第24話 通じない


 聡見が怖いと感じる存在は、通じない相手だ。

 言葉はもちろん、常識が通じない相手がとても怖い。

 霊には何種類かいる。

 未練があって残っているもの。恨みがあって祟っているもの。自分が死んだと気づいていないもの。それ以外にもいる。

 その中でタチが悪いのが、話が通じないタイプだった。しかし聡見はどんな存在に対しても、無視をして対処をするから会話をしかけたりはしない。

 ただ、良信と出会ってからは変わった。変わったといっても、積極的に話しかけるわけではない。そんな命知らずの真似はしない。良信が全て悪かった。


「何言ってるか分からない。もっと分かるように話してくれないかなあ?」


 声というよりも、不明瞭な呻きだった。音になっているのかさえも微妙なところ。良信がはっきり話せと要求するのも無理はない――とは、聡見にはどうしても思えなかった。


「良信……それと意思疎通できると、本気で思っているのか?」


 聡見が尋ねると、良信はそれを棒でつつきながら振り返る。


「出来るかどうかじゃないよ。するの」

「いや、でも上手くいってないし」


 棒でつついて対話を試みているが、ヘドロのような形態の相手は聞き取れる言葉を話さない。無駄な行為だと聡見は思うけど、良信が諦める気配はなかった。

 ニコニコと笑っている姿は、ご機嫌だと勘違いしそうになる。しかし確実に怒っていた。

 その理由は明白だ。聡見が襲われかけた。これだけで十分だった。


「謝れないみたいだから、こうやって頭を下げさせているの。一度言い聞かせないと分からないから。同じ過ちを繰り返さないために、きちんと教える必要があるんだよ」


 つついているところが頭なのか、聡見には判別出来なかった。もう何を言っても止められないと、良信が満足するのを待った。

 最終的に聞き取りづらくはあったが、ヘドロから謝罪らしき言葉が出たため、悪夢の時間は終わった。

 やはり常識の通じない相手は怖い。そう聡見が再確認した出来事だった。

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