第18話 壊れて消える


 中学生の一時期、聡見はとある教師に目をつけられていた。

 その年に赴任してきた、42歳の男性教師。名前は本吉といい、目つきの鋭い顔立ちをしていた。

 女子には甘く、男子には厳しい。あからさまな差別をしていた中、特にこれといった理由なく聡見がターゲットにされてしまった。


「おい、校則より髪が長いんじゃないか。ああ、やっぱり長い。たるんでるな。俺が切ってやるよ」


 聡見よりもずっと髪が長い男子がいたにも関わらず、あからさまに難癖をつけられていた。髪を強く引っ張り長いと言い張ると、ハサミを出して切ろうとする。完全に体罰でありえない行動だが、本吉はずるがしこく人がいない時を狙って行った。

 聡見は、もちろんやられっぱなしではなかった。


「他の先生には言われたことないですけどね。先生の見方が間違っているんじゃないですか。他の先生に確認して、それでも駄目だって言うなら自分で切ります」

「あぁ?」


 ここで理論立てて言い返してしまうから、余計に本吉を苛立たせるとは分かっていても、聡見は大人しくしていられなかった。それに、自分から別の人にターゲットが変わるのも嫌だった。

 ターゲットに選ばれるとしたら、良信の可能性が高いからだ。直接的な被害は無いので、しばらく我慢しようと様子見していた。


「ねえ、とみちゃん。何か隠していることない?」


 そんな聡見に、良信は早い段階で気づいた。

 帰り道、どうしたのかと尋ねてくる。気づいてくれた喜びを感じながらも、聡見は首を振って笑った。


「そんなことないって」

「本当に?」

「本当本当」


 目を見たら嘘がバレそうで、聡見は顔をそらして答える。良信はその顔を、じっくりと見つめる。


「ふぅん」


 全くごまかされていない良信だったが、聡見も負けなかった。絶対に認めないという強い意志を持ってとぼけ続けていれば、折れたのは良信の方だった。


「……そういうことにしてあげるよ」


 上手くやれたと安心していた聡見。

 しかし、それが間違っていたと知ったのは翌日の事だった。

 本宮が学校を休んだ。そして、その後一度も学校に来ることなく、いつの間にかいなくなった。ある生徒がちらりと見た時には、うつろな顔をして歩いていたらしい。その髪はまるで無理やり切られたようなぐらい、ざんばらだったという話だった。

 良信が何かをした様子がない。しかし聡見は確信していた。


「なあ、隠していることないか?」


 それに対する良信の答えは一つ。


「そんなことないって」

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