第14話 おとしもの


 道に何か落ちていても、聡見は絶対に触らない。

 目の前で誰かが落とした時にも、追いかけて声はかけるけど、物自体を拾ったりしない。別に潔癖症とか、意地悪をしているわけではなく、前に拾おうとした際良信に言われたからだ。


「落し物は、物だけでなく別の何かを落とすために、わざと捨てている可能性があるから……関わりたくなければ、誰が落としたとしても拾わない方がいいよ。どんな人でもね」


 さすがにそこまで気をつけていられないと、聞いた当初は思っていた。

 しかし、ある日道を歩いていたら、目の前でおばあさんがお守りを落としたことがあった。ボロボロだったが、長年大事にしているようだったので、すぐに拾って渡しに行こうとした。拾おうとした瞬間、良信の言葉を思い出して手が止まる。

 考えすぎだとは分かっていても、忠告は聞こうと聡見は拾うのを止めて、おばあさんに声をかけた。


「あの、落としましたよ!」


 前を歩いていたおばあさんは振り返り、聡見がお守りを拾っていないのを視界に入れる。

 ――そして、忌々しげに舌打ちをしたのだ。


 それから聡見は、道に落ちているものには絶対に触らなくなった。

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