第15話 近所のスーパー
中学生の頃、聡見が通っていた学校の近くに新しいスーパーができた。
チェーン店ではなく個人が経営しているタイプで、サラリーマンだった男性が会社を辞めて夫婦で切り盛りしていた。
開店当初は物珍しさもあり、連日大盛況だった。最初が肝心だと、かなり安い値段で売っていたからだ。聡見の母も、何度か買い物に行っていた。聡見が荷物持ちとしてついて行ったこともある。
しかし時が経つにつれて、段々と客足が減っていった。経営努力をしていなかったわけではない。むしろ積極的にイベントを行ったり、セールを行ったりしていた。
ただタイミングが悪いことに、近所に大型ショッピングモールが建設されてしまったのだ。品揃えも、サービスも、努力していた値段さえも負けて、店の客は一日に数人来ればいい方というレベルまで落ち込む。
近所のよしみで利用していた人達も、そのうち行くのを避けるようになっていく。大型ショッピングモールに流れたのではなく、店の様子がおかしくなったせいだ。
経費削減だと、電灯を少なくしたせいで店内は昼間でも薄暗く、商品は棚に隙間ができるほど少なくなった。
さらに客が離れる原因となったのは、並んでいる商品が腐っていた事件が起こったからである。魚にハエがたかっていて、さすがにこれはと誰も近寄らなくなった。
それでも、しばらくは営業を続けていた。
チラシを近所に配り、イベントやセールを行っている姿は、顔色が悪く鬼気迫るものがあった。
会社を辞めて、大金をはたいて開店したので後がなかったのだ。しかしその姿は同情されるよりも、恐怖の対象になった。
ますます人が寄り付かなくなり、いつしか忘れされた。
そんな頃、聡見は良信とたまたまそのスーパーの前を通りかかった。
前に母に連れられて行ったことがあり、それ以降は近くを通ることがなかったので記憶から忘れ去られていたが、あまりの変貌ぶりに驚いた。
「ここって、潰れたの?」
そう思ったのも無理がないほど、店は寂れていた。駐車場には雑草が生えていて、ガラス越しに見える店内はとてもやっているようには見えなかった。
「まだ潰れてないよ。まあ、時間の問題だけど」
良信は興味なさげに、一度だけ店に視線を向ける。そして目を細めて言った。
「あんなの売ってるようじゃ、さすがにね」
あんなのというのがなにか、聡見は後悔するのが嫌で詳しく聞けなかった。
しばらくして、スーパーは閉店した。夫婦がどうなったのか、店で何を売っていたのか聡見は知らず、そして店があったことすらも時が経つにつれて忘れていった。
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