りあげた。簡単に飛ぶ体。
「おぼえてるの、それだけ。きづいたらここにいた」
話し終えた少女に、良信も聡見もすぐに声を出せなかった。
少女は公園で1人立っていた。ぼんやりとしていて、遊ぶ様子のない彼女は体が透けていた。
死んでいる。すぐに気づいた聡見だったか、何故か怖いと感じず少女に話しかけた。
どうしてここにいるのか。そう尋ねると、彼女は自分に起こった出来事をなんてことないように語った。そのあまりの酷い内容に、それを酷い話だと思っていない少女が痛ましかった。
同情の言葉をかけたとしても、彼女には届かない。その様子から感じ取った聡見は、少女の言葉を抱きしめる。
体はすり抜けず、抱きしめられた。聡見は、良信が何かしてくれたのだと視線で礼を伝えた。
「……おにいちゃん、あったかいね。ふふふ……」
自分の体温が移ればいいと、聡見は痛くないほどの力で抱きしめていれば、少女はくすぐったそうに笑いながら、そして消えていった。
腕の中にいた存在が無くなっても、しばらく聡見は動けなかった。最後に少しでも少女が喜んでくれたのなら良かったと考えつつ、他に何も出来なかった自分の不甲斐なさに拳を握った。
「……良信」
聡見はずっと傍で見守っていた良信の名を呼ぶ。それだけで聡見の考えが伝わった。
「そうだね。後悔させないと気が済まないかな。同じぐらい苦しませよう」
「ああ……長く続かせろよ」
「おっけー」
少女が受けた苦しみよりも、さらに地獄を見せてやると聡見も良信も静かに怒りをあらわにした。
それからある1組の夫婦が、精神を病んだ。事故で亡くなったとされる娘の姿が見えると、自分達を恨んでいるのだと、殺したのを認めて懺悔したが許されるわけがなかった。
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